私は馬が嫌いである。

義本 依之

私は馬が嫌いである。

 人の恋路を邪魔する者は馬に蹴られて死ぬという。


 全く腹立たしいことこの上ない。


 何故馬如きに人の恋路を守られなければならないのか。そもそもドラ○エに登場する馬は人の恋路を邪魔するどころか人生の邪魔者をやっていたではないか。そんな畜生が私の行く手を邪魔するなんて片腹痛い。


 私はそんなことを考えながら目の前に立ちはだかる馬を睨みつけた。




「……貴様。どうあっても私の邪魔をするというのだな?」


「当然だ。チョロ子とヤリ男の初デート。お前のような下衆の極みがむやみに干渉していいものではない」


「これは裏切者に対する制裁だ。あのクソ野郎には報いを受けてもらわなければならない」


「何だと?」




 馬はブルルルと身体を震わせながら疑問の声を上げる。


 私は下唇を強く噛みながら、ヤリ男の罪を赤裸々に語った。




「貴様も知っていると思うが、我々は『硬派倶楽部』という神聖なサークルに所属している」


「リア充爆撃団の間違いだろう」


「何だその物騒な名前は。何処の宗教団体と間違えている?」




 私が所属する『硬派倶楽部』は恋人いう煩悩製造機を徹底的に拒み、恋愛という脳の異常機能を引き起こす要因を限界まで排除し、常に理性を保つことで人間らしい文化的な生活を守護するという崇高な組織なのだ。


 だからこそ知らない間に彼女を作るという最大の裏切りを犯したヤリ男には制裁を加えなければならない。


 即ち、死。


 極刑である。


 別に嫉妬とかしているわけではない。奴は殺す。




「お前は愚かだ。種族が繁栄していくためには男女の仲は必要不可欠だ。馬である私でも知っていることだぞ。だからこそ私の子孫は国中にいるのだ」


「種馬風情は黙ってろ!」




 私は馬が嫌いである。特にこういうさりげなく雄としての威厳みたいなのを自慢してくるタイプは大嫌いだ。




「行け、お前たち! その馬を殺っておしまい!」


「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおーーーーーッ!!」」」


「何!?」




 この街には至るところに『硬派倶楽部』の構成員が潜んでいる。たかだか馬一頭如きに遅れを取るわけがないのだ。


 馬は咄嗟に後ろ脚を駆使して何人かを吹き飛ばしてしまったが、問題ない。


 あらゆる場所から私の仲間が現れて、次々と馬に飛び掛かっていった。


 そしてその間に私は改造モデルガンに弾を込め、奴の意識の外から引鉄を引く。




「うがぁあああああああああああああああああああああああああああ!?」




 弾はうまい具合に馬の股間にクリティカルヒット。


 奴はこの世の者とは思えない呻き声をあげ、口から泡を吹き、白目から涙を流して地に伏した。


 しかし馬の周りには私の仲間たちの屍も転がっており、無傷の勝利と呼ぶにはあまりに失ったものが多すぎる。


 私は思わず涙を流しながら叫んだ。


 こうなったのも全てヤリ男とチョロ子のせいだ!




「すまん! 貴様らの仇は必ず取る!」




 私は仲間の屍を越えて抹殺対象がデートしているであろう公園に向かって走った。




 ◆




「会長! ヤリ男の奴、騙されてました!」




 目的地にたどり着くと、先に偵察していた斥候から衝撃の事実を告げられた。




「その話詳しく」


「はい! チョロ子のやつ、実は美人局をやってたんです!」


「何ぃ!? それでヤリ男は」


「目の前で寝取られプレイを見せつけられて心が壊れ、廃人となりました! ついでに身ぐるみも剥がされて靴下以外何も着ていない状態です!」


「なら良し!」




 そんな地獄を味わったのならもう此方から制裁を加える必要はないだろう。


 しかしチョロ子の奴、何となく怪しいとは思っていたがまさかそこまで性根が腐っていたとは。


 おかしいと思ったんだよな。ヤリ男の奴に彼女ができるなんてさ。




「ところで相手は誰だった?」


「馬です!」


「そうか! 殺そう!」




 話は纏まった。


 どうやら相手は俺たちが戦った馬とは別馬のようだが、これだから馬というやつは信用できない。


 裏切者とは言えヤリ男も被害者。あいつの仇を取るのも『硬派倶楽部』の仕事のうちだ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

私は馬が嫌いである。 義本 依之 @moonbard

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ