第27話 玄武と光ノ星



 後に怪光戦争と呼ばれる戦争が始まり、第一の爆撃がたまたま全て当たらなかった化物界の校舎から、外の様子を見に出てきた玄武は、真っ白の長髪をハーフツインにした少女に出くわした。


「オジさん、玄武げんむ、で合ってた?」

「ああ……わしは玄武だが君は……」


 その少女は、待ってましたと言わんばかりに微笑み、問いかける。

 光の星の貴族特有の、艶やかな白髪をなびかせながら。


「やっぱり怪物って凄いねぇ? 六百年くらい前――まだここが化物界じゃない頃にもそんな名前の奴がいたんだってね。戦争を止めてくれだとか抜かしてた、あんたみたいな腐った緑色の髪をした男」

「怪物じゃない、わしはただの化物にすぎん」


 皮肉や暴言を混ぜ、挑発的にカラカラと嗤う少女を睨み付け、玄武は反論した。


「いや、そこそんな拘る? 怪物も化物も同じじゃない?」

「怪物は人間との意思疎通ができなく、人間の様な姿にはなれない。対して化物は人間の姿に化ける――いや、怪物の姿に化けることができるヒトだ」

「あっそ。だから恐星きょうせいに化物界なんてダっサい名前付けたんだ。恐くないよーっ、人間とお話できますよーって?」

「馬鹿にするな」


 またも、ニヤけ顔で口元に手を当て、意地悪く笑う少女。

 反論をするのも面倒になり、自分ですら気付かれない程度の軽いため息をついた。が、少女は気づいた。


「……なにため息ついてんの? うざ。言いたいことあるならはっきり言えば?」

「言ったところで聞かないだろう。……にしても、言葉が上手い。君は光ノ星の者だろうに」


 白髪に少しばかり目をやって、玄武は視線を少女に戻す。

 限りなく本場の闇星語に近い言葉で話している彼女は、はたしてどんな立ち位置なのだろう。


 爆撃と共に訪れた敵なのか、この時期としては怪しいがたまたま訪れた客人なのか、そうではない目的の誰かなのか。


 白髪の少女は、クス、と静かに笑う。


「私ね、玄武の思ってる通り、光ノ星から来たの。悪い星々に制裁を下す正義の星、人類の、平和の味方」

「……平和?」

「化物とか言ってる玄武達怪物って、『人間』にとっては存在してるだけで恐い、要らない存在なんだよ? あんた達が多分、一番良く知ってるはず」


 肯定せざるを得ない理不尽。自分勝手な正義の押し付け。

 そんな、『人間』に忌み嫌われる『化物』は、決して万『人』に受け入れられるものではない。


 その星なんかの味方に付くものだから、闇ノ星だなんて不名誉な名前を付けられた、かつての神星しんせい

 化物界――恐星きょうせいと対立するはずだった、資源溢れる命の星。


 代わりに『人間』の光となったのが、今の光ノ星。


 そこで生まれ、生きて、そうすればそれだけで、宇宙の万人の憧れとなる。

 美しい色素の薄い髪の毛は、そんな光の象徴で、白ければ白いほど純血――高貴なる者。


 目の前の少女の、降り立ての雪の様に真っ白な髪の毛も、『人間』から見ればまるで女神。


 ただ、『化物』から見れば――



「恐ろしい、そして要らないだと? 宿敵が、ここへ何をしに来た」

「宿敵だなんてあんまりよ。確かに良いことしに来た訳じゃないけど、私にだって名前くらいあるんだからね? 玄武ばっかり名前で呼ばれるとかズルい」


 ならば呼ばなければ良いだけでは――と考えたが、求められている応えはそうでない。


「ならば、名前を聞かせてくれ」

「略してエトリ。そう呼んで」

「だが――一応、本名も聞かせてくれるか」


 間髪入れず愛称を口にした少女にたじろぎ、玄武は本名を問う。


 エトリ、と言う名前が、本名に伸ばしたときにこうなったら――。


(Endless Twinkle Princes)


「エンドレス・トゥウィンクル・プリンセス。長ったらしい上に、捻りもなくて、お洒落じゃない。何でこんな名前になったんだろ」


 ふて腐れた顔で嘆くエトリ、その名前が表しているのは、彼女が『天才』だと言うこと。


 この世界に、光ノ星に現れた、本物の女神だ。


「なぜそんな者がここに? いい加減答えてくれないか」

「私ってもしかして有名人? まあ、私は『天才』だからね。みんな私を求めてるの」

「要件を言え」

「みんなが私を求めるでしょ? 正しくは、私の神様みたいに凄い『魔法』を。同じよ。私も求めているから来ただけなの」


 何を、とは聞かなかった。


 言い方からして、それこそ神様みたいに凄い『力』を持った者が、この化物界にも居る。

 神様みたいに凄い『魔法』を使うエトリすらも求める『力』を持った、その者とは一体。


「でもね、それが誰だか分からないのよ。『魔法』の力でこの星ってことだけは分かったんだけど、そこから先がなーんにも。玄武はこの星の長老らしいし、知らないの?」

「生憎心当たりはない」


 Fenix――名前を言い残して飛び立った、齢六歳の少年の姿が頭を過る。

 それと、その年にして異常すぎる回復力を見せつけた、平和を求める少女の姿が。


 流暢な光星語で名乗り、最高火力の炎を使うフェニックス。

 真っ白な髪の天使であり、それこそ『人間』にとっては好ましい存在であるはずの、化物としては珍しい、人と適応できるであろうエンジェル。


 その存在を言ってしまい、彼、彼女の将来が潰されるのはいけないと思い否定した。


「そっかぁー。でも、玄武ですら知らないってことは大人じゃないよね……あ」


 エトリはほんの少し声を漏らしてから不適に笑う。


「この学校で見てれば良いんだ」

「それは、どういう」

「そのままの意味よ。ここは光ノ星が新しく建て替える。爆撃で壊れたってことにでもして」

「何を勝手に――!」

「私は『天才』少女のエトリ。あんたがいくら強かろうが、『天才』の『魔法』には敵わないんだって、馬鹿じゃないなら分かるでしょ?」


 分かる。分かるが、これでは候補者を隠した意味が――


「――良いでしょ?」


 強烈すぎる悪寒を前に、なす統べなく、玄武は黙って頷いていた。

 






β∴*あとがき*∴β


読んでくださりありがとうございます!!

少しばかり長くなりましたが、裏話的なやつでした。

まとめると、玄武は脅されて「光ノ星と仲良く」してました。


英語間違ってたら教えてください!

ネットで確認して書いたつもりですが間違っているかもしれません、、

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