ひとりじゃない

自分は消えたりしない。

そう言いたかった。叫びたかった。

けれど言葉が出てこなくて────

────その一瞬のうちに、隣の葉月が飛び出していた。





ガキィンッ!!





激しい金属音がその場に響き渡る。

葉月が勢いよく風見を振り下ろし、それを帽子屋の巨大なフォークが受け止めたのだ。


「ハヅキ!!」


彼女の名を呼ぶ。

帽子屋は強い。闇雲に突っ込んで勝てる相手ではない────そう言って制止しようとした。

けれど。


「あのさあ・・・やめてくれないかな」


米倉葉月は低い声でうなるようにそう言った。


「『消えなければならない』?一回きりの間違いで?うさぎさんは反省して、やり直そうと頑張ってるのに?」


「・・・・。貴様・・・」


帽子屋は己が武器で風見を押し返しながら彼女の瞳を見た。燃えるような怒りに満ちた双眸を。


「そんなルール・・・絶対に間違ってる!!」


少女は真っ直ぐに相手を見すえて、はっきりとそう言い切った。






それを聞いて。

僕は初めて涙を流した。

自分の身に降りかかる暴力を、「それはおかしい」と本気で怒ってくれるひとがいる事は。

胸の内がしめつけられるほどしあわせな事なのだと、知った。

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ハヅキの冒険 雪待ハル @yukito_tatibana

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