熊が店主の寿司屋に行ってみた(ガリ付き)
豆腐数
異種族理解って難しいかもしれないby佐藤
俺の名前は佐藤。四角い黒縁眼鏡から察せる通りのインドア派男であだ名もシンプルにメガネである大学生だ。伝説のエロゲー『ひまわりふしぎ書淫電車でさよならをトゥーハート』がこの東京都の端っこに存在している事で有名な『動物の森』の中にある『コムのあな』という店にあると知って、アウトドア派に寝返りしてこの森にやってきた。そして迷った。もうインドアに戻りたくなった。久々に運動らしい運動をしたせいで空腹も辛い。
「そこ行く兄さん、腹が減ってるようだね」
しかも熊まで話しかけて来やがった。
「食うなら一息に」
「うちでは兄さんが食う側だね」
熊が恐ろしい爪のついた前足で後ろを指すと、そこには「熊寿司」というのれんのかかった和風テイストの店がある。流石動物の森だ、動物が店をやっているのも当然というわけだな。きっとタヌキやキツネやハリネズミも店を出してるのだろう。店に通されたところ、テーブルとイスが切り株なのは気になったが、それ以外はまあ普通の個人営業のすし屋といった感じだ。カウンター席もある。オシャレなラグなんかも敷かれている。一人なのでカウンター席に座った。
「とりあえず、オススメをいくつか貰おうかな」
ゲームを買いだめしようと思ってやってきたので、財布にはバイトでもらった給料の半分くらいが豪快に詰まっている。オタ活の為に食費を切り詰めているが、異種族文化交流も兼ねてたまには贅沢も良いだろう。
「じゃあまずは当店自慢の巣蜜乗せ寿司から」
「いきなり種族の壁感じたわぁ」
一応食ってみると、甘すぎる酢飯みたいな……。酢飯には砂糖を入れるからはちみつは意外とアリとは思うけど、メインのネタとなるとな。
「じゃあこれはどうです? 蜂の子寿司! 初来店記念に多めにサービスしときました」
「ビジュアルがグロいわぁ」
もうシャリが見えなくて、寿司下駄が虫で埋まってるし。甘辛い味付けのせいか、アナゴやウナギと脳が錯覚しなくもない……? まぁまぁ可能性を感じなくもなかった、けどビジュアルがきつ過ぎて一般化はしないだろうな。
「既に腹がいっぱいになってきたんだが」
主に精神的疲労で。
「それはいけない、ガリで口直ししてもらいましょうか」
グオォオオオオ! と熊が雄叫びをあげると、チュウチュウ言いながらやけにやせ細ったネズミがお盆を抱えてお茶を持ってきた。
「コイツやせの大食いでね、あだ名がガリ」
「よろしくチュウ」
言いながら、ガリはお盆を勢いよくかじり出した。
「ふーん」
この店のノリにも慣れて来た。寿司屋のお茶はア「ガリ」とも言うからギリギリ合格だろ、多分。
「じゃあとっておきのネタ行きましょうか! 熊の寿司屋ならコレ! 熊肉寿司!」
「慣れをグロで吹き飛ばさないで欲しいわぁ」
メルヘンなのかホラーなのか、ノリがよくわかんないよぉ……。
「こないだの死闘熊プロレスリングで親戚が死んだので、その肉を貰ってきました」
「その仕入れ裏話を聞いて食欲が湧くヴィジョンが見えないわぁ」
「我々は食物連鎖の上に生きているのです。限りある食材を一つでも無駄にしないようにしなくては」
「それにしても共食いはないわぁ」
「そこの床に敷いてあるラグが親戚の熊です」
「親戚の冒涜と最悪の伏線だわぁ」
これでもかというほど異種族文化を堪能し、俺は店を出た。『コムのあな』まではガリが道案内してくれた。サービスはいいんだけどなぁ。
エロゲショップの店主はメガネザルだった。メガネって響きだけ聞くと人間のオタクっぽいけど、実際のメガネザルは、こうして間近で見るとどちらかといえば古き良き宇宙人っぽかった。
熊が店主の寿司屋に行ってみた(ガリ付き) 豆腐数 @karaagetori
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