第29話 強者


 強すぎる者は、弱すぎる者と、なんら変わらないのかもしれない。

 実力のみで比較すればそんなことは絶対にないのだが、「戦闘」においては殆ど同じなのだと俺は知った。


「嘘だ……」


 眼の前でボロボロになって崩れ果て、遂には消えていこうとする相手を見て、足が竦んだ。


 意識が少しずつ帰ってきて、気がつくと俺はただ立っていた。

 たった一人で、自分以外はに。


「……っ」


 審判席の人々へ向けて、彼は生き返るんですよね? まだ消滅していませんよね? と、怯えながら目で尋ねた。


 全員が戦闘で有名どころの審判達は、何故か揃いも揃って青ざめていて、中には口元を押さえて急いで立ち去る者もいる。


 そんな慌ただしい様子を見ているだけの俺には不安しかなく、まだ頭が混乱している。

 訓練で上手くなってきた制御の『力』だって駆使したはずなのに。


 治癒魔法を得意とする使い手の集まる治癒魔法団が駆けつけてきて、崩れる相手へ駆け寄り、魔法やら薬やらで色々と試した後、首を横に振った。

 相手の親であろう女性が声を上げて泣いていた。


 流石にもう理解した。

 俺が殺してしまったのか。


 蘇生すらも叶わないほど残酷に。


「どうして、どうしてここまでしたんだよ!? こんな、未成年だけのお遊びで!!」


 父親であろう男が、こちらを向いて悲痛に叫んだ。

 俺は誰かの親ではないが、もし自分が男の立場なら、同じように怒っていたかもしれなくて、何も言えず黙り込んだままになる。


 お遊びなんて思わないが、それほどにも悲しいことをした自覚はある。少年の命はもう、帰らないのだから。







 そんなことがあったのにも関わらず、その後試合は続行された。


 大人ならば事前契約で生命の保証はされないとされるが、この年齢で完全な死者が出るなんて予想されてなく、そういった説明はなかった。

 しかし、この『力』は強く、それが本物であることを見たいのだと、審判長が言ってしまった。


 相手の両親が泣き叫んでも、相手の遺体を見ても、俺がやめたいと懇願しても、聞き入れては貰えなかった。

 続けないのなら、今度はお前達の命が危ういぞとの脅しをかけて。


 試合を続行する上で、俺は炎を使うことをやめた。

 四獣ばかりを相手にしてきたこの炎は、一般的な力しかない相手にはあまりにも強すぎたことが、このような被害を生んだのだから。


 四獣や同等の力のある相手には使うが、それ以外の相手には炎以外の魔法と武術で対抗することで、何とか試合をこなしていった。

 それでも負けることはなく、俺達のチームは順決勝まで到達した。



 今さらながらに団体戦のルールを説明する。

 同じ学校、同じ学年の中から合計六人のチームを作り、一対一、二対二、三対三の三本勝負で勝ち数の高かったチームの勝利。

 どの勝負を担当するのかは自分達で判断するが、俺は攻撃回復のどちらも使えることから、ソロで戦っていた。


 同じチームのメンバーは公平な決め方とは異なり完全にやらせで、青竜、朱雀、麒麟、そして黄竜の女子と悪魔の女子。

 学校として、初めは白虎もメンバーに登録していたのだが、訓練の不参加率があまりにも低く、これでは本場も……とのことで、最終的にはこのメンバーに決定した。


 そんなやらせメンバーだが割と仲は良く、訓練でも人間関係での対立は見られなかった。


「ねえ不死炎鳥フェニックス、手加減するのも退屈だし、あたしも誰か殺そうと思うの」


 俺が相手を殺した試合の次の休憩時間に、朱雀が気だるげにそうぶっ放した。


 ヒトを殺してしまうことがどれほど怖かったのか分かっていない、湧いた怒りから反論しようとすると、青竜が先に口を挟んだ。


「朱雀、お前誰かに恨みでもあんの?」


「え、ないよ? でも、これってれっきとした戦闘大会でしょ。こんなに沢山専門のヒトとかが見守ってるんだから、殺すつもりでやっても良くない? 阻止したいなら主催者が責任持ってルールに書くとか何とかすればいいんだもん」


「ああ、そっか。てかこんなところで同年代に負けてるザコなんて、どうせ戦場出る前に死ぬし。ただの大会なんだし、殺される前に棄権する判断もできないのは終わってるよなー」


 軽々と他人をあざ笑うふたりだが、口調や仕草が若干ぎこちなく、そしてわざとらしく、俺のために言葉にしてくれているんだと察した。


 大人の責任、相手の責任、そうやって人のせいにしまくるのは良いことではないが、少しだけ気分が落ち着いた。

 自分だけの責任じゃないなんて当然のことを思い出させてくれた。


 だけど一応確認しておきたくて、髪を整えている朱雀に聞いた。


「……本当には殺さないよな?」


「……どう思う?」


 質問の答えになってない答えを返し、ニヤリと悪役顔で笑う朱雀の頭を、黄竜が軽くはたいた。


「ザコ共には手加減しなさいよ。リアルでもカスに無駄な体力消費したくないでしょ、オヤスミなんてないんだから」


「あーそっかぁ。めんどくさー」


 心底残念そうにそこら辺のベンチで寝転がり、折角整えていた髪の毛をぐちゃぐちゃにしながら朱雀は呟いた。


 彼女らのおかげで自分のしたことに向き直れた俺は、ソロの枠を青竜とペアだった朱雀と交代した。


 準決勝も楽々突破し、本命の俺達に対し、ダークホースと呼ばれていたチームをついに、迎え撃つ。

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私の星と、炎の星。 雫 のん @b592va

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