靴の中 蠢いている 運転中

靴の中 うごめいている 運転中


(爬虫類・両生類などが苦手な方は閲覧注意⚠️、ブラウザバックを推奨します)


 迂闊だった。下駄箱から取り出した靴だからと安心していた。


 この土地で暮らしてから靴を履く前にまず爪先の部分を持って靴底を叩き合わせたり、逆さにして振ったり、横着なときは運動靴なら放り投げたりしてから履くことにしている。


 御想像の通り、これらのアクションは靴の中に、なにか生き物が潜んでいる可能性を用心してのことだ。主に毒虫の類を警戒している。


 そして冒頭に戻る。出勤時で乗用車の運転中、右の靴の中でナニカが蠢いた。


 何がいるか分からないが、いきなり車内で靴を脱ぐのはナシだ。危険な生き物が車内で潜伏することになるかもしれない。かといって後続車との車間距離が極度に短いこの国では急な減速だけでも危険過ぎる。


 爪先の感触はガサゴソではなく、もそりだ。今のところ痛みはないが、それなりの大きさと圧力を感じる。これは虫ではない! 小さな毒ヘビという最悪のケースを覚悟しつつ、信号待ちで停車するタイミングを待つ。


 停車後、そっと運転席のドアを開け、素早く靴を脱ぎ、爪先掴んで逆さに振って叩きつける! すると中から出てきたものは・・・・・・


 温泉饅頭だった。


 いや、大きめの温泉饅頭に四肢がついたような茶色くて真ん丸なカエル、和名アジアジムグリガエルだった。小さい身体のクセに雨の日にはウシガエル並みの大音量で鳴く。だが晴れた日は無口のようだ。


 人騒がせな温泉饅頭はぴょこたんぴょこたんと去って行った。


 饅頭の行方は誰も知らない。

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