第4話 ツンデレ幼馴染

 前回の続きです。

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 央の様子から察するに、俺とは記憶を無くしていた時、よく遊んだりでもしてたのだろう。しかし勘違いしたままというのも後々ややこしくなる。本当のことを説明してあげよう。


「央、実は俺、小さい頃に記憶を失ってるんだ。」


 央は最初キョトンとした顔をしてこちらをみていたが、顔を横にぶんぶんとふり、疑いの言葉をかけた。


「ちょっと、長いってそのドッキリ。さっきで終わったんじゃないの?」


 と、少し不安げに言葉をかけてきた。

 まあ、そんな簡単に信じないよな。一筋縄ではいかないってわけか。



「ドッキリじゃないんだ。前提として、俺は君のことは知らないし、名前も知らなかった。つまり俺にとっては初対面ってわけなんだ。」


 俺はできるだけ丁寧に、一つ一つ言葉を繋いでいく。


「これは俺の両親が教えてくれたことなんだが、俺は交通事故に遭って、記憶喪失になったんだ。突然俺がいきなりいなくなっただろ?それもこんなことがあったからなんだよ。」


 と、俺は両親に教えてもらったことと、央の言動からの推測で説得した。


「え...、じょ......、冗談っ...。だって、あっ......。」


 最初こそまどっていた央だったが、俺の言ったことを理解したのか疑うことは無くなった。


「じゃ、じゃあ、あの日した約束も......。」


 とても不安そうに震えている。誰かが支えてあげないと、今にも倒れそうだ。

 しかし、その震えを治める言葉も、安心させてあげられる気遣いも俺にはできなかった。


 そして俺は央の問いに相槌を打つように首を横に振った。


 そして、彼女の目から一つの雫がこぼれ落ちた。何故彼女が泣いたか、彼女自身しかわからない。しかし、記憶を無くす前の俺なら、その真相が分かったのだろうか。


 そして、涙を流すぐらいだ。彼女はきっと、記憶を無くす前の俺が好きだったのだろう。


 今の俺は、記憶を失う前の俺とは違う新しい人格。彼女が好きだった俺とは違う。そう思うとどこか寂しく思えた。


 彼女は感情の整理が整ったのか、顔をあげ俺にこう言った。


「メアド、交換しよ。」


 一瞬何を言ったのかわからなかったが、その強く、真っ直ぐで、透き通った瞳が彼女の感情が映し出されているように思えた。


「い、いいけど。」


 俺は戸惑いながらも央とメアドを交換した。


 そして彼女はこう続けた。


「今のあんたは昔の湖優とは違うかもしれない。でも、私は清水湖優という一人の人間が好き。だから諦めるつもりはないわ。私があんたを理想の幼馴染にして見せる。」


 と、央はどこかで聞いたセリフを言い放つと、照れくさかったのか、はやく帰りたかったのか俺にはわからないが、駆け足で屋上を出て行った。


「さて、俺も帰りますか。」


 そこは、薄明色に染まった空の下。薄く月が光っている。


 自ら光を発しなければ、その存在はまだ誰も、知ることができない。


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 帰り道、小腹が空いたので、コンビニに寄ることにした。


 ウィーーーン


 〜〜♪


 毎度お馴染みのあの曲だ。何百回と聞いたそのイントロを、他の客にばれない音量で鼻歌を歌っていると、見覚えのある人物がいた。


「もしかして、小波?」


 咄嗟に声をかけてしまったが、流れに乗って近づき話しかけた。


「小波も今帰り?」


 その問いに小波は少し動揺したように答えた。


「は、はい。少し用事が...。」


 俺もここに来た理由を話した。別にそんな大した理由じゃないけど。


「ちょっと小腹がすいちゃって。」


 と、いった瞬間。笑いの神様が要らぬところで降りてきた。


 ぐぅ〜〜


 俺は顔が赤く染まっていた。その頬の熱が顔の赤さを物語っていた。

 はっずぅ、まじで恥ずい。今日どんだけ恥晒せば済むんだよ。


 と、思わず苦笑いするしかなくなった俺に小波は、


「あっはははっ、あははは、あはははははははは!」


 大爆笑だった。よかった、笑ってくれて。笑ってくれなかったら公で恥晒して、

 彼女の前で醜態を晒して笑われてしまう彼氏wwwwwww

 ってツイートされるところだった。危ない危ない。蛙化とかされたらマジ困る。ぴえん超えてぱおん超えてバンビノンザウルスになるとこだった。なんだそれ。


「す、すみません、場を乱してしまい申し訳ありません。」


 聞いたことのある謝礼の言葉に、


「はは、確か朝もこんなことあったよね。」


 と、小波は少し困惑気味に苦笑いをしていた。ん?これ覚えてないやつ?まだ一日も経ってないのに?と、確認するように俺は聞いた。


「あれ?覚えてない?俺がいきなり叫び出したやつ。」


 するとやっと思い出したのか、


「あぁ。そんなこともありましたね。」


 小波は思い出したのかわからない様子で、少しめんどくさそうに答えた。


「あ、ヤッベ。そろそろ帰らなくちゃ。じゃあなさざなみ。」


 俺は会話に終止符を打つように別れの言葉を言い、


「わかりました。それではまた学校で。」


 と、二人の会話は終了し、俺はコンビニを後にした。


 帰り、現在の時刻を確認すべく、スマホの画面を開くと、どうやらさざなみと話していた時に央からメールが来ていたらしい。


 メールの内容を確認するために央のメッセージトーク画面を開いた。


『湖優、家ってどこ?』


 まるで今から遊びに行くかのような文に俺はこう返した。


『コインランドリーの近く』


 今は忘れた幼馴染とのメールをして、謎の感覚に陥入りながらも返信した。

 すると、意外にも早く返信が返ってきた。


『え、私も近いんだけど。』


 衝撃の事実、忘れた幼馴染と家が近かった。そして続けてこう送られてきた。


『よかったら朝一緒に学校行かない?』


 俺は思わずスマホをコンクリートに落とした。

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