第3話
あたしは、どうしたらいいのだろう。
こんな時、どうしたらいいのだろう。
笑えない。
本っっ当に、笑えない。
あの日、列車に乗っていた幼馴染は事故に遭った。
あたしはたまたまパンプスの踵が折れて列車に乗らなかった。だけど幼馴染は偶然あの列車に乗っていて、事故に遭ったのだ。
祝日だというのに今日も朝からまた、あのおじさんたちが来ている。
例にもれず我が家の玄関先に車を停めて、バン、バタン、とドアを叩きつけるようにして開閉している。
「いやねえ。また来てる」
ママがそっと愚痴を零した。
あの人たちはいったい、何のために幼馴染の家にやって来るのだろう。
怖い顔をして、偉そうな態度で、つんけんしながら車をあたしの家の前に停めて。
息を潜めて部屋にこもっていると、またおじさんの携帯の着信音が聞こえてきた。
『いや、何度も謝りに来てやってんのに、今日も出てこないんだよ。こっちだって暇じゃないっての。忙しい中何度も来てやってんのに……』
そんな声が聞こえてくる。
どういうことよ?
謝りに来てやってんのにって、どういうこと?
おじさんたちの勤め先の鉄道が、あたしの幼馴染を殺したんだよね?
事故直後にはまだ息があったのになかなか救助活動してくれなくて、殺しちゃったんだよね?
それなのに、謝りにきてやってんのに?
よくそんなことが言えるよね。
幼馴染の家からはお線香のにおいが流れてきて、今日は読経の声もかすかに聞こえてきている。
「警察を呼ぼうかね」
おばあちゃんがポツリと呟いた。
我が家の玄関前に停められた車は三台。真っ黒な、高級そうなピカピカの車だ。まだバタン、と音が聞こえてきている。
あたしが顔を上げると、おじいちゃんが電話の受話器を上げるところだった。
あたしは自分の部屋の隅っこに座り込むと、ヘッドホンをつけてCDプレイヤーのスイッチを入れた。子どもの頃に幼馴染と一緒に聴いた曲を、大音量で流す。
CDプレイヤーから流れ出る耳に刺さるような大きな音楽を聴きながら、あたしはいつの間にか眠っていた。
夢の中であたしはぼんやりと、幼馴染はもうどこにもいないのだと思った。
あたしの幼馴染はあの事故で亡くなったのだと、ようやく実感が湧いてくるような気がした。
後年、あたしは鉄道会社の事故のニュースを見るたびに思い出す。
鉄道会社の人たちは、あの事故に対してどれだけ真摯に向き合ったというのだろう。
亡くなった人の家族に対して説明をするため訪問して回るのは大変なことだろうけれど、謝りに来てやってんのにだとか、何回来ても出てきやがらないとか、それってどうなんだろう。
これで彼らは、真摯に向き合ったと言えるのだろうか。
会ってもらえないからと苛立ち、関係のない他人の玄関口に山のような煙草の吸殻を投げ捨て、大きな顔をして自分たちの車を停めてドアを乱暴に開閉して。
いったい彼らは、どう思って謝りにきていたのだろう。
人を殺してしまったお詫びにきているのだという自覚は、なかったのだろうか。
そんなふうに嫌悪感を抱いたとしても、日々の生活において列車を使わないではいられない。
あたしは今日も、列車に乗る。
生活のため。自分のために。
その時、あたしは 篠宮京 @shino0128
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