第14話 孤独の春

田中さんと出会って1年が経った。それはつまり、新年度の始まりだということ。

今日から2年生。どんな1年が始まるのか不安もあるけど楽しみ。桜はもうほとんど散っちゃったけど、桜のじゅうたんになっている道を歩き学校に向かった。


「唯花ちゃん、おはよ〜2年生も同じクラスだったらいいのにね」

登校中に田中さんと会った。私は軽く頷く。私たちはいつものように1年生の教室に行ってしまいそうだった。でももう2年生なんだ。後輩も入ってくるししっかりしないと。

先生にクラス表をもらい、岡田という名前を確認する。一瞬で見つかった、1組だ。この少し下に田中さんの名前があればいいんだけど…田中さんの名前は1組に無かった。

「私、3組だったよ。唯花ちゃんは1組?」

田中さんとは違うクラス。仕方がないけど、心が苦しくなった。

「うわぁ、1組さいあ…いや、なんでもないよ」

何か言おうとした田中さん。1組がどうかしたのかな。

「また放課後に会おうね、じゃ」

そう言って田中さんとは別れて1組のクラスの教室に入った。


改めてクラス表を確認し、周りを見渡した。なんか、知らない人が多い…

多分、小学校も1年のクラスも違う人たちが多いんだ。少し嫌な予感がした。

その予感はすぐに当たった。担任となる先生が教室に入ってきた瞬間、教室がざわつく。

「もう2年生なんだからさっさと席に座りなさい。1組担当の山田だ。やかましいクラスになりそうだ」

担任は、英語の教科担当でもある山田先生。去年の5月、いきなり授業で当てられて答えられなかったら、怒られた先生だ。

私はあの怒られた場面が蘇った。まるでさっきの出来事のように。


始業式の時間がもうすぐ。すると教卓に立っていた山田先生が紙を持って

「1組の出席番号1番の人が入学した1年生に向けて入学祝いの言葉を贈るんだが…

まあ、無理だろうな。」

出席番号は1番は、私だ。頭文字は「お」なのに1番なんて珍しいと思ったけど。


「仕方ない、2番の奥山に頼むか」

山田先生は、もう私が喋れない前提で出席番号2番の奥山くんをお祝いのスピーチ役に指名した。すごく悔しい。仮に頼まれたからって多分喋れないけど。

私なんて使い物にならないんだ…


始業式が終わり、その日は2年生の教科書とかをもらって帰るだけだった。

やっぱり悔しい。というか山田先生にも、そして自分にも腹が立った。


帰り道、田中さんと会うことは出来なかった。

毎日のように田中さんと途中の交差点まで帰るのが日課だった。

同じ帰り道なのに、まるで通ったこともない道を歩いているようだった。


家に帰ってきて、布団に潜り込んだ。誰を恨んでいいのか、怒りのぶつけ場もない。

ただただ無念でたまらない。このまま2年生を過ごせる自信がない、どうすればいいんだろう。


すると、スマホが鳴った。田中さんからメッセージだ。布団から飛び出て、内容を見る。

「唯花ちゃん、今日は一緒に帰れなくてごめんね。

1組、大丈夫だった?明日は一緒に学校に行こうね。」


少し安心した。心配もしてくれて、明日は一緒に登校できる。

田中さんは優しすぎる。


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