マスタープラン
無限想起
プロトコル:01
ライトニングフレームによる強圧的な世界の統治を掲げ、武力行使による支配を目論むスカーレット社の兵士募集の広告には驚いた。
単身、身体一つだけで兵舎兼戦艦内部に潜り込み、下積み1年が経過する頃だ。
しかし、いまだ本命の
いつもの食糧やその他生活必需品の充当、母艦の整備のため地上に降りてきている。
搭乗員、LF訓練生にはひとときの休暇のようなものだ。
「やぁ、ドロレス!訓練は順調かな?」
メカニック志望のリリックだ、あまり友人を作ると、この空飛ぶ要塞を離れる時に情が湧くだろうから、こいつ以外との人付き合いは避けている。
「こなしてるだけ。」
訓練のことを思い出すと不満を抑えきれなくなる。この世界に平等や公平さなんて無いことはよく知ってるのに。
「そっけなーい、新しいLFの情報持ってきたのにさ。」
態度を変えないといけなくなった。まとまった長い人生の期間をライトニングフレーム搭乗に懸けてきた。
LF訓練生の演習ではいつもトップの強さになった、そろそろ初陣になってもおかしくはない。何度も人殺しをするイメージトレーニングは行った、覚悟は出来てる。
「それは聞きたいな、リリック。」
実物は壮観だった、リリックに案内され、ライトニングフレームの格納庫に意気揚々やってきた、ひと際異彩を放つ機体が二機、補給基地から受領される過程だった。
カスタマイズと組み上げは終わっており、すぐに起動できる状態だと開発担当が搭乗員へ声高らかに発言している。なんて都合がいいんだ。
「左から雷電初式、富岳初式となっています。」
すぐにでも強引に乗りこんで大空へ飛んでいきたいくらいだけど、この新型LFの正規パイロット任命の報せを待つ。ドロレスは、この機体の動向を注視しながら生活を続けることにした。
LF開発の前後で時代は激変した。電気の登場、張り巡らされたWeb、人間の代替となるAI。いつの世も時代を動かしてしまうのは、本物の一つだけ、至高の想像力だ。
わたしにもLFがあれば、あんなことにならなくて済むんだ。
ここに来る前のことを思い出しながら、ベッドの上に横たわっている。
よくある話だ、私の住んでいた都市の上空はLF同士の戦場になり、当たり前のように流れ弾で滅んだ。私は地下の避難シェルターの中で家族で唯一生き残った。
LFのパイロットたちは一体どんな気持ちで火器のトリガーを引くのかが純粋に気になった。それでスカーレットの兵士募集の広告に飛びつくようにすぐさま応募した。
戦争が起きているから戦う、戦わなければ死ぬ、自分を守るために人を殺す。
理由なんてそれだけだった。
LFはこの間違った世界における唯一の説得力として機能している。
スカーレット、ナイトフォックス。
二つの大国はLFの製造と破壊を繰り返し続け、戦火で人間の総数を劇的に減らし続けている。
醜い人間は居なくなった方がいい。わたしはそう本気で思ってる。
どのみちこの先の人間に救いなどない、それを私は早めてやろうというわけだ。
ドロレスがうとうとと眠りへ誘われそうな矢先。
突然、異常を搭乗員へ知らせるけたたましいアラート音が鳴り出した。
ベッドから飛び起き、手早く身体へ対人火器を装備した後に部屋を出る。
この戦艦を襲う狙いがあるとしたら、新型のライトニングフレームしかないじゃないか。艦内の廊下を必死で蹴り、LFの格納庫を目指す。
格納庫に着いたが、当然既に遅かった。雷電初式と富岳初式は侵入者に奪われ、外で戦闘をはじめている。LFによる豪快な轟音がひっきりなしに鳴っていることが戦闘が行われている実感をドロレスに与えてくれる。
巡ってきたチャンスが今まさに奪われそうだがそうはいかない。辺りを見回し、目についた旧式LFの搭乗席へ後先は考えず飛び乗った。
「私だってもう戦えるはずなんだ」
搭乗席のスイッチを訓練通りに全てON。モニターに自機LFの情報が細かく表示される。ポータビリティバッテリーは二つ装填してある。エネルギーが
「こいつは動く。」
すぐさまスカーレット共通のVCにチャンネルを合わせ、戦況を伺い知りたい。
「こちら、ドロレス・コード。敵方の情報をお教え願います。」
「訓練生ですか、緊急なので止むなしです、搭乗を許可します。」
当たり前だろう、早く情報をよこせ。おぼつかない操縦で武装を探しているが、一つも見当たらない。雷電初式もしくは富岳初式と戦うのに、素手では勝率は無いに等しいだろう。
「残念ですが、稼働している基地の残りLFはあなただけとなりました。」
「正規兵はみなやられたと?」
なんてこと、確かに外でどでかいLFコアの爆発音、味方LFが散ったらしい。このままだとわたしは一機で新型二機とやり合う。
「これで残りLFは二機になったよ。」
通信から聴こえる声からしてリリックだ。これで多少勝てる見込みは増えてない。数だけだ、対等になったのは。
リリック機は艦内で落ち合ったドロレス機へ一つ武器を手渡す。
「今乗っているLFで使える武装はハープーンガンだけだね。」
「嘘だって言ってほしいくらい。」
受け取った訓練用非殺傷武装のハープーンガンの動作をチェックしていると、基地の司令部から通信が入る。残り少ないLFに乗ったからには、戦闘に向かえという指示だった。
「その武装ではLFの装甲を貫通できませんが、
「そんな無茶な作戦で戦えと言うのですか?」
「速やかに出撃してください。」
確かにハープーンガンをPBへ当てることが出来れば、敵LFはエネルギーの供給を失い、動作を停止するだろう。
今日が初陣のわたしとリリックに動くLFのPBを狙って壊せるような操縦テクニックは果たしてあるのか。
「敵LFが艦内へ向かい、戻ってきます、即座に交戦を。」
リリックは覚悟を決めている様子で資材搬入口より入ってくる敵LFの死角となる場所にあたりをつけ、壁に張り付くようにして待機を始めた。
「ドロレスは向かい側でお願い、挟めばどちらかが自由に撃てる。」
「了解」
エンジニアのくせにわたしより肝が据わってるじゃない、いいさ、やってやる。
訓練では一位の成績なんだ、多少は戦えるはず。どこからでもかかってくればいい。
通常の設計だとPBはLFの背面に備え付けられている。背面を取らなければ、PBを狙い撃つことは不可能だ。
熱源探知レーダーに映る機影を確認する、艦内へ戻ってきた機体は一機のようだ。
ドロレスはレーダーを凝視し戦闘のイメージ、手に自然と力が入ってしまう、落ち着け。次第に敵LFの足音が大きくなり、射撃のタイミングを心の中で計りだす。
曲がり角で正面からの出会いをしたのは、ドロレスだ。
わたしかよ、敵LFが火器を自分に向けて構えようと腕を駆動させる。
ドロレスはリリックがPBを破壊してくれるのを祈りながら、真横にブーストを噴射し、敵LFのレールハンドガンの銃口から自機をずらしながら、ハープーンガンの狙いを定める。
「リリック、なにやってんの!」
ドロレスのハープーンガンは雷電初式の火器へ命中、武装を失ったと踏んだドロレスは武装を装備していない片腕を意識する。前方へダッシュし距離を詰め、素手で組み付きを始める。さらに操縦席の辺りの装甲にボディーブローを三度叩き込む。
敵パイロットへ直接的に拳が効いたはずだが、ドロレスは組み付きを剥がされ、前蹴りを浴びてしまう。自機LFを大きく揺さぶる振動が操縦系統を握る手を滑らせる。
リリック機は敵LFのPBをハープーンガンの銃口で必死に追いかけているが、一向に射撃する気配がない。仕方ない、もう一度動きを封じて、リリックの射撃を補助したい。
ドロレスは、自機の体勢を立て直し、ハープーンガンを背面に収納し、素早く両の腕で体術の構えを取る。すると雷電初式は腰に装備されている近接武装を抜刀した。
そのタイミングで、雷電初式の後ろを取っているリリック機がハープーンガンを射撃する。射出された先端のアンカーは、PBに命中せず決定打は与えられていない。
だめだ、リリックは戦闘向きじゃない。
人生の大事な場面で期待できるのはいつも自分だけだ。
雷電初式のブレードがリリック機を斬撃し、上半身を吹っ飛ばす。操縦席を狙った的確な斬撃だったが、咄嗟にしゃがんだことで狙った場所より上方に少しずれたようだ。
リリックの必死に助けを求める通信がノイズと共に耳を劈く。わかってる。
敵LFが私から視線を外した隙にもう一度、拳の射程距離までブーストをかける。
こちらに振りかえった刹那、ハープーンガンを鈍器のように、操縦席部分の装甲へ叩きつける。
敵LFの動きが鈍くなり隙が大きくなる、さらに追撃を行う。ゼロ距離でハープーンガンを装甲へ押し付ける。操縦席が位置しているあたりの装甲を削り取るように無理やり引き剥がし、"内容物"を引き抜いた。
「ごめん。」
ドロレスは泣き叫ぶ内容物を手の中で握りつぶし、雷電初式との戦闘に勝利した。
これが命のやり取りを行うLF同士の戦いなんだ、ドロレスは不覚にも敵軍のパイロットを殺害した時、大きな興奮を覚えた。
初のLF撃破に深い感傷を抱きながら、一部損壊した雷電初式の操縦席にドロレスは手早く移動し機体を乗り換える。
「殺したの?」
「当たり前でしょう、これは戦争なんだよ」
管制塔より通信が入る。敵方の富岳初式は予備のPBを抱え、この補給基地から離脱したらしい。幸運にも、操縦席という弱点が剥き出しのまま戦うことはないらしい。
しかし、基地の被害は甚大だ、多くの正規兵や機材を失うこととなった。
この戦闘がナイトフォックス側によるLFの強奪作戦だったことは言うまでもない。
スカーレットとナイトフォックスの冷戦状態は解かれ、二つの大国による滅びの争いが再び起ころうとしている。
マスタープラン 無限想起 @mugen_souki
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