第5話 誰にも届かぬ思い
ピピピピッピピピピッピピ......
いつもの今日という一日を憂鬱にさせる目覚まし時計の音で目を覚ました。
普段も憂鬱なのだが、今日は一段とそんな気分だ。
何故なら今日から......。
「おーーい!いつまで待たせる気?」
「ちょっとぐらい待てよ......。」
そう、九鬼央と今日から一緒に登校することになったのだ。
央があんなことを言わなければ......。
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昨日のちょうど夕飯を食べ終わった時のこと。
「はぁ、まじかよ......。」
何故ため息をついているかって?それは、
央に一緒に登校しないかと誘われているからだ(強制)
しかし、俺がそんなことをする義理はない。阻止してやる。
『俺朝弱いから、遅刻した時央に悪いから遠慮するよ』
我ながらいい断り方だ。相手を傷つけず、そして俺が後から嘘をついたことがばれにくい理由。
と、その言い訳が無意味だったことを一瞬で知る。
『じゃあ、朝起こしに行ってあげるよ!湖優も朝起きれるし、一緒に登校できるし。
winwinかつ一石二鳥じゃん!今日のあたし冴えてるぅ!』
「はぁ、だめだこりゃ。はいはい行けばいいんでしょ行けば。」
俺は諦めのため息をつくと、央に理由を聞いた。
『というか、なんでそこまでして一緒に登校したいんだよ』
筋の通った疑問だ。まずその大前提の理由が理解していないので、俺も納得しようにも央の意見を承認する事はできかねる。
すると、央からなかなか返信が返ってこない。なんかまずいこと聞いちゃったかな。
そして40秒ほどの時間が空き、央はこう返信した。
『一緒に登校したいから。だけじゃだめ?』
何故疑問形。俺から質問したのに。
しかし、「一緒に登校したいから」だけでは筋は通っていない気がするが、友達ならば普通の理由なのだろうか。そう、半ば強引に自分の意見を押し殺し、央の意見を肯定した。
『わかったよ、電話でもなんでも使って起こしてくれ。」
と、諦めがついた俺は央に同意の言葉を送った。
『やった!じゃあ朝起こすから電話出てね。』
と、顔を見なくても喜んでいるのが文字でわかった。そして、スマホを充電器に挿した後、俺は深い眠りについた。
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~ろ! ~きろ!
「起きろ!」
誰かが呼んでいるが、目がまだ完全に起きていないので声の主を確認する事はできない。でもなんだか、何かお腹に乗っているような......。
だんだん目が見えてきて、人の面影が現れた。目を凝らしてみると、
「遅い!いつまで寝てるの!?」
いきなりおらばれたので咄嗟に叫んだ。
「うわっ!」
信じられない光景を見つけた。なんと俺のお腹の上に乗っていたのは央だった。
その存在を確認すると、俺は再び......。
「うわああああ!」
さっきよりも大きな声で叫んでしまった。
「なんでおまえがここにいるんだよ!?てかどうやって入った!」
と、俺は怒りと恥ずかしさが五分五分の感情で怒鳴った。
「だって湖優、全然電話でないんだもん。」
と、少し申し訳なさそうにいう央にこれ以上怒る事はできず、央が言っていることが正しいのか確かめるためにスマホの画面を覗いた。
そこには、こう表示されていた。
九鬼央 着信 4:02
「誰がこんな朝早くから起こせっつったよ!ってかいつも何時に起きてんだよ。」
さっきの同情も忘れ、ふざけた時刻を見て本気で怒った。
するとさっきの問いに央は、
「三時半。」
頭がおかしい。睡眠時間は足りているのか少し心配になるがそれよりも日頃からこの時間に起きていると考えたらまさに狂気。とち狂っている。
「アホかあああああああああ!」
と、心配の意味も込めて本気で叫んだ。すると、少し言いすぎた自分に気づく。彼女の瞳はだんだんと潤んできた。
「あ......、ご、ごめん。ちょっと言いすぎた。」
え?これ俺が悪いの?だってこんなふざけた時間に来てる方が悪くない?
しかし、彼女が日々懸命に続けてきた努力を否定にするというのも気が引ける。だから今回は俺が悪かったということでことを済ませよう......。
「私は...、やっぱりごめん、私が悪かったわ。」
と、央は何か言いかけたが、謝罪の言葉を返してきた。
へえ、案外素直なんだな。
と、どうやら心の中で思ったつもりが口に出してしまっていたらしい。
「素直......ね...。」
と、央は少しの間遠くを見つめたが、すぐに立ち直り、
「さっ、そろそろ準備するわよ。」
と、彼女の目的を果たすまでの手順を示した。
なんかまずいこと言っちゃったかな。あいつなら、央の気持ちが理解できるのかな。
と、今は新しい人格へと生まれ変わった自分の胸に手を当て、知らない自分のことを考えた。すると、
「何ボケーっとしてんのよ。早く準備しなさいよトロイわね。」
と、知らない自分の幼馴染は怒っている。いつか、本当の幼馴染になる日は来るのだろうか。
俺は目に見えない未来へ語りかけた。
その思いは誰にも届か無いと知りながら。
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