第552話 誓約と制約
『…俺はお嬢さんと…玲奈さんと付き合う積もりはありません。
…もちろん結婚も。』
静まり返る室内…耳がきーんってする沈黙。
玲奈さんの綺麗な発音のイングリッシュを久しぶりに聞いた…。
優奈『はぁ?はあぁ?うちの玲奈を弄んだのー?!』
ママ『…なにか事情があるのかしら?
…事によっては…。』
父『ここまでの話し聞いて今時珍しい硬派な男の子だと思ったけど…おじさん全く意味がわからないな…。
え?玲奈の何が不満なの?』
香椎家ブチ切れ…!
不満なんぞあるわけ無い。
玲奈さんは子供の頃からの俺の憧れ…。
あんなにアットホームな雰囲気が張り詰めて…怖い、怖いよ!帰りたい…!
望、ひーちゃん…兄ちゃん帰れないかも知れない…。
…ぇぇん…
…ぇぇん…!
玲奈『…ふぇ…ふぇぇぇぇぇぇぇ…そんな…そんなの…無いよぉ…。』
玲奈さんが泣き出した…!
幼子の様にえんえんと…。
優奈『説明!説明して!
今すぐ!端的に!きっちり!』
俺は正座体制のまま…洗いざらい吐いた。
…コレには訳があるんです…玲奈さんの婚約破棄を賭けた…一件でして…
相手が約束破ったからって自分が約束を破って良い言い訳にはならない。
…それに、最後は松ちゃん…代償無しで玲奈さんを解放してくれた…
だから…俺は誓いを守らなきゃ…。
500話 賭けと代償 参照
https://kakuyomu.jp/works/16817330656200078233/episodes/16818093086871802029
☆ ☆ ☆
俺の真剣な説明に
『『『…うーん。』』』
難しい顔の3人と泣き止んで呆然としている玲奈さん。
パパ『…今時珍しいほどの漢と思ったけど…面倒な…。』
ママ『…どうしましょう?』
優奈『…でも、その賭け勝ったのに…新二くん反故にしたんでしょ?
…いや不成立でしょ?その賭け?ダメなの?』
『…漢にとって約束とは…。』
優奈さんは玲奈さんそっくりの美しいキレ顔で、
優奈『私、女だからそんなの関係無いもーん!
玲奈スマホ出して!』
判断力が無い玲奈さんは言われるがままノロノロスマホを取り出す。
ひったくって瞬でパスコードを入力してロックを外す優奈さん。
俺と玲奈さんはびっくりして目を合わせる。
…この人…絶対玲奈さんスマホを常習的に弄ってる…!
優奈『……はい!そう!
良いから!早く来てよね!
お陰で地獄みたいな状況なんだからね!
早くだよ!
…はい。』
玲奈『お姉ちゃん?どこに?』
優奈さんはニヤリと笑って、
優奈『責任者に問い合わせただけ。』
☆ ☆ ☆
…20分後…
新二『…先日は大変…申し訳ありません…。
そして今日は…その…承が申し訳無いです…。』
『松ちゃん!!』
松ちゃんが香椎邸に!
…さっきの優奈さんの電話は松ちゃんにかけてて…承くんがこんな事言ってんだけど?ってクレーム付けたら飛んで来た!
松ちゃんは香椎家の面々に頭を下げた。
下げて詫びた後、承を借りますって言って…。
困った顔して松ちゃんは頭を抱えた。
新二『…お前さぁ…。』
俺は嬉しくて、
『またすぐ会える気がするなんて言ってたけど…こんなにすぐに会えるなんてね?
あははは!』
新二『あはは!じゃねーよ!
人が格好良く別れたのに…俺が悪いけどさぁ…お前ももっと…
融通が効く漢になれって言ったそばから…ほんと…!』
※作中では2時間前の話しです。
ふうってため息吐いて松ちゃんが俺に説教するんだ。
新二『いいか承?アレは、あの時の話は例え話。
どれ位玲奈さんをお前が好きか?って試す俺のムチャぶりだ。
わがままな俺がお前も玲奈さんも手放したく無くて言ったいじわるなんだよ!』
『…それでも誓った。
松ちゃんにそう誓った。
俺には松ちゃんのように金も資産も力も無い。
…そんな俺が差し出せるものは誠意だけ。』
新二『…面倒くさ…。
こいつ普段素直なのに…漢とか誓いとかってワード入ると急に時代劇や大河ドラマの人みたいに融通効かなくなるのな…。
…ほら!香椎家の皆さんがすげぇ目で見てる!
なんとかしないと俺めっちゃ肩身狭いわ!』
『…季布の一諾って言葉があるでしょ?』
新二『…知らねえ。』
俺の武将トーク!
季布の一諾…絶対に破られることのない固い約束や承諾のたとえ。また、一度した約束や承諾は必ず守ることのたとえ。
「季布」は、人の名前。「一諾」は、一度承諾すること。故事中国秦末漢初の時代、楚人の季布は信義に厚い人で、一度承諾したことは必ず守ったという。簡単に諾と言わない、でも一度承諾した事は絶対に守った事から当時に人々は黄金百斤(約50kg位かな?)より季布の諾って言葉の方が価値があると噂した。
新二『本当に面倒臭い…
アレは!俺がお前を試しただけ!
いいか?例え!誓った?
でもあの賭けは不成立!俺が反則!』
『松ちゃんが約束を破ったって、俺が約束を破って良い言い訳にはならない!』
新二『くそ…さりげなく俺が約束破った事…いじってきやがって…!
良いか?競馬だって馬走らなきゃお金払い戻しされるの。
増えないぞ?賭けた分だけ。
ライブだって歌手が出演しなきゃ返金するの。
今回は!不成立!
いいか?賭けの相手、誓った相手の俺が言ってるんだ!』
『…でも…。』
新二『俺は承が玲奈さんより大事になったから…玲奈さんは手放しても良いって思った…。
それはお前が玲奈さんを…好きで好きで、ずーっと好きでそんな誓いも躊躇わずにたてるほど愛してるって感じたから。
…お前が玲奈さんを責任持って射止めて大事にするって確信があったから…俺は婚約を破棄した。
お前…玲奈さん要らないの?』
『そんな!そんなわけない!』
松ちゃんはふっと笑って、
新二『だっけ、あの時お前に託したんだろ…。』
※520話 俺は兄貴分 参照
https://kakuyomu.jp/works/16817330656200078233/episodes/16818093088360575653
『ふぇ?』
新二『命かけるほど好きなんだろ!お前の手で守って幸せにしろ!
もう良い加減にしろよな!
出来ないなら…他の男に今度こそ獲られるぞ?』
『…そんなの嫌だ…。』
俺の一言に松ちゃんは再度あの誓いは試しただけを連呼する。
『…玲奈さんを、俺の義妹を頼むな?
…ほんとさっき綺麗に別れたのに…。』
松ちゃんはぼやくと、
新二『…本当にすいません、承には良く言い聞かせましたので…
申し訳ありませんでした…。
ほら、承お前も謝れ。』
『…すいませんでした…。』
松ちゃんは帰るわって言って帰って行った。
…松ちゃんは兄ちゃんみたいに俺を叱って、香椎家に謝って帰った。
翌日、思い出した様に連絡すると…もうスマホは…繋がらなかった…。
☆ ☆ ☆
ふう。誰ともなくため息。
…居づらい…俺も便乗して帰れなかったかな…。
優奈『…じゃあ、『その誓い』は無効って事で良いのよね?』
迫力がある。恥ずかしながら素直に答える。
『はい。』
ママ『玲奈と付き合えるし、結婚も出来るわよね?』
強い圧がある。
『あっはい。』
父『…玲奈はどうなんだ?』
玲奈さんはやっと我に帰ったらしい。
モジモジしながら、
玲奈『…そうだね…。
これからのお付き合い次第では…♪』
家族からの圧が強い…!
でも…俺…その…憧れが強すぎて…付き合うって事にピンと来ていない。
それをママさんが指摘。
玲奈『…これから…友達以上…恋人未満として?
ふふー!ゆっくり…ね?
ふふふー♪』
ママさんはニコニコしながら、でもハッキリ。
ママ『ごめんね、急かす様だけど…
このままだとお互いの為にならないと思うのよね?』
無粋な事だけどって前置きしてママさんは理由を語りだす。
まずは時間。
2人とも来年は受験生、玲奈は東大、承くんは防衛大と相応の準備が必要な大学。
勉強に準備に大事な時期に入る。
そして、これまでも2人には時間があり友達としてはお互いに理解があり知らない者同士では決して無い。
もちろん恋人、夫婦と段階が上がればまたふたりの感性や考え方の違いとか出てくる。でも大事な時期に破局だの恋愛に溺れるようだと…。
そして恋愛には勢いや流れタイミングってものが重要!
ここまで盛り上がって交際に至らないなら…もう縁が無いと思った方が良い。
玲奈『…そんな!』
『…最もだと思います。
もう高校生活見折り返し…来年には受験生ですものね…。』
ママさんが意地悪言ってないのは目でわかる。
…俺も誓いが頭にあって…玲奈さんと未来を考えてはいなかった…。
頭をぶん殴られたような衝撃…。
この辺が彼女居ない歴史=年齢の想像限界。
ママ『…遅くても…高校2年生の間に…付き合うでもほどほどの関係を保つでも決めた方がって思うのよね…。
不躾でごめんね。』
『いえ、納得です。
…俺、想像力が貧困で…全くその辺…受験や先のことも考えて居なくって…。
決断は早い方が良いと思います。
…今年中に…答えを出して…玲奈さんともう一度…!』
ママさんの提案に迷いが無くなった!
ありがたい、これで前に進める。
玲奈『…今年中…。』
ママさんは恥ずかしそうに、
『口出しする気無かったんだけど…ごめんなさいね?
でも絶対無駄にならないわ。
お互いにお互いのことをいっぱい考えて結論を出したら良い。
もちろん玲奈も。』
玲奈『…うん。
うん!わかったよ!』
こうして、俺は香椎邸を後にする。
皆んな家の外まで見送ってくれた。
夜空を見上げてひとり思う。
今年中に…決着つける…!
☆ ☆ ☆
こうしていよいよ告白編のスタートです。
年末までに決着を付けると誓う承くんと取り巻く女の子たちの日々をお楽しみください。
去年クリスマス編を書いた時点で、時系列が紅緒さんん告白直後の文化祭終了時点…。
いま、時系列が文化祭前…
一年かけて書いたのに作品中は一年経っていない…!これに気付いた時が1番ショックだったw
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