第6話 第一部完
村に戻ると、村長であるジェフリーが出迎えてくれた。
「おぉ!無事じゃったか!!」
ジェフリーは安心した様子で言う。
「えぇ、なんとか倒すことができました」
夏樹は笑顔を浮かべながら言う。
「倒した……?一人で戦ったのか!?」
ジェフリーは驚いた表情をする。
「えぇ、まぁ……」
夏樹は照れ臭そうに答える。
「無茶をしすぎだ……!!」
「すみません……」
夏樹は頭を下げる。「まあよい。無事に帰ってきたんじゃ。まずはゆっくり休んでくれ」
「ありがとうございます!」
夏樹は礼を言うと、エリスを見る。エリスは、申し訳なさそうな顔をしながらも微笑んでいた。
「なっちゃんが無事でよかったわ」
「エリスさんのおかげだよ!」
夏樹はエリスに感謝する。
「さて、これからどうするか考えないとね……」
夏樹は真剣な顔つきになる。
「えぇ……そうね。まずは、ワイバーンのことを村の人たちに伝えるべきだと思うわ……」
「うん……そうだね。でも、どうやって伝える?」
夏樹は首を傾げる。
「私がワイバーンに乗って、空を飛びながら、村の人に呼びかけましょう」
「えっ!?」
夏樹とミリアが驚く。
「大丈夫よ!ワイバーンには乗れるし、私なら魔力を使って、風を起こして飛ぶことができるから」
エリスは自信満々に答える。
「いや、でも……」
「そうよ!危ないよ!」
夏樹とミリアは反対するが、エリスは引き下がらない。
「でも、他に方法はないでしょ?」
エリスは冷静な口調で話す。
「それは……」
夏樹は言葉を失う。
「私は、なっちゃんと一緒に行くわ!!」
ミリアは夏樹の腕を掴む。
「ミリアまで……」
夏樹はミリアの顔を見つめるが、彼女の目は本気だった。
「私だって、なっちゃんと同じ気持ちよ!!私だって、なっちゃんのことが好き!!だから、なっちゃん一人だけ危険な目に遭うなんて嫌よ!!」
ミリアは必死に訴える。
「ミリア……」
夏樹はミリアの言葉を聞いて、胸が熱くなる。
「それに、エリスさんのことも心配だし……」
ミリアは小声で呟く。
「ミリア、あなた……」
エリスはミリアの言葉を聞いて、驚きの声を上げる。
「そうね……ミリアちゃん、ありがとう」
エリスは優しく微笑む。
「いいえ……そんなことないです」
ミリアは恥ずかしそうに俯く。
「じゃあ、早速行きましょう!!」
「えっ!?今すぐ?」
「善は急げっていうでしょ?」
「いや、でも……」
「なっちゃん、お願い!!私にも協力させて!!」
ミリアが懇願するように言う。
「う~ん……」
夏樹は迷う。
「じゃあ、決まりね!!」
「ちょ、ちょっと待ってよ!!まだ、俺は何も言ってないだろ!?」
夏樹は慌てて言う。「あら?なっちゃんは行かないのかしら?ミリアちゃんだけに任すつもり?」
「そ、そういうわけじゃないけど……」
夏樹は戸惑った表情をする。
「ほら!なっちゃん!早くしないと日が暮れちゃうわ!」
「そうよ!行こう!なっちゃん!」
「わかったよ……」
夏樹は観念したようにため息をつく。
「そうと決まれば、早速準備をしましょう!」
エリスは笑顔を浮かべながら言った。
夏樹たちは、村長の家に戻り、村人たちに事情を説明した。
「なるほど……それは大変だ」
レオンは腕を組みながら深刻な顔つきで言う。
「それで、これからどうするんだ?」
ライアンは夏樹に尋ねる。
「はい。俺たちはこれからワイバーンに乗って、ワイバーンの巣に向かいます」
夏樹が答えると、ミリアが驚く。
「えっ!?ワイバーンに乗るんですか!?」
「あぁ……そうだよ」
「大丈夫なんですか?」
「多分ね……」
夏樹は苦笑いしながら答える。
「本当に大丈夫なのか?」
レオンが心配そうな顔をして夏樹を見る。
「はい!大丈夫ですよ!いざとなったら、私が何とかしますから!」
ミリアは胸を張って言う。
「ミリアちゃんが?」
「はい!私はボウガン使いですから!」
ミリアは自分の武器であるボウガンを見せる。
「そういえば、そんなことを言っていたね」
夏樹はボウガンを見ながら言う。
「そうよ!私だって戦えるわよ!!」
ミリアは腰に手を当てて、得意げな表情をする。
「でも、危ないよ……」
夏樹は不安な表情でミリアを見つめる。
「何言っているのよ!!私だって、エリスさんと一緒に戦うわよ!!それに、夏樹だけ危険な目に遭うなんてずるいわよ!」
ミリアは頬を膨らませながら抗議してくる。
「別に俺だけってわけじゃ……」
夏樹は言いかけるが、「夏樹くん、お願いできないかな?ミリアちゃんやエリスさんのことも頼んだよ……」
村長が申し訳なさそうに頭を下げる。
「は、はい……わかりました。
夏樹は村長に頼まれると、断りきれずに承諾してしまう。
「ありがとう……君たちのおかげで、村の皆が助かるよ……」
村長は涙ぐむ。
「そんな大袈裟な……」
夏樹は照れくさそうに頭を掻く。
「じゃあ、早速準備しようぜ!!」
レオンは立ち上がり、嬉々として言う。
「レオン、あんまり調子に乗るんじゃないぞ!!」
ライアンが釘をさすように言う。
「わかっていますって!!」
レオンは笑顔を浮かべたまま言う。
「全くお前って奴は……まぁいいか」
ライアンは呆れた表情をしながら呟いた。
「とりあえず、俺は食料を集めてきます」
夏樹は立ち上がる。
「俺も手伝おう」
「私も行きます!」
レオンとミリアは名乗り出る。
「私も行くわ!」
エリスが名乗るが、夏樹はそれを断る。
「いや、今回は、ミリアちゃんだけに頼むよ」
「えぇ!?どうして!?」
ミリアは不満げな声を上げる。
「だって……、ミリアちゃんはまだ戦いに慣れていないだろ?だから、まずは俺が先に偵察に行くよ。もし何かあったらすぐに逃げるよ」
「そっか……わかった」
夏樹の言葉を聞き、ミリアは納得する。
「じゃあ、早速行こうか」
「ええ!!」
夏樹とミリアは家を出て、村の入口へと向かう。
「ミリア、気をつけてね!」
「うん!大丈夫よ!」
ミリアは笑顔を浮かべながら答える。
「本当に大丈夫なのか?」
夏樹は不安そうな顔を浮かべながら尋ねる。
「大丈夫よ!任せておきなさいよ!」
自信満々なミリアを見て、夏樹は心配そうな顔つきのまま、村の外へと歩いていく。
夏樹たちは、ワイバーンの巣に向かうため、村の外に出て、森の方に向かって歩いている。
「ワイバーンの巣までどのくらいかかるんだい?」
夏樹はミリアに尋ねる。
「うーん、多分1時間ぐらいじゃないかな……」
ミリアは地図を見ながら答えてくれる。その言葉を聞いて、夏樹は驚く。
「そんなにかかるのかい?結構遠いね……」
「そうね……でも、仕方ないわよ。空を飛ぶ魔物だしね」
ミリアは苦笑いしながら言う。
「そうだね……」
夏樹はそう言いながら、自分の左手を見る。そこには、銀色に輝く指輪がある。それは、エリスから貰った魔力増幅装置である。
「ねぇ……夏樹くん……」
「何だい?」
夏樹はミリアの顔を見ると、彼女は頬を赤らめている。「どうしたんだい?」
「あのさ……今更だけど、夏樹くんって、好きな人いるの?」
ミリアは上目遣いをしながら尋ねてくる。
「いるよ……」
夏樹は、恥ずかしげもなく答える。
「そっか……やっぱり、セリアさんかな……」
ミリアは寂しげな表情で言うが、夏樹はそれを否定する。
「違うよ」
「えっ!?」
夏樹の言葉に、ミリアは大きな瞳を見開く。
「じゃあ、誰なのよ!?」
ミリアは不機嫌そうに言う。
「内緒だよ……でも、俺にとって一番大切な人なんだ」
夏樹は、笑顔を浮かべながら言う。
「ふぅ~ん、そうなんだ」
ミリアは不満そうに呟く。
「まぁいいや……夏樹くんも頑張ってね!」
ミリアは笑顔を浮かべながら夏樹にエールを送る。
「ああ!」
夏樹も笑顔で答える。
「そういえば、夏樹くんは、エリス様のことが好きじゃないの?」
ミリアは不意に疑問を投げかける。
「好きだよ……、でも、俺には身分が違いすぎるよ」
夏樹は俯きながら言う。
「そんなことないと思うけどな~」
ミリアは、夏樹の言葉を聞いて微笑む。
「いや、俺は普通のサラリーマンだからね」
夏樹は自嘲気味に笑う。「そうかしらね?私から見たら、夏樹くんは立派な勇者だと思うよ」
ミリアは笑顔を浮かべながら言う。
「そうか?俺なんてまだまだだよ」
夏樹は照れながら頭を掻く。
「あっ!あれじゃないかしら?」
ミリアは指をさす。その先には巨大な洞窟があり、入り口には2体のワイバーンの姿が見える。
「ミリアちゃん!危なくなったら逃げるんだよ!」
「うん!」
ミリアは元気よく答える。
「じゃあ、行ってくるよ!」
夏樹はそう言って、ワイバーンの巣へと入っていく。巣の中に入ると、そこには卵を守る親鳥がいた。夏樹は左手に装着している指輪を見て、自分の魔力を確認する。
(魔力はまだ残っているな……)
夏樹は自分の手を見ながら考える。
指輪からは銀色の光が溢れ出しており、まだ十分に魔力が残っていることを知らせてくれている。
「私が援護するわ!」
ミリアはボウガンを構えて叫ぶ。
「わかった!!」
夏樹は叫びながら、剣を抜いて駆け出す。
「グギャアァーーーーーーーーーーーー!!!」
親鳥は夏樹に向かって口から炎を吐き出す。
その攻撃を、左手を前に出して防御の呪文を唱える。すると、盾が現れて、夏樹を炎から守る。
「今だ!!ミリアちゃん!!!」
夏樹は大声でミリアに指示を出す。
「任せて!!」
ミリアは返事をすると同時に、矢を放つ。
放たれた矢は、一直線に飛んでいき、親鳥の眉間に突き刺さった。
「ギヤャャーーー!!!」
親鳥は断末魔を上げながら倒れ込む。
「やったぜ!」
夏樹はガッツポーズをして喜ぶが、油断はできない。夏樹はすぐに剣を構え直す。
「大丈夫?」
ミリアが心配そうに尋ねてくる。
「ああ……」
夏樹は笑顔を浮かべながら答えたが、内心はかなり動揺していた。
「やっぱり、夏樹くんは強いね」
ミリアは笑顔を浮かべて言う。
「いや……、俺なんかまだまだだよ」
夏樹は苦笑いを浮かべながら答える。
「そうかな?私から見たら、夏樹くんは立派な勇者だよ!」
ミリアは笑顔を浮かべながら夏樹に話す。
「ありがとう。そう言ってくれて嬉しいよ。でも、俺はもっと強くならないといけないんだ……エリスを守るために」
夏樹は真剣な表情で答える。
「そう……。じゃあ、頑張ってね!応援してるよ」
ミリアは微笑みながら言う。
「ああ!」
夏樹も微笑んで返す。
「じゃあ、行きましょう」
ミリアはそう言うと、巣の奥へと進んでいく。
夏樹もその後に続く。
奥に進むにつれて、ワイバーンの数は増えていき、中には強力な個体も存在した。夏樹は、その度にミリアに助けられながら、ワイバーンを倒していく。
「夏樹くん!気をつけて!そいつは、今までの奴とは比べ物にならないくらいに強いわよ」
ミリアは夏樹に注意を促す。
夏樹が対峙したワイバーンには、他の個体よりも一回り大きく、鱗の色は赤黒く変色しており、その眼光は鋭く、こちらを見据えていた。
「こいつは、俺が相手になるよ!」
夏樹はそう言って剣を構える。
「わかった。無理しないでね!」
ミリアはボウガンを構えながら答える。
「わかってる!危なくなったら逃げるよ」
夏樹はそう言って、目の前のワイバーンに向かって駆け出す。
ワイバーンは翼を広げ、威嚇するように吠えると、口から炎のブレスを放つ。夏樹はその攻撃を、左手を前に出して防御する。盾が現れて、炎を防ぐ。
「今だ!!」
夏樹は叫ぶと同時に剣を振り下ろす。
「ギャャャーーー!!」
ワイバーンは断末魔を上げて倒れる。
「やった!!」
夏樹はガッツポーズをして喜ぶ。
「おめでとう!!」
ミリアは拍手をしながら、夏樹に近寄る。
「ありがとう!!」
夏樹は笑顔で答える。
「これで、夏樹くんも一人前の勇者だね!!」
ミリアは嬉しそうに言う。
「そうだね。でも、俺はまだ未熟だから、これからも頑張らないとね!」
夏樹は照れ臭そうに頭を掻きながら言う。
「じゃあ、帰ろう!」
ミリアはそう言って、歩き出す。
「ああ!」
夏樹はそう答えて、ミリアの後に続く。
こうして、夏樹たちは、無事に村に帰り着くことができた。
村に戻ると、村人たちが出迎えてくれた。その中にはセリアの姿もあった。
「やったね!!二人とも!!」
セリアは笑顔を浮かべて話しかけてくる。
「ああ、なんとかな……」
夏樹は苦笑いを浮かべて答える。
「夏樹くんのおかげだよ!本当にありがとう!」
ミリアは笑顔を浮かべて話す。
「そんなことないよ……」
夏樹は照れて頬を掻く。
「いや、夏樹がいなかったら、私達全滅してたよ!それに、夏樹がワイバーンを倒した時の雄姿はカッコよかったよ!」
ミリアは興奮気味に話し続ける。
「もう、いいよ!恥ずかしいだろ!」
夏樹は顔を真っ赤にして答える。
「あははっ!ごめんね!」
ミリアはそう言って笑うと、夏樹はため息をつく。
「さぁ、村長さんのところに報告に行くぞ」
夏樹はそう言うと、先に歩いていく。
「待ってよ~!!」
ミリアは慌てて追いかけていく。
こうして、二人の初めてのクエストは終わりを告げる。
しかし、これは始まりに過ぎない。
彼らの戦いは、まだまだ続く……。
【第一部 完】
異世界転生物語 MINT @MINT_MINT
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