第26話 実技検査
大慌てで炎を抑えようとあわめいてみてもどうにもならない。
何度も訓練し、どこまでだって操れるようになった『力』だと言うのに。
周囲の皆が悲鳴や不安そうな声を上げていて、自分までもが竦み上がってしまうほどに、燃え盛る赤。
こんなはずじゃなかった――、と絶望感で頭が一杯になっていく中、広がった炎の上空に、真っ青に光る、大きな魔法陣が瞬間的に展開された。
「
耳に届いたその声の持ち主が、天空に魔法陣を張った者だろう。
魔法陣はみるみる内に――とまではいかずとも、少しずつ俺の炎を吸収し、最後には全てを吸収しきった。
今日、俺たちは予定通りに『力』の披露をしていて、今回もステージはグラウンドの森林、席順で行っていた。
席は名簿ではなく、分かりやすく言うならば身分の低い者順だ。
これは、基本的に身分の低いイコール『力』が優れていないとなるため、強い『力』の後で、披露する自信をなくしてしまう生徒を減らすための、今回からできた措置らしい。
その代わりに、身分の高い者はプレッシャーが重くなるという難点もある。
下から、獣人、非戦闘型の化物、戦闘型の化物、四獣含む高貴な家柄の順で、俺は戦闘型の化物に値する。
後半の方なので、早くに終わった者はボーっと待ちぼうけしているかのように見えていた。
いつもの自宅での訓練のように手を広げ、心で威力を制圧して規模は最小に、そうなるように細心の注意を払って行ったつもりだったのだが――
何とか収まったことに安堵しつつ、声を発した魔法陣の使い手を目で追った。
向こうもそれに気がついたようで、こちらが声を発するよりも先に声をかけてきた。
「大丈夫だった? あとお前さ、制御覚えた方が良いと思うよ」
「制御?」
アドバイスの具体的な意図が分からず聞き返すと、相手――青竜は快く説明をしてくれた。
「能力制御の『力』もあって、お前みたいに強すぎる奴って時折暴走しちまうもんだから、そいつで普段からブレーキかけとくの。で、滑り止めみたいに後始末できる『力』も覚えとくと良い」
「分かった、ありがとう」
「良いよ、お陰で先生に一番得意な『力』見せれたし。森消しちゃったら、回復も何もなくなるじゃん?」
「それなら良かったんだけど――」
悲鳴を上げていた皆や、アイツじゃない俺でも結局やらかしてしまったせいで、迷惑をかけたかもしれない先生に向き直る。
青竜のためになったのは良かったと言えるが、その他の全員がそうだとは言えない。
その心配は消して杞憂などではなく、少し離れた所で震えて抱き合う獣人達や、氷や水の『力』で周囲を冷ましている者がいた。
先生はと言うと、少なく小さいながらも火傷を負った生徒達の手当てをしている。
回復ができそうな者はいないらしく、多少のもたつきが見られた。
申し訳なく思っても、他者を回復させる『力』は使うことができない。
俺がシルフに使った『力』は、基礎的なものではなくオリジナルで、一定の基準を満たした相手にしか使えない。よって、今負傷をした誰にも使うことができず、何もできない自分が腹立たしくもあった。
そんな俺を見かねたかのように、隣に立つ青竜が俺の肩をそっと叩いた。
慰めかと思われたそれは、どうやらそうではないらしく、叩かれた肩から青く淡い光が俺の全身に広がる。
「これは」
「
3NS、と彼が略した『力』の名称は、スリー・ネオル・エス。
ネオルは、炎×レーザーのビレイカと同じように、ヴァレン言語で言う上昇×付与という意味を持つ。
他者に掛ける、オリジナルの『力』にありがちな枷を外す『力』だ。
これによって俺は回復に回れるのだが、心を見透かしたみたいな行動が、少しばかり恐かった。
怪我をさせてしまった皆を治癒することで、多少の罪悪感は薄れたものの、なくなった訳ではない。
気にするな、治してくれてありがとう、――そう言ってフォローしてくれる先生や生徒の言葉が、余計に心を痛めさせた。
実技評価はA、十四段階中の、上から四番目。
青竜、朱雀はそれぞれ一番上のS+、三番目のA+で、流石だなとしか言い様のない結果。
後から聞いた話だが、シルフはA+だったらしく、殆ど気を使わずに嬉しそうにしていてこっちまで嬉しい気持ちになった。
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