第88話 閑話 加害者のその後


 渡辺美月と橋本心菜視点で書いています。

 エピローグですっきりとした読者様は読まなくても結構です。


――――― 


 私、渡辺美月。高校一年の二学期に高田賢二から捨てられて以来、誰も私と口をきいてくれなくなった。


 理由は簡単。周りが私の事を祐樹を裏切って高田に乗り換えたヤリマンビッチと見る様になったからだ。


 高田に捨てられてから厭らしい男子達が私を誘って来る事もあったが、それは全部断った。だから私は高田しか知らない。でも周りはそんな目で見てくれない。


 高田に捨てられてからはいつも祐樹を見る様になった。彼は男子からも女子からも人気が有る。

 もし祐樹と友達に戻れば、いえ話をする事が出来る様になれば、周りの私を見る目も変わるはず。そう思って、何とか祐樹と話すチャンスを待っていた。


 そして二年生一学期の始業式の日。祐樹が非常階段の方へ歩いて行く姿を見て追いかけ、非常階段の踊り場で、私は土下座をして祐樹に許しを請うた。そして最後には祐樹から許しが出た。でもその時だった。門倉野乃花から


『渡辺さん、祐樹は口をきくと言ったけど、馴れ馴れしくしないでね。貴方が祐樹の傍にいると汚れるわ。あんたなんか高田がお似合いよ』


 私は悔しかった。そしてこの女がいる限り私は祐樹と話す事が出来ない。だからどうにかしたいと思ったけど、私一人ではどうしようも無いと思い、考えながら下校している時、やはり祐樹を裏切った橋本さんの肩の落ちた歩く後姿を見て、これは利用できると思った。


 

 私はその日のうちに橋本さんに私の考えを話した。この人なら私の考えを他の人に漏らすはずが無いと思ったからだ。


 考えとは、お互いの元セフレを利用して門倉野乃花を貶め、祐樹に近付かない様にさせる事だった。橋本さんは一時躊躇したが、直ぐに賛成してくれた。


 元セフレたちには、門倉野乃花を貶めたら私達も抱かせてあげると言っておいた。頭に脳なんて入っていない二人は喜んでこの件を受けてくれた。


 でも実際は、門倉野乃花を貶めた頃合いを見計らって警察を呼び、あの男達を捕まえさせることだった。

 そうすれば、あいつら捕まり刑務所行き。私達が指示したなんて白を切るか、前の関係を理由に脅迫されたと言えばいい。



 高校二年の二学期の体育祭二日目の日、高田賢二と田中耕三をグラウンドの用具倉庫で待たせて、門倉野乃花を祐樹の話をネタに連れて入った。


 あの時の門倉野乃花の顔は見ものだった。直ぐに状況を察したのだろう。顔を真っ青にさせて逃げようとしたけど、二人に摑まり殴られてブラウスや下着をはぎ取られた。後はこの二人に頼んでおけば終わった後、連絡をくれる…はずだった。


 だけど何処から情報を得たのか知らないけど祐樹が門倉野乃花を助け、あの二人を気絶するほどなぐりつけて門倉野乃花は軽傷のまま助けられた。後から聞いた話だけど、二人共鼻は潰れ頬骨は折れて、田中耕三は睾丸が片方潰れたそうだ。


 そしてあの二人が警察に摑まると同時に私と橋本さんも先生方に摑まり警察に引き渡された。




 高田賢二と田中耕三は、監禁罪、暴行罪、不同意性交等罪、器物破損罪で十年の実刑判決になったと私の弁護士から聞いた。慰謝料も相当な額払ったそうだ。


 私は、橋本心菜誘った上、男二人に指示し実行を助けたとして検察から同罪を求刑されたが、初犯であったことや実際には手を出していない事等も考慮され五年の実刑判決となった。

犯行を実行した時、未成年であったにも関わらず、何処からか実名が漏れた。これがどれだけ大変な事かは後で弁護士から聞いた。


 もうあれから三年が経った。まだ出所の目途は経っていない。女子少年院だけど、私みたいに長い奴は始めてだと看守に言われた。普通は二、三年で出るらしい。もう主の様な存在になっている。


 もし、高田の甘言に乗らずに祐樹の傍にいれれば、今頃、彼と一緒に楽しい大学生活を送っていたかもしれない。

 ほんとう私ってバカだよね。いくら考えても今となってはあの時の自分が全く理解できなかった。


 なぜあんな事をしたのか


 あのまま門倉野乃花の言葉を甘んじて受けていれば、


そのまま高校を卒業していれば、


そのまま大学に入っていれば


もっと違った風景が見れていたはずなのに。


こんな目に遭わずに済んだのに。



 私の名前がばれたお陰で、お母さんはパートを止めさせられ、お父さんは会社にいずらくなり退職した。そして近所からは酷い言葉を投げかけられたらしい。


 慰謝料を払った後、家を売り払いお父さんの実家に一時二人で身を寄せたそうだけど、田舎では都会以上に冷たい目で見られ、結局、どこかの田舎に引越したらしい。


 場所は、聞いても忘れるだろうから私が出所したら教えてくれるって言っていたけど。前は毎週の様に面会に来たのが二週間に一回になり、月に一回になり、最近半年は親の顔も見ていない。

 もう親にも見捨てられたのかな。私の目には殺伐とした風景しかみえなかった。



 私、橋本心菜。三年生の文化祭二日目に警察に摑まって以来、鑑別所にいた。本来七年以上の刑に処せられるところだったが、私自身が渡辺美月にそそのかされた事、私はまだ未成年であり、初犯だった事から、四年の保護観察処分が付いた判決が言い渡された。


 でも学校は当然退学、未成年者だから実名は伏せられたけど、それでも人の口に戸は立てられないという。


 お父さんは会社に居づらくなり退職、お母さんもパートを止めた。その上、多額の慰謝料を払わせられた。近所からは冷たい目で見られ、今の家を売って田舎に引越す事になった。


 私は高校三年の秋に転校してくる生徒だからと変な目で見られた。優しく声を掛けてくれた女子も居たけど、何処から伝わったのか、私が転校した理由が知れ渡ると、もう誰も声を掛けてくれる人は居なくなった。


 知らない土地で、知らない高校で、誰も相手にされない。これだったら前の高校生活の方が余程良かった。


 何故、あの時渡辺美月の誘いに乗ったのだろうか。少し考えれば、杜撰な計画であることが分かるはずなのに。


 ただ祐樹と話が出来る、もしかして友達に戻れるかもしれないという妄想が、頭の中に有ったんだろう。

 今思えばあまりにも馬鹿な考え。あんな事したって、祐樹は私を許してなんかくれない、もっとひどい事になっているってなんで分からなかったのだろう。


 祐樹、ごめんなさい。本当にごめんなさい。出来ればもう一度彼に会って謝りたい。例えそれが自己満足だったとしても謝りたい。


――――― 


 少年犯罪や刑事、民事における犯罪量刑は、都度に裁判所の関係者によって勘案され決定される事項ですが、今回は作者の思いだけを記載しています。

 読者様の中にはこの手に詳しい方も大勢いると思いますが、小説故の事としてご配慮して頂ければ幸いです。


新しい作品は八月一日より公開します。題名は以下の通りです。


「恋愛連敗中の俺に裏の有りそうな女の子達が寄って来る」

https://kakuyomu.jp/works/16817330660747872714


また皆様とお会い出来る事を楽しみにしています。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

最初の彼女は寝取られて、次に付き合った彼女にはセフレが居て、不運な俺だったけど物静かで優しい女の子と仲良くなった @kana_01

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ