第3話 忘れた幼馴染
校長先生の長い話も終わり、新クラスのホームルームが始まった。
「はい、今日からこのクラスの担任になりました羽田純子です。」
と、俺の担任の先生は、黒板に自分の名前を名乗りながら漢字を書き出した。
「よく間違われるんですが、先生の苗字は『はねだ』ではなく『はだ』なので間違いのないように。」
と、羽田先生は雑談まじりに少しだけ生徒との親密感を上げた。少なくとも俺はそう感じた。すげぇ。
「はい!わかりました、羽田はねだせんせー!」
と、丸刈りのいかにも中学の頃ムーブメーカーだったであろうお調子者がふざけていうと、クラスがどっと笑いがおきた。
少し中学生のような部分が残っている。まだまだ子供ってことか。
少し短いようで長いホームルームが終わると、クラスのほとんどは帰宅の準備をしていた。
さて、俺も帰ろうかと鞄を持ち上げ、下駄箱へと向かった。
本日最初の下駄箱を開けると、そこには神のようなものがはいっていた。
「ん?」
俺は不思議そうにその神を手に取ると、信じられないものを見た。
清水へ
放課後屋上に来て。
それだけ書かれた紙。文字こそは少ないが、彼女いない=年齢の俺にとってはとても重みを感じた。
「え〜〜〜〜〜〜!?」
思わず叫んでしまった俺は、慌てて口を塞ぎ、あたりを見渡した。
ふう、どうやら誰もいないようだな。安心して再びその手紙を見返していると、
「こ〜う!どうしたの?」
と、背中を思いっきり叩かれ、思わず「わあああ!」と叫んでしまった。こんな短時間に2度も驚いたのは初だ。
すると舞華は少し引き気味に聞いてきた。
「え、何があったの?」
俺は慌てて、
「い、いやあ、なんでもないよ。ちょっと下駄箱にちっちゃい虫が居ただけ。もう居ないよ」
と、即興で思いついた言い訳に感心していると、心裏を探るように聞いてきた。
「ほんとに〜?なんか怪し〜。」
と、ジト目で睨んでくるので、このピンチを回避すべくまた嘘をついた。
「今日これから行くとこあるから先帰ってていいよ。」
すると舞華は、残念そうにつぶやいた。
「え〜、わかった。明日は帰ろうね!絶対だよ!」
と、明日も学校へ来る約束を交わし、舞華は学校を後にした。
ふうと一息つき、冷や汗を流しながら再びポケットに隠していた紙を取り出すと、屋上かぁ、と呟くと、恐る恐る屋上へ向かった。
__________________________
この学校は、全国的にも珍しい屋上への立ち入りが許可されていた。
普通、転落事故防止のため、ほとんどの学校が立ち入りを禁止している。
漫画やアニメなどでは、よくあったりするのだが、現実はそうはいかない。
二次元では転落事故などは描けば防げるが、現実は何が起こるのかわからない。
学校側がもっと厳重な設備を整えてくれればいいんじゃないんですかねぇ。
と、学校への不満を全国の生徒たちを代表して心の中で愚痴っていると、気づけばそこは屋上へ入れる扉の前だった。
これって、もしかして、人生初告白!?
そして、初めての体験に、胸を踊らせながら屋上へ入った。
そこは、放課後の昼下がり。まだ少し冬の余韻が残った冷たい春風にあたりながら、目の前の一人の少女に近づく。
あらゆる生物たちに暖かな光を放っている太陽が染めた綺麗な赤色の髪。誰かを常に照らしている光は、傷ついた心をその眩しさで包み隠しているようだった。
誰の目にも見ることはできない。内側に入らなければその中身は見えない。しかしそこに行くためにはどれほどの犠牲が必要なのだろうか。
彼女は屋上から見える初めての光景を満喫していた。こちらに気付いていないのか、三十秒ほどの時間がたった。それは、とても長く、時が止まったように思えた。
彼女の少し寂しそうな瞳には、何が写っているのだろうか。どこか遠く、俺には到底見えない何かを見つめているようだった。
ようやく気が付いたのか、彼女はさっきまでの表情とは裏腹に、一瞬軽く微笑んだあと、呆れたように眉間に皺を寄せてこう呟いた。
「やっときたの?全く、いつまで待たせる気?」
と、遊ぶ約束をしていたかのような口ぶりに、思わずこう返した。
「ご、ごめん。ちょっと道に迷っちゃって。」
端から見ると、なんだ友達か。と、思われるかもしれないが、俺は彼女のことを知らない。すると彼女はこう言った。
「全くもう。あの頃と変わんないわね、あんたも。」
まるで、昔よく遊んだかのようなセリフ。またあの時と同じ感覚になった。相手の存在を確かめるためにこう質問した。
「ごめん、失礼だけど、君は...、知り合い?」
すると彼女は呆れてでこう答えた。
「はぁ?何?昔の記憶なくなったドッキリでもしてるの?」
俺は戸惑うことしかできなかった。本日二人目の俺が記憶を無くしていた頃の知り合いだった。しかし何故だか二人とも、妙な懐かしさを感じた。
もしかすると覚えているかもしれないので、さっきの彼女の問いに相槌を打つように少し苦笑いをしながら一応名前を聞いてみた。
「ごめん、忘れてるだけかもしれないから名前を聞いてもいい?」
すると彼女はまた呆れたようにこう答えた。
「九鬼央くきなかばよ。ったく、この私を忘れるとかいい度胸ね。頭の中メモ帳しかないの?」
すると俺は咄嗟に、
「央。」
自分でも何故そう言ったかはわからない。前からその名前を知っていた訳でもないのに。
すると、彼女は不意をつかれたのか、顔を真っ赤に染め叫んだ。
「はぁ!?何よ急に!気安く名前呼ばないでくれる!?」
そして恥ずかしくなったのか、手で顔を覆い、後ろを向いた。
名前こそ知っていたかもしれないが、俺は彼女のことについて何も知らない。なので一瞬戸惑ったが、その様子は彼女の目に映ることなく難を逃れた。
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