出洲ゲーム
水底ナノ
〇日目 八百屋「八百山」店主・山辺遼は
本日はお集まりいただき、ありがとうございます。
さて、初の試みとなるこの「出洲ゲーム」は、我が出洲商店街一年分のお買い物券を賭けたゲームです。一年分ですよ一年分。優勝者の方には、このような赤いカードを差し上げます。お財布に入るサイズですね。「出洲ゲーム優勝者の証」と書いてあるんですけど、ちょっと今小さくて読めないと思うので、後で実際にお手にとっていただこうと思います。このカードはミカゲ書房のお嬢さん、
ゲームのルールは、郵送でお送りした資料の通りです。
一、 「出洲ゲーム」の開催期間は、参加人数から一を引いた二十二日間。
二、 「出洲ゲーム」の開催日は、毎週土曜日の午後十時から午後十二時。
三、 「出洲ゲーム」の開催地は、出洲商店街わくわくスペース会議室。
四、 「出洲ゲーム」のゴールは、一年分のお買物券を得るにふさわしい 人物一人のみを、参加者同士の協議で選別すること。
五、 二十一日目までは、協議によって毎回脱落者を必ず一人だけ決めること。脱落者がゼロでも、二人以上でも、その時点で全員脱落とする。
六、 二十二日目の脱落者は、それまでのゲーム参加態度や協議内容を考慮し、出洲商店街振興組合長が商店街を代表して決めること。
七、 毎回、商店街各店舗の関係者一名以上がゲームを見学すること。
八、 協議において、店舗の関係者による証言を求めることもできる。その際、店舗の関係者は必ず真実を述べること。
ここまでで何かご質問のある方はいらっしゃいますか? ──どうぞ。──はい。──ええ。──そうですね。──ありがとうございます。良い質問が出ました。「一年分のお買物券を得るにふさわしい人物」の基準ですが、特に商店街側が設けているということはありません。店舗の関係者はあくまで見学と、必要なときに証言をするだけであって、ゲームに参加するわけではありません。どんな人物が「一年分のお買物券を得るにふさわしい」のかということも、参加する皆様の協議によって決めていただければと思います。他にご質問は──どうぞ。──そうですね、私が発案しました。──あはは、そうですよね。大まかな狙いとしては町おこしのようなものです。皆様の中に「デスゲーム」……えーと、この商店街の「出洲」ではなくて、「デス」、英語で「死」という意味の言葉なのですが、その「デスゲーム」をご存知の方ってどれくらいいらっしゃるんだろう。ちょっと手を挙げてみていただいてもいいですか。……半々くらいですかね。では少し説明しますと、英語の方の「デスゲーム」というのは、文字通り「死」を伴うゲームです。参加者同士で殺し合いをするんです。それで、最後まで生き残った人が大金を得るとか、何かの報酬をもらうというパターンが多いかな、私もすごく詳しいというわけではないのですが。日本でも二〇〇〇年あたりに流行り、その後映画やゲームのジャンルとして定着していきました。最近も韓国のデスゲームドラマが、若者を中心に人気を得ています。
もちろん皆様に行っていただく出洲商店街の「出洲ゲーム」では殺し合いはありません。単に駄洒落と、ゲームのシステムを借りたということです。お買物券は、例えば抽選にしたっていいんです。でも、それではなんだか味気ないじゃないですか? せっかくですから、地元の方同士でコミュニケーションを取りつつ、出洲商店街のことを思い出したり、新しく気にかけたりしていただくきっかけになればと思って、この「出洲ゲーム」を発案しました。「一年分のお買物券を得るにふさわしい人物」を目指して出洲商店街への愛を語るもよし、これから出洲商店街を利用していくぞという意気込みを語るもよし、何でもよしの自由なゲームです。今回が第一回の開催となりますが、ご好評いただけましたら来年以降もやってみようかなと思います。ですから、もし今回優勝できなくても、次回にチャンスがあるかもしれないということです。もう少し野望を述べますと、色々な理由でかつての活気を失ってしまった全国の商店街でもこのゲームが流行らないかな、なんて考えております。出洲商店街を発祥として、どこどこゲームみたいな、ご当地の新しいお祭りみたいになっていったら、きっと商店街にも活気が戻って来るんじゃないかなと……。やはり私は商店街の人間ですから、日本から商店街というものが衰退していってしまうのは寂しいものです。ああ、頷いていただいている方もいらっしゃいますね。ありがとうございます。他にご質問はありますか? ──なさそうですね。それでは、一日目のゲーム開始まであと、十分です。少し長く喋ってしまいました。失礼いたしました。
この「出洲ゲーム」は、振興組合長としての私の初仕事となります。どうぞ皆様、さいごまでよろしくお願いいたします。お手洗いなど、今のうちにお済ませください。
出洲ゲーム 水底ナノ @nano_minazoko
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