第6話 清水湖優

身体が痛い。熱が出ているのかひどい寒気がした。

寒い、寒い、寒い、寒い、寒い、寒い、寒い、寒い。

身体中の全細胞が危険信号を発している。


(ここはどこだ......?)


私は自分の居場所を確認するために重い瞼を開く。目を開けるが自分がどこにいるのかわからない。


(天井...?)


口に何かついている。


(人工呼吸器?なんでこんなものが......?)


誰かが私の顔を覗き込んできた。


(看護師......、病院...?)


そこにいた人物で場所は分かったがなぜここにいるのかわからない。看護師が何か言っている。


「聞こえますか〜?」


言葉が聞き取れたので答えを返そうとしたが、口が全く動かない。看護師がまた何か言っているが、私に向けられた言葉ではなさそうだ。


しばらくすると、医者がやってきた。医者は私の体の様子を確かめると私にこう問いかけた。


「自分の名前わかりますか」


私はその問いに応えようと口を動かそうとするが、口が動かない。これは、体の問題ではなく、記憶の問題だった。


自分の名前がわからない。


私は何者なのか、名前は何なのか、ここはどこなのか、なぜ、私はこうなったのか。何もかもわからない。


なぜ私はここにいる?

なぜ喋れない?

この人たちは誰なんだ?

なぜ記憶がない?

何もわからない。


私は一体誰なんだ?


考えることに今ある体力を消耗したのか、私は深い眠りに落ちた。


______________________


目が覚めると、左手が温かい。ふと目を開き、そちらへ目をやると、一人の女性がこちらを凝視して、次第に涙を流した。俺は戸惑いを隠せず目を逸らした。するとその女性はこう呟いた。


「湖優......?」


もう一度向くと、彼女は顔をぐしゃぐしゃにし、満面の笑みでこちらを見つめていた。なぜ泣いているのか、私には一切理解できなかった。


「生きてて...本当に...よかった......!」


なぜ泣いているのか、私には一切理解できなかった。


私は口を動かした。


「あ......わ...わたし...の...なまえ.........。」


まだ口が完全に動ききらないが、必死に伝えた。今できる全力の力を振り絞って。


するとその女性は一瞬悲しそうな顔をしたが、ゆっくりと笑顔になっていき、こう答えた。


「湖優、あなたの名前は、清水湖優。私はあなたのお母さんよ。」


と、私の質問の後に、自分の存在を教えてくれた。


次第に私の目の前はで覆われていき、ぼやけて視界が見えなくなった。私は完全に出ない声を出して、泣き叫んだ。


ほっとした。目覚めても周りには知らない人ばかりで、自分が誰なのかさえわからなくて、不安だった。けれど、私の家族だと、私の母だと言ってくれた。胸に深く刻まれた孤独感が一気に治った瞬間だった。


______________________


俺が記憶を失い、目を覚まして2年が過ぎた。何度もリハビリを重ね、やっとの思いで退院できた。母には、大きな病院に入院するためにこの地まで引っ越してきたと言われ、前の俺の学校は転校したらしい。


新しい学校への転校手続きは終わっており、明日早速登校するらしい。は学校に行っているが、記憶を失った俺はもう別の人格と言えるため、初めての学校である。


俺は明日の学校はどんなとこかと母に聞いたが、行ってからのお楽しみと、やけに嬉しそうだった。


次の日__________


「今日からこのクラスで一緒にお勉強することになった、清水湖優君です。皆さん仲良くしましょうね〜。」


と、先生という人が俺の代わりに自己紹介をした。俺は先生の後ろに隠れ、恥ずかしそうにしていた。クラスのみんなは俺に興味津々で、視線が熱い。一瞬チラッと見るが、恥ずかしくなりすぐ目線を逸らした。


休み時間になり、俺は先生の元を離れると、自分の席に座った。すると、この機を狙っていたのか、男子たちが俺に駆け寄ってくる。たくさんの質問責めをされ、急に話しっけられたということもあり、黙り込んでしまった。


すると、男子たちは期待はずれと言わんばかりに俺の元を離れた。俺はそのまま孤立してしまった。


先生が仲良くしなさいというが、


「だってこいつ喋んないもん!」


と言われ、先生が馴染めるようにと手助けをするが、慣れない環境のせいでクラスに馴染むことができなかった。


帰り道、お母さんが言っていたことを思い出す。


「小学校でたくさんお友達を作っておうちに一緒に遊びにきてね。」


一人もできてない俺はどんな顔をして合わせばいいのかわからなくなり、帰り道に見かけた公園のブランコに揺られていた。


すると、誰かが声をかけてきた。


「君、もしかして今日先生が言ってた転校生?」


黄色い髪の毛の、とても可愛らしい女の子だった。


俺は突然の出来事に顔を伏せた。しばらく黙っていると、


「あなた、名前は?」


と、質問された。質問に答えるのは、よく病院でやっていた。俺は少し恥ずかしそうに答えた。


「......清水...湖優...。」


するとその女の子は少し悪戯げに、


「あ、やっとしゃべった。」


俺は顔が赤くなり、再び顔を伏せた。


「あ〜!せっかく喋ったのに〜」


と、彼女は頬を膨らませた。少し間があき、彼女は笑顔でこう続けた。


「私は佐藤舞華、今日からあなたの友達よ。」




それが、俺の初恋の相手、佐藤舞華と出会った瞬間だった。

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俺の幼馴染はこんなんじゃない!? 永久賞味期限 @syoumikigen

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