懺悔

日記の中に住まう僕の知らない遥香の姿に僕が狼狽している時、頭の中に蘇ったのは、顔をぐしゃぐしゃにしながら僕に日記を差し出す遥香のお父さんの姿だった。


「君が持つに相応しい」


そう言ってお父さんは、大切な娘の形見を僕に手渡した。


きっとそれは…


僕を苦しませるためではないはず…


僕は深呼吸してから再び日記のページをめくった。



【6月10日】

彼方くんの歌は私の救いだ。

すっと恐怖が溶けていく。

だけどそれは彼のことが好きとか、そういうことではなくて、彼のことを利用しているんじゃないかと思う。私は私のために彼の歌を利用している…


【6月17日】

またデート?に誘われた。

断れなかった。

彼方くんの真っ直ぐな目を見ると申し訳無い気持ちになる。

それと同時に


【6月24日】

雨は嫌い。

梅雨は大嫌い。

彼方くんの歌…聞きたいな。


【7月1日】

「先週の分までいつもより沢山歌う」

そう言った彼と目が合った。自意識過剰だろうか?

彼の歌は、前よりも少し上手くなっていた。

お客さんも増えてきた。

来週は七夕ライブをするらしい。


【7月7日】

雨。

ライブは中止。

でも電話がかかってきた。

私の為に歌うと。

助かりました。

ありがとう…


君を見ていると可笑しくて笑ってしまう。

から元気じゃなくて、多分本心で。


この気持ちの名前は、好き?なのだろうか。



【7月15日】

ライブが終わって声をかけられた。

緊張しているのがバレバレで、ああ。今日なんだ。って思った。

そう思ったら可笑しくて、君が真面目に恥ずかし台詞を言ってる間中、ずっとクスクス笑いが込み上げて来てしまった。


ごめんね。


でも、嬉しかった。



そこから先に現れるハルカは、僕のよく知っているハルカだった。


明るくて、頼りになって、ちょっと偉そうで、でも優しくて。


ページを繰るたびに記憶が鮮明に蘇って、笑顔になって、その後には必ず、涙が流れた。



東の空が白み始めた頃、とうとう僕はハルカの最後の日記にたどり着いた。

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君の好きな歌を歌う 深川我無 @mumusha

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