第39話 クラスメイト③

「アレは巨大蝙蝠ジャイアントバット、またベタなモンスターが出たわね」


 全長1.5mほどの巨大な蝙蝠、こういった洞窟型ダンジョンに生息するメジャーモンスター。空を飛ぶものの動きは単調で、噛みつき攻撃を待ち構えて迎撃するのが基本スタイルになっていた。


「ここは私にお任せください」


 先陣を切ったのは意外にも神楽さんだった。

 アーチェリーなどに使う洋弓を手にした彼女が構えると、矢の代わりに魔法の矢が出現した。その魔法の矢は、閃光となりて巨大蝙蝠を射抜いたのだった。


「おおっ、すげえ!」


「ならば俺たちも行くぜ! 炎よ! 赤く染まる炎の聖霊よ覚醒の時は来たれり、燃え盛る業火となりて我が力を示せ! フレイィィィムバーストォォォォオ!」


 慎介の痛い詠唱が終わり、ちょろちょろっとした炎の矢がゆっくりと飛んでいく。

 その炎の矢はもちろんだが、蝙蝠には当たらず消えていく。


「役立たず!」

「すんません」


 ドンマイ慎介。でもお前、春日井姉妹の姉(瀬里花さん)に罵られて嬉しそうだぞ。大丈夫かコイツ?


「氷よ、極寒の刃となりて敵を滅ぼせ―――」


 これまた厨二病的詠唱を終えた瀬里花さんが、魔力を帯びた刀を振るう。

 蝙蝠を真っ二つにした瀬里花さんが、ドヤ顔で謎の決めポーズを決める。

 続いて妹の紫琉琵亜ちゃんまでが、恥ずかしそうにしながらも厨二病的詠唱をして蝙蝠を倒していった。


「………ああ、皆凄いね……アハハハハ」


 6英雄の松村 友梨奈さん曰く、厨二病的単語を並べる詠唱は、言霊として炎や水のイメージサポートする役目があり、理にかなってるとのこと。

 理由はともかく魔力が使えるのは大きなアドバンテージになるのは確かだ。

 本人たちは大マジメにやってるんだ……それを笑ってはいけない。


 それよりもだ……同じ魔力でも使い方がまるで違う人物がいる。


「神楽さん凄いね、その新型の弓。そして魔力の使い方」


「ありがとうございます。わたくしとて正宗君たちがダンジョンに行っている間、ただ待っていたわけではありませんのよ。我が社で開発した新型の弓、使いこなすために魔力操作必死に練習したんですからね」


「弓矢の代わりに魔法を放つのか」


「はい。もちろん本物の矢も撃てますよ」


「魔法の弓、魔弓か……なんか魔法使いみたいでカッコイイね」


「カッコイイなんて……そんな、正宗君の方がカッコイイです」


 んん? 僕がカッコイイ? 揶揄っているのだろうか? もしくは、リップサービス―――うん。きっとそうに違いない。


「うんうん。神楽ちゃんらしく凛々しくてカッコよかったよ。セリカちゃんもシルビアちゃんもお見事だね」


「穂香ちゃんもありがと」


「へへへありがと。それに比べて嶋岡……あんたは情けないわね」


「すんません」


 いや瀬里花さん、それどっちかというとご褒美だから。

 お前も罵られて喜んでんじゃねえよ。



  ◇


 その後も現れるモンスターを難なく倒して先へと進む。

 低級モンスターとはいえ、これだけアッサリ倒せるのは魔力操作や武芸修練の賜物だろう。僕と穂香は戦闘には介入せず見守っているだけだが、このレベルならメタル系のモンスターでも楽に倒せるかもしれない。

 それは即ち、一般の探索者よりも攻撃力だけなら超えているということである。

 

 少なくとも魔弓を使う神楽さんは、メタル系のモンスターにも有効打を与えることができるだろうと確信があった。

 本物のお嬢様で、魔力操作に長け魔弓を扱い見た目も美しい彼女は、才能にも恵まれ才色兼備という言葉がしっくりくる。

 そんな神楽さんは、なぜ陰キャで冴えない僕を恋人に選んでいるのだろうか? 彼女にはもっと相応しい男もいるだろうに謎だ……自分で悲しくなるけど。

 

 そんなことを考えているうちにダンジョンの最深部であり、目的地たる重厚な大扉の前にたどり着いた。

 神楽さんは 2度目、慎介たちは初のボス戦となる。


「何が出るかは不明だけど、ここまできた実力は本物よ。戦法は今まで通り、セリカちゃんたちが前衛、後衛は魔法と神楽ちゃんの弓で支援よ。危ないと思ったら助けに入るから安心していいよ」


「うん。でも、穂香ちゃんの出番なんかないんだからね」


「私は正宗君の抜刀術見たいなって思うけどダメ?」


「ダメよ! この馬鹿にボス戦なんかやらしたら一瞬よ一瞬。馬鹿の一つ覚えみたいに何でも真っ二つにするんだから。それじゃボス戦の意味ないじゃない」


「穂香その言い方酷くね?」


「何よ! 事実じゃない。それとも皆にいいカッコでも見せたいの?」


「い、いえそんなわけはございません!」


 ただ、ちょっとくらい暴れたいなっと思ったけど……小規模ダンジョンだし僕の出番はなさそうだ。だけど、ここはダンジョンだ。何が起きるかわからない。


「じゃあ、いざとなったら助けてもらうってことで。行くわよボス戦」


 威勢のいい瀬里花さんの掛け声とともに扉が開かれる。



 八角形の大ホール。ああ、この重厚な雰囲気……幾度となく経験した決戦場だ。


 灯りが灯され現れたのは巨大な双頭の蛇だった。

 

「やだあ、何アレ気持ち悪い!」

「私爬虫類嫌いなのよ。私パスね」


 お前らぁぁ……まあ、気持ちはわからんでもない。寒気のする目とチロチロと動く舌、かくいう僕も蛇は苦手で可能な限り戦闘行為は行いたくない。だが、ここはボス部屋。アイツを倒さないとクリアにはならないのだ。


「来るわよ! 見た目が嫌ならさっさと片付けなさい」


 穂香……お前、言ってることと逃げ腰のソレ、思いっきり合ってないぞ。素直に戦いたくないって言えばいいのにめんどくさい奴。


 太い胴体をうねらせて接近してくる姿は見るからに気持ち悪い。

 そんな大蛇の動きが止まる。

 後衛組による魔法攻撃だった。

 中でも神楽さんの魔弓の一撃は双頭の片側の頭を吹き飛ばすほどの威力があった。


「うおりゃあぁぁぁぁぁ!!」


 慎介が雄叫びを上げながらもう片方の蛇頭に斬りつける。

 断ち切られた巨蛇はそのまま動かなくなり、粒子となって消えていった。


「倒した。倒したぞ!」


「意外と呆気なかったわね」

「ふふん。実力ですわ」


 低ランクダンジョンのボスとはいえ、ボスはボスだ。見た目に怯えたものの結果は圧勝と言えるものだった。


「お見事。後はダンジョンコアを破壊するだけだよ」


 僕は指差す。このダンジョンの最奥の部屋へと続く扉を。



 異変が起こったのは小部屋の中心部、空中に浮かぶ六角柱状の水晶クリスタルを見たときだった。突然右腕の黒い腕輪が輝き出すと、水晶が反応するように砕けたのだった。それだけでなく、その破片は黒い腕輪に吸い込まれてしまった。

 それはまさに一瞬の出来事だった。


「ええええ、どゆこと?」


「正宗君何したの?」


「いや、僕も何がなんだか……だけど、これでこのダンジョンは終わりだよ」


 その言葉を裏付けるように、ダンジョンの悲鳴のような地響きが起こり僕たちの体は薄い光に包まれた。


「凄い……これがダンジョンクリアの恩恵なのね」


「だね。ダンジョンコアについて不明な点は多いけど報酬は得られたし、ダンジョン攻略成功だよ。おめでとう!」


「やった! やったよお姉ちゃん」

「うんうん。これで私たちもやればできると証明できたわ」


「そうだぜ。正宗お前たちだけが特別じゃないんだ。あ、いや特別なのは変わらないかもだけど、俺たち一般生徒でもお前たちの役に立てるって証明できたろ」


「そうよ。穂香ちゃんたちには先に行かれちゃったけど、私たちだってやればできると証明できたんだからね。いずれ穂香ちゃんたちにも追いついてみせるわ」


「慎介、瀬里花さん……」


 なんか胸が熱くなるのを感じる。これはマジでうかうかしていると足をすくわれそうだな。僕も負けないようにがんばろっと。



「ダンジョン攻略も試験も終わったし、これからどうする?」


「それはもちろん」


「だよな。だよな」


「遊ぶぞ~ まずは素材の換金ね。その後はご飯食べてカラオケ行って……」


 楽しそうに話すクラスメイトたち。なんか楽しいなこういうの。

 これからもこうした楽しい日々が続いていくと良いな。

 特別課題と補修授業に目を逸らしたくなる悲しい自分がそこにいた。 

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高校生ダンジョン探索者が世界を救う! たぬきねこ @tanunyanko3301

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