完璧という以上に〝落ち度のない〟兄

 なんでもサクッとこなしちゃう優秀な兄と、ちょっと不出来なその弟のお話。

 弟の語りの形で綴られた、現代ものの掌編です。
 単純な好悪では表しきれない複雑な感情、「兄への執着と劣等感を長年拗らせまくった結果の何か」もう本当にすごい!

 主人公(弟)、決して兄のことが嫌いなわけではないんですよね。
 むしろ好き。それは彼の語りからもちゃんとわかるのに、でもどうしようもなく伝わってくる謎の不穏さ。
 それも、彼の話しぶりの穏やかさ、どこかのんびりとしているところ〝から〟嫌な予感が漂ってくる、というのがまたすごい。この感覚、読んでてとても楽しい……。

 お兄ちゃんが好きです。優秀で、完璧で、なのになにひとつ嫌味な部分のないところ。
 そして、それが弟の目線からは、「落ち度のない」という感想になるところも。

 終盤の展開なんかもう最高でした。
 なんというか「わかっていたけどもうそうなるしかない展開」みたいな感じが本当に好き。
 そうなってほしくない展開であり、でもどうしようもなく理解できてしまう展開でもあって、胸を滅茶苦茶に掻き乱されてしまう……。

 兄弟という関係性独特の距離感、またそれが故に生じる軋轢や葛藤のようなものが好きな方にもおすすめ。
 ホラーではあるのですけど、怖いの苦手な方でも全然楽しめるタイプのお話だと思います。
 とても素敵な作品でした。