真実はいつも
―――――――――――――
??→○○○○○○
刑事・
端的に言うと、そんなことをしなくてもあの事件は解決した。冬城が一人の人物に問い詰めた時、犯人はその場にいたのだ。冬城が警察の人間だと知るとそいつは逃げ出したが、外にいた冬城の仲間・
兄を殺害し、女子生徒は自分のものになると思っていた節分だったが、その女子生徒は自分の中に双子の兄をつくり出してしまう。そのため、節分の計画は失敗に終わった。
節分は女子生徒の動向を静観していたが、高校二年生になってすぐ、教師・
雛菱桃李及び笹川七夕。教師と生徒という関係でありながら密かに交際していた。雛菱はその類稀なる才能の所為で自らを抑圧していたが、それが笹川によって解放され、それまでに押し殺してきた色欲が暴走、色情狂となる。初めの方は笹川がその欲望を受け止めていたが、限界を迎え、雛菱を満足させるためだけの相手を探すようになる。そこで目をつけられたのが
月見里は隙を見て逃げ出すことに成功する。しかし、精神に負った傷は深く、校舎の屋上から身を投げ出し、自殺した。その遺体を、彼女と付き合っていた男子生徒・
鬼灯は逃げなかったが、彼女の幼馴染である
偽装七不思議事件では他に例の女子生徒と冬城も被害に遭っている。雛菱と笹川を脅していた節分の目的が例の女子生徒であったため連れ去られ、冬城は雛菱の初恋の相手だったために久々に会った雛菱が暴走した結果、連れ去られた。
例の女子生徒が乱暴を働かれる直前で助ける、というのが節分のシナリオであったが、例の少女は頭突きで雛菱を返り討ちにし、縄からも自力で抜け出すという離れ業を見せた。もちろん、節分の計画は失敗に終わり、それどころかマッチポンプであったことも例の女子生徒にばれ、放心状態に陥った。
敵対勢力の無力化に成功したが、そこで冬城は余計なことをした。
――例の女子生徒が縋る兄の存在を否定した――
それによって例の女子生徒は壊れた。頭を押さえながら悲鳴を上げ、兄のことを呼び続けた。
その途中、冬城が刑事であることを明かしたことで節分が秘密の暴露をしながら逃走している。冬城は例の女子生徒をこんな状態にしてしまった負い目があり、節分を追いかけられなかった。
泣き叫ぶようになってしまった彼女は、その場にはいなかった雛菱らのもう一人の仲間・村主に気づかなかった。背後から刺され、卒倒する。冬城は凶器を持った村主と対峙することになる。
その攻防は長くは続かなかった。七五三掛ら応援が来てくれたからだ。それにより村主は現行犯逮捕。雛菱、笹川の両名も連れていかれ、例の少女は保護された。
結局のところ、七不思議は全て偽装されたものだった。
一番目の『白菊の花』は誘拐事件を怪異の所為にするために村主が設置したもの。
二番目の『消える人影』は西側階段一階の階段下にある隠しスペースに雛菱が入ったのをごまかすためのもの。
三番目の『自殺する少女』は飛び降り自殺をした月見里を怪異として利用したもの。
四番目の『幽霊の咆哮』も自殺した月見里を見て泣き叫んだ甘花の声を怪異として利用したもの。
五番目の『泣く石膏』は七不思議を完成させるために鬼灯の首を切り落としてつくり上げたもの。
六番目の『赤く染まるプール』も七不思議を完成させるため、及び証拠隠滅のために細かくした肉片と血を遺棄したもの。
七番目の『下りの階段』は全て体験してしまったらその者にとってよくないことが起こるという七不思議特有のルールを再現しようとしたもの(これに至っては笹川が一年という時間と膨大なお金をかけて階段下の隠しスペースにそこから行けると地下室を設けていた)。
怪異を隠れ蓑にしようとした、本当にふざけた犯罪であった。
現在、雛菱は殺人幇助や略取誘拐などの罪で起訴が決まっている。
笹川は殺人、及び禁錮監禁などの罪で。
村主は殺人、及び共謀などの罪で。
節分は三年前のあの日、既に十四歳で法的に罰が与えられる年齢だったため殺人、及び今回の脅迫などの罪だ。
それぞれが軽くない罰を与えられることだろう。
刑事であった冬城はこれらの情報を持って、とある病室を訪れた。
「……ん? また来たのかよ、刑事さん。国家公務員っていうのは暇なのか?」
病衣を着てベッドの上に座っているのは例の人物。
「……暇ではないわよ。私はあなたに償わなくてはいけないから……」
そう言って、冬城はベッド近くの椅子に腰掛けることなく深々と頭を下げた。
「別に今回の事件、刑事さんの所為じゃないだろ? 悪いのは圧倒的にあいつらだ。いくらあの場にいたからって、刑事さんが謝る必要はないよ」
冬城の対応に苦笑して肩を竦める例の人物。それが今の冬城には居たたまれなかった。
「……そうじゃないのよ。私は……っ、私は、ミキさんを……っ!」
――「ミキ? 誰だ、それ?」――
――健忘――
防衛反応が働いたのだろう。彼女は彼女の心を守るために彼女のことを忘れてしまったのだ。更に厄介だったのは、彼女が解離性同一症だったこと。実在した兄がいなくなってしまったことを受け容れられなくてつくり出してしまった双子の兄である
彼女の身体はれっきとした女性のものである。しかし、彼女の目には自分の身体が男のもののように映ってしまっている。思い込みが幻視を起こさせていた。それは彼女が二つの人格を持っていた時から見られていた症状だ。いないはずの双子の片割れを視線で追い、会話をしていたのだから。
これはあまりにも残酷な事態だ。冬城は自分がしでかしてしまったことを悔やんでも悔やみきれなかった。
冬城にできることは、彼女が――彼が不自由にならないようにサポートする、それくらいしかないのである。
冬城は病室の窓の外を眺めた。よく澄んだいい天気の日だった。けれど、彼女の心は晴れてくれそうにはなかった。
こんなことになるなんて一体誰が予想できただろう? あの日、あの時の前まで戻れたら、なんて考えてしまって、彼女は首を振った。彼女たちはその時の生きているのだ。決して時間が巻き戻ることはない。大切なのはこれからどう生きるか、だろう。
また、この晴れ渡る空と自分の心の暗さに差ができてしまったことに嘆息しながら、冬城は病室のカーテンを閉めた。
――完――
俺の席に白菊の花があった理由≪ワケ≫【拙作】 日夜 棲家 @Hiyo-Sumika
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます