第5話 魔物退治

「……いよいよね」

エリスは緊張しながら呟く。


「大丈夫。きっとうまくいくよ……」

夏樹は優しくエリスの手を握る。


エリスは夏樹の顔を見てうなずく。

「……こちらです」


ライアンはそう言って、先頭に立って歩き出す。


「はい……」

夏樹はエリスの手を引いて後を追う。


これから戦う相手は強大な敵である。それはわかっているが、不思議と恐怖はなかった。

夏樹は隣を見ると、ミリアが不安げな表情を浮かべていた。


「大丈夫?」

夏樹は、優しく声をかける。


「うん……」

ミリアは自信なさげに答える。


「そんなに心配なら、一緒に戦おう」

夏樹は、ミリアに提案をする。


「えっ!?」

ミリアは驚いた顔を見せる。


「俺達には、仲間がいるだろ?俺達は一人じゃない。みんなで協力すれば、どんな困難にも打ち勝てるはずだよ!!」


夏樹の言葉にエリスは微笑む。

「夏樹の言う通りよ。それに、私もあなたを守るわ……」

エリスはミリアを見つめて言う。


「……ありがとう」

ミリアは二人にお礼を言う。


「さぁ、行こう……」

夏樹はミリアの手を握り、エリスと一緒にミリアを連れて歩く。三人は村の広場へと向かう。


村の広場は、静まり返っていた。

村の男たちは、武器を手に持ち、戦闘の準備を整えている。


「来たぞ!!」

一人の男が叫びながら、村の入口の方を見る。


「あれが……?」

夏樹たちもそちらの方へ視線を向ける。そこには、二人の人影が見える。


「……えぇ」

エリスは静かに答えた。

「あれが、私たちを滅ぼすものたちよ」

「……」


夏樹はその言葉を聞き、改めて気を引き締めた。

-俺が守るんだ。

「来るぞ!!」

誰かが叫んだ。


その瞬間、地面が揺れ、地響きが起こる。

ゴォーッ!! 激しい風が巻き起こり、砂埃が舞う。


次第に視界が開けてくる。

「……ドラゴン!?」

夏樹は思わず声を上げる。


「……ワイバーンね」

エリスが冷静に答える。


確かによく見ると、巨大な翼と尻尾を持ち、鋭い牙と爪を持った爬虫類のような生き物だった。


「……でも、どうして……」

夏樹は驚きながら呟く。


「恐らく、私が呼んだからでしょう……」

エリスは夏樹に説明する。


「私達が使う魔法は、魔素と呼ばれる魔力の元を使って発動します。つまり、魔素はどこにでもあるのです。それを媒介にして、私たちは魔法を使うことができます」

「そうなんだ……」


夏樹は納得したようにうなずく。

「じゃあ、俺が持っているスマホやタブレットも……」


「はい。おそらく、あなたの持つ端末の中にも魔素が蓄積されているはずです」

エリスはうなずきながら答える。


「なっちゃん、何の話をしているの?」

ミリアは首を傾げながら尋ねる。

「いや、なんでもないよ……」


夏樹は苦笑いを浮かべてごまかす。

「それより、どうしたらいいかな?」

夏樹は話題を変える。

 

「そうね……。まずは、ワイバーンの動きを止めないと……」


エリスはそう言って杖を構える。

「わかった」


夏樹はそう言って、スマホを取り出す。

『ソード』


夏樹は音声入力をしてアプリを立ち上げる。すると画面には剣の絵が現れる。

夏樹は剣を抜き、構えると、画面に映った絵が実体化する。


「えっ!?」

ミリアは驚いて声を上げる。


「大丈夫だ。これは俺にしか見えないんだ」

夏樹は、慌てるミリアに説明をする。

 

「凄いわね……」

エリスも驚いた表情を見せる。


「うん。俺もびっくりしているよ」

夏樹は苦笑しながら答える。夏樹は、画面のワイバーンに向けて狙いを定める。

「いけ!!」


夏樹は掛け声とともに、ワイバーンに向かって走る。


ドサッ!! 鈍い音が響く。

「グゥッ!!」

ワイバーンは悲鳴をあげる。

「よし!!」

夏樹は喜びの声を上げた。

「ナイスよ、なっちゃん!!」

ミリアはボウガンを構えて叫ぶ。


ボウガンから放たれた矢は、見事にワイバーンの首筋に命中していた。

「今のうちに、動きを止めるわよ!!」

エリスはそう言うと呪文を唱え始めた。すると、地面に大きな魔法陣が描かれる。


「なっちゃん!!」

エリスが叫び、夏樹が駆け出す。夏樹がエリスの前に立つと同時に、激しい雷がワイバーンに降り注ぐ。


「グアァッ!!!!」

ワイバーンは激しい叫び声を上げて、その場に倒れ込む。


「やった……!」

夏樹は安堵のため息をつく。


ワイバーンはそのまま動かずに横たわる。

「まだよ!!気をつけて!!そいつはまだ生きているわ」


「えっ!?」

夏樹は慌てて、再び剣を構える。


すると、倒れたはずのワイバーンがゆっくりと起き上がる。

「嘘だろ……」

夏樹は呆然と呟く。


ワイバーンは鋭い目つきで二人を見つめている。

「……どうやら、私たちの命を狙っているようね」


「そんな……」

夏樹は愕然とする。

「なっちゃん、大丈夫よ。私が必ず守るから……」


エリスはそう言って微笑む。

「ありがとう……」


夏樹はうなずく。

「さぁ、戦いましょう!!」


エリスは杖を構えて、夏樹に声をかける。

「わかった……」


夏樹も覚悟を決める。

ワイバーンは、二人を見て口を大きく開けると、そこから炎を吹き出した。

ゴォーッ!! 夏樹とエリスは左右に別れるように避ける。


「なっちゃん、危ないわ!!下がって!!」

エリスは叫ぶ。


「大丈夫!!俺に任せてくれ!!」

夏樹はそう言って、ワイバーンに向かって走り出す。


「グガァッ!!」

ワイバーンは、口から火を吹き出す。


「させるもんですか!!」

ミリアが、ボウガンを放つ。ボウガンから放たれた矢はワイバーンの顔に命中した。


「ギャアアッ!!!」

ワイバーンは悲鳴を上げる。

「ミリア、ナイスだ!!これで動きは封じたぞ!!」


夏樹はワイバーンに近づく。

「えぇ!!一気に決めましょう!!」


夏樹は剣を振り上げ、ワイバーンに向かって走る。


「グゥッ……グゥッ!!」

ワイバーンは苦しそうな声を上げながらも、夏樹に向かって、鋭い爪で攻撃してくる。


夏樹は、その攻撃をギリギリまで引きつける。


ドサッ!! ワイバーンの攻撃が夏樹に当たる直前、彼の姿は消える。


「こっちだよ!!」

夏樹はワイバーンの背後に現れる。


「なっちゃん!!」

エリスが叫ぶと同時に、ワイバーンの首筋から血が吹き出る。


「グオォッ!!」

ワイバーンは再び悲鳴をあげる。


「とどめよ!!」

エリスの声とともに、巨大な氷柱がワイバーンに向かって飛んでいく。


「グアァッ!!」

ワイバーンは悲鳴をあげ、その場に倒れる。

「やった……!」


夏樹は安堵のため息をつく。

「やったわね!!」


ミリアは嬉しそうに叫ぶと、ボウガンを構える。

「ミリア、待って!!」

エリスは慌てて叫ぶ。


「えっ!?」

ミリアは驚いて振り返ると、そこには首から大量の血を流し、絶命しているワイバーンの姿があった。


「ワイバーンは死期を悟った時、自分の心臓を取り出して、それを食べさせることで、自らを犠牲にしてでも相手を道連れにする習性があるのよ」


エリスは険しい表情で説明する。

「そんな……」


ミリアはボウガンを構える。

「ミリア!!やめろ!!」

夏樹はミリアの腕を掴む。


「離せ!!あいつは私達を殺そうとしたんだぞ!!」


ミリアは抵抗する。

「ダメだ!!ここで殺しちゃいけない!!」

夏樹は必死に説得する。


「どうしてよ!!なっちゃんだって、殺されそうになったじゃない!!」

ミリアは反論する。


「確かにそうだ……。だけど、こいつは俺たちを殺していない。それに、俺達はこいつを殺したら、俺達の敵と同じになってしまう……」


夏樹の言葉を聞いて、エリスはうなずく。

「そうよ、ミリア。私たちが倒すべき相手はこのドラゴンではないわ……」


エリスはそう言って、ミリアを説得しようとする。

「くそぉっ!!」

ミリアは悔しそうに叫ぶ。


「ワイバーンを倒したことを、村のみんなに伝えよう!!それでいいな?」


夏樹は二人に問いかけると、二人は静かにうなずいた。


「わかった……行こう」

夏樹は二人を連れて、村に戻ることにした。

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