第87話 エピローグ 楽しい時間が流れていく


 俺達は、婚約をしてからもいつもと同じように学校に行き、勉強して帰った。婚約前と違うのは、野乃花の門限が少し遅くなった事だ。


 受験という事もあり、学校から帰った後は、二人で前に住んでいたマンションで一緒に勉強をして夕食を摂って午後九時半過ぎに野乃花の家に送るという事が日常化している。


 もちろん毎日勉強では疲れるので、俺が土曜日の午後道場に行った後と日曜だけは、自由にした。デートしたりあっちをしたり自由に使った。


 十一月初めに有った模試の結果も志望校は俺も野乃花もA判定。ちなみに水島さんも同じ大学の同じ経済学部に行く事になっている。緑川さんは同じ大学の英文に進むようだ。



 学期末考査、事実上高校の最後の考査も俺は学年順位三位と変わらないが、野乃花も六位に上がった。

 驚いたのは学年順位一位があの君津川亜希子さんだった。そしてなんと彼女も同じ大学の同じ学部に進むらしい。まあ、俺達には関係ないけど。



 お正月、工藤家の年末年始はいつもと同じだが、今年は兄さんが家にいる事が父さんにとってとても嬉しい様でお酒が大分進んでいた。


 ちなみに兄さんは、両足を義足にしている。今の技術は相当に優れている様だ。義足というのは全てオーダーメイドらしい。多少の小走りも問題ないと言っていた。


 これなら元通りに兄さんが後を継げばいいと父さんと兄さんに提案したが、義足はメンテナンスが結構あるらしく、月単位で海外に出かけている事は出来ないという事で思いは却下された。

 同じ物二セット作ればいいのにと思ったけど、色々有り過ぎる事は分かるので言うのは止めた。



 俺は元旦に野乃花と一緒に初詣に行った。めちゃくちゃ混んでいたけど浅間神社に行って、その足で野乃花の家に挨拶に行った。



 野乃花のお父さんは始めた会った時とは、まるで人が変わったように俺に優しく接してくれた。

そして早く成人になってお酒を一緒に飲もうと言って、野乃花とお姉さんからブーイングをされていた。



 四日には野乃花を俺の実家に連れて来た。君津川さんも一緒だったので、我家が急に華やかになり、女の子を産んでいない母さんは、自分の子供の様に喜んでいた。



 大学は俺、野乃花、緑川さん、水島さん全員が合格した。山手線内にある上知大学だ。

 俺と野乃花と水島さんは実家から乗換えなしで行けるけど緑川さんだけが、一回乗換えになる。本人は大した事ないと言っていたけど。




 そして三月第二金曜日、卒業式が有った。


「祐樹、いよいよこの学校ともお別れね」

「ああ、賑やかな三年間だったよ。でもこの高校に来たお陰で俺は野乃花と知り合えた。そういう意味ではこの高校に感謝かな」

「ふふっ、そういう意味では私も同じだよ。この高校に入っていなければこうやって祐樹の傍にいる事が出来なかったんだから」


「こほん、あのうお二人さん。二人の世界に入っているところ悪いんだけど」

 水島さんが声を掛けてくれた。


「「あっ!」」

 クラスの全員が俺達を見ている。


「もう、体育館に行くよ」

「…………」

 ちょっと野乃花との話に夢中になってしまっていた。緑川さんが笑っている。




 卒業式も終わり教室に戻って来たところで、野乃花と話していると君津川さんが、俺の所に来て

「工藤君、大学でも一緒ね。宜しく」

 それだけ言うと自分の席に戻って行った。


「祐樹、どういう事?」

「さぁ?」

 俺にも分からない。




 高校生活も終わり、四月から大学生になる。その前に大きな変化があった。兄さんが、君津川英里菜さんと婚約した。そして今年の秋に結婚式を挙げる事になった。


 俺達より婚約は遅かったが、結婚は早かった。まあ俺達の婚約は別の意味が有ったから分かるけど、でも俺はふと思った。


 兄さんに虫が付かない様に君津川さんと高校にいる間に何故婚約しなかったのかと聞いたが、付き合い始めたのが大学三年からだと言うので納得した。



 大学に入って夏休み前までに野乃花は何人もの男子学生から告白されたが、婚約指輪を見せると皆諦めたらしい。

 俺には女子学生から声が掛からないけど?この指輪は野乃花の虫よけか?


 水島さんも随分声を掛けられたらしいが、皆断ったそうだ。そう言えば緑川さんとも二年までは基礎科目が多いので一緒の時間が多かった。




 秋には兄さんの結婚式が有った。盛大な結婚式で、流石工藤家の長男と思った。そして俺が使っていたマンションは、兄さんと英里菜さんの新婚生活に当てられた。子供出来るまではそこで生活して良いらしい。


 俺は四年先の話なのでそんなものかと思っていると野乃花が

「ねえ、私達の部屋は?」

「えっ?」

「だって、あそこ使えなくなると困るでしょ」


 そういう事か。父さんに相談する訳にも行かないし、どうしたものか。大学の講義時間を考えると母さんがいない時に俺の部屋でなんて無理だし、野乃花の家も同じだ。


 そこで日曜日、どちらかの家族が居ない時にどちらかの部屋でする事にした。でも結構時間が限られる。


 結局…。ホテルを昼間予約して利用する事にした。まあ、その辺は母さんに何となく、本当に何となく事情を察して貰ってお金を出して貰うと言う情けない所では有ったけど、これを理由にバイトする訳にも行かないし。



 時が過ぎて二年の秋に緑川さんから彼氏を紹介された。今年の夏から付き合い始めたそうだ。

 それまでは、俺達とも一緒に行動を共にする事が多かったけどそれ以来、あまり会う事は無くなった。


 水島さんは、何故かことごとく告白を断っているらしい。かと言って彼が出来た様には見えなかった。


 野乃花が、前に彼は作らないの?と聞いた事が有るらしいが、もっと楽しい事が待っているかもしれないからと言ったらしい。意味は分からないけど。


 そう言えば、君津川亜希子さんは、俺達と付かず離れずで一緒に居た。



 俺が三年の時、ゼミで知り合った友達の中に俺を知ってる人がいて、それがゼミの中以外にも広まって…。


 結構、俺に近付いて来る人が急に多くなって、中には告白する人もいた。強引に俺と野乃花を引き離そうとする輩も現れたりと面倒な事もあったけど、婚約指輪のお陰で何とか全部かわす事が出来た。


 もちろん、その間も野乃花は告白されていたけど、婚約指輪を見せると肩を落として去って行ったそうだ。




 四年も終りの頃になり、水島さんが急に彼が出来たと言って来た。紹介してくれると言うので会ってみると、なんと小見川だった。


「工藤、久しぶりだな」

「ああ、久しぶりだな小見川、しかしどうして?」

 水島さん、小見川と会っている素振りなんか全然見せなかったのに。


「ふふっ、大学二年の時、偶然雄介(小見川の名前)を見つけたの。肩を落としながら歩いている彼に声を掛けたんだけど、少し前に彼女に振られたらしくてさ。

ちょっと可哀想だなと思って色々相談に乗ったりして会っている内に、まあこうなっちゃった訳」


 だからあの時、水島さんは野乃花に『もっと楽しい事が待っているかもしれないからと』言ったんだ。納得したよ。


「そうか、小見川良かったな」

「でも里奈、私にも優子にも何も言ってなかったよね」

「うん、相手が雄介だと中々言えなくてさ」

「なんで?」

「まあ、皆が雄介の事知り過ぎているでしょ。中々恥ずかしくて言えないよ」

「俺も工藤に言おうか迷ったんだけど、流石にな、同じ理由で言えなかったんだ」


「そういう事なら。でもなんで急に俺達に話す事にしたんだ?」

「それは…」

 小見川が偉く恥ずかしそうにしている。


「ちょっと日付間違えちゃって」

「えっ、えっ、えーっ。もしかして?」

「うん、そのもしかして。予定日は来年の六月。まあぎりぎりセーフかな」

「おめでとう。里奈。優子は知っているの?」

「この前電話で話した」

「そっかぁ」

「小見川良かったな?」

「ああ、でも里奈のお父さんに大分怒られた。順番は守れって」

「あははっ、それはそうだ」



 そんな事もあったけど、俺も野乃花も緑川さんも少しお腹が大きくなった水島さんも無事に卒業した。



 俺は直ぐに工藤ホールディングスの社長秘書として父さんと同じ動きをする事になった。仕事を覚える為だ。


 野乃花との結婚はこの秋にする事になっている。六月も終りの頃、二つのいい知らせが有った。


 兄と英里奈さんとの間に子供が出来た事、水島さんに子供が生まれた事だった。籍は大学卒業後すぐに入れたらしい。


 水島さんの子供はとても可愛い女の子で小見川の目尻は下がりっぱなしだった。ちなみに小見川は、水島さんの所に婿養子になって宝石商を継ぐらしい。仕事を覚えるのが大変だと言っていた。



 そして俺達は、秋に結婚式を挙げた。兄の時より更に盛大で身内と友人だけの内輪の披露宴と工藤ホールディングスと工藤グループの関連会社の関係者を招待した披露宴の二回に分けて行われた。


 友人の結婚式には、緑川さん、水島さんと夫(小見川)も呼んだ。当然、君津川亜希子さんも縁者として列席していたけど、今回も俺だけに睨んでいる様な気がした。


 二つの披露宴が終わった後、野乃花が疲れたと言っていたけど。


 新婚旅行は、EU各国をめぐる旅行で一ヶ月近く行っていた。


 そして兄さんが子供が出来た事で実家に入り、マンションはまた俺達の新居となった。ちなみに実家は俺達の為に増築をしている。


 新婚旅行からも帰って来て三ヶ月した時、

「ねえ、祐樹、出来たみたい」

「えっ!」

「だって、新婚旅行の時、あれが足らなくなって、ずっと付けないでいたでしょ」

「あははっ、そう言えばそうだったね。でも嬉しいよ」



 そして、俺達も実家に戻る事になった。出張の多い俺には、野乃花が実家にいる事は安心出来るし、何よりも母さんが、兄さんの子供の事と野乃花の事で、頬が緩みっぱなし、目尻下がりっぱなしで、忙しくて大変だわと嬉しそうに言っていた。



 偶に君津川亜希子さんが姉の子供を見に来るけど、何故か依然俺には冷たい視線を投げていた。

 俺、彼女に何か悪い事したかな?



 野乃花は、男の子を産んでくれた。子供を産んだ後も緑川さんや水島さんと連絡を取り合い、俺が仕事でいない時、偶に我が家に来て子供談議に花を咲かせている様だ。ちなみに今度は女の子が欲しいと思うのは俺の贅沢な希望かな?





 おしまい。


――――― 


最後まで読んで頂いた読者の皆様、大変ありがとうございます。また多くのご感想や誤字脱字のご指摘も頂き、嬉しい限りです。

五月四日の投稿開始以来、本日七月二十九日まで毎日投稿出来たのも、読者様の暖かいご感想が有ったからだと思います。ありがとうございました。


如何でしたでしょうか。

主人公工藤祐樹は、優しい上に流されやすい性格で最初の彼女渡辺美月は、手を出すのが遅れて寝取られて、二番目の彼女橋本心菜は切れないセフレが居て、やっと掴んだ野乃花との幸せも襲われたり、許嫁が現れたりと賑やかでしたが、最後には祐樹と野乃花、色々大変な事を乗り越えて結ばれました。

お題の物静かで優しい女の子…。野乃花、静かで無かったかな?


PS:この物語はこのお話で完結しますが、渡辺美月と橋本心菜の犯行の後を描いた「閑話 加害者のその後」を明日投稿します。

ここでもうスッキリお腹一杯という読者様は、読まれない方が良いと思いますが、あの二人どうなったと興味を持たれる方はお読み下さい。


新しい作品は八月一日より公開します。題名は以下の通りです。


「恋愛連敗中の俺に裏の有りそうな女の子達が寄って来る」

https://kakuyomu.jp/works/16817330660747872714


また皆様とお会い出来る事を楽しみにしています。

 

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