第四章 監視下の学校生活

第28話 四獣



 実技検査が終わり、きっちり一週間後。

 クラス替えが行われ、生徒達はA~Eのクラスにそれぞれ振り分けられた。


 俺の属するCクラスには、S+の評定をもらった青竜や、A+の評定をもらった朱雀、同じくらいの好評価を得たであろう四獣の麒麟、白虎も属している。

 しかし、あまり目立たない評定であった者が属していたり、非戦闘型の化物も属しているため、実力主義とも言い難い、ばらつきのあるクラスであった。


 それでも現役の四獣が属しているこのクラスは、良い意味でも悪い意味でも目立っている。

 四獣の年齢は同じになるよう定められているため、四人が同年代であることは当然として、それを振り分けないことに誰もが疑問を覚えていた。


 それを吉と取るか凶と取るかはそれぞれ次第。

 同じクラスの者は、それを学びのチャンスと考えるか、自分との差が出ると考えるか。

 別クラスの者は、他学年と同じ立場で学べるのか、身近なお手本を目に出来ないと嘆くのか。



 俺は、同じクラスの者として、前者。



 炎となればどんな繊細な操作でも可能とする朱雀。

 先生ですら防ぎようのない事故や『力』の暴走、気象変動までもに抗える青竜。

 自身の器に合わないことばかりに力を注いでモノにした、天才と呼ばれる麒麟。

 一撃で何メートルもの大岩を破壊できる、パワーの権化と呼ばれる白虎。


 彼らは俺にとって不釣り合いな『力』を隠したり、こう言っては悪いが、最悪の場合に助けを求めることができる。


 前回の検査で、俺には制御能力が足りないと学んだ。今の俺に、『力』の暴走を止める術などない。

 前回のことから、先生にもまるで期待をしていない。

 いざとなったときの制御ができるようになるまで、彼らがいないよりはずっと安心できる環境。




「蘇復くーん」


 定められた教室でただ教師を待っているだけの朝、聞いたことのない声でわざわざ名前を呼ばれ、声のした方向を向いた。


 赤色の混じる緑色の長髪をサイドで縛り、赤とグレーのオッドアイでにこやかな眼差しを向けるのは、つい先ほど考えていた四獣のひとり、麒麟。

 額から生える黄金の角は長くて艶やかで、見る者をうっとりとさせる不思議な力があるよう。


「麒麟、君?」


 その顔にあまりに可愛げがあるもので、一瞬女子かと迷ったが、服装から君付けかと思ってそう付けた。


「あはは、呼び捨てで良いよ。代わりにこっちも呼び捨てにさせて貰うね、フェニックス」


 尖る八重歯を指で隠しながら、麒麟は笑った。


「麒麟、分かった」


「名前で呼んでくれる? あ、知らないか。無龍むりゅうだよ。無いに難しい方の龍で、むりゅう」


「龍じゃないのに……?」


 率直な疑問をぶつけてから、無龍が言葉に詰まったのを見て、触れてはいけない話題だったかもしれないと口をつぐんだ。

 だが、無龍はその後、少しの間も開けることなく平然と笑った。


「そうなんだー。麒麟とか言うけどさ、実は僕の親ってどっちも龍なんだよ。誰だったか親戚に麒麟がいて、隔世遺伝とか言うやつ」

「そう、か……」


 それだけ言うのがやっとで、どちらとも気まずい空気を感じ取った。


 遺伝子的にあり得ないだろうと思ったが、そんなことよりも、わざわざそんな名前を付けるのは非常識。


 フェニックス、もそのまますぎるが、悪意がこもっているわけでもない。

 あんなことを聞いてしまって悪かったと、つい目をそらしてしまった。


「フェニックス!? 気にしなくて良いから……。仲良くしよう!」


 目をそらしてしまったはずなのに、慌てたように気にするなと笑って見せてきた、むりゅー。


 作りものかもしれないのに、全然そうは見えない明るい笑顔が、俺には眩しすぎた。

 差し出された手は不思議と上手く取れなくて、結局こちらの手を掴まれて握手した。


「よろしく!」


「よ、よろしく……」



 家柄というものは、やはり強い。


 力のある家の者は、『力』が優れているのだから、なかなか怒られなくて厳しくされない。

 厳しくしようにも、既に殆どが完璧で、叱るところが見当たらないのだ。


 何か悪いことをしようにも、強い力のある家が味方。


 だから真っ直ぐに育つ。

 自分というものに自身を持つ。


 それが良い意味でも、悪い意味でも。








 普通に授業を受け、訓練をし、時々仕事をしていると、いつの間にやら暫く日が経っていた。


 そう言えば、そろそろ戦闘力大会の時期だ。


 戦争時は中止だが、ほぼ収まった今なら開催されるであろうデスマッチ。負けても蘇生はされる。


 賞金はとても高く、地域別のトーナメントの後、全地域の総当たり戦がある。

 三勝以降から賞金が増えていき、地域優勝の賞金でも、ざっと五年は楽して生活できるという、とてつもない規模の大会。


 と、それは俺の年齢では出られない個人戦の話で、俺達は学校としての団体戦に出場する。


 玄武学校は、この星では一番の戦歴を持つ小学校。

 名門ではないが、毎年銅賞以上を勝ち取っているのだとか。


 玄武達教師陣は躍起になっていて、四年ぶりの金賞を目標に、最近は訓練の授業が多い。


 訓練では団体戦向きな青竜に何度も助けられていたが、だんだんと制御も扱えるようになり、味方として相性よく戦えている。

 敵となるとかなり厄介な相手で、団体の訓練では、その他メンバーを先に倒すのが必須。


 一対一では朱雀が良い相手になってくれた。

 炎と炎を直接ぶつけあえば、どっちの方が強いのかがよく分かる。

 火力は相変わらずこっちが上で、精密操作は相変わらず向こうが上で、少しずつ高めあえていると思う。


 無限自己回復を扱う麒麟は、一対一でも団体戦でも、負けることがなかった。ただし勝つこともなかった。

 どちらかが疲労による棄権ばかりで、躍起になりがちな相手。


 残る白虎だが、戦闘訓練には参加せず、いつもの授業でも何も聞いていない。

 何を考えているのか分からないのはみんな同じで、連れ出そうとしても物理的に無理だった。



 そんなこんなで日は進み、当日。

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