第25話 新校舎
春が来て、桜が少し前に散った頃、俺は歩き慣れない新校舎の廊下をひとり歩いていた。
真新しい新校舎は以前のボロの面影が見られ、そして以前と変わらない下駄箱があった。
指定された教室へと足を運んでいく途中で、俺は見慣れない小洒落た服で着飾る教師、
「よく来たなぁ
「……こんにちは」
校舎とは違い、まだ新しそうな黒いスーツに、こちらはかつてよれよれのTシャツを来ていた面影が微塵もない。
心なしか、ボサボサの髪の毛も艶めいている気がする。
「なんじゃ、何も言わんのか」
「――そのスーツ、どうしたんですか?」
「ははっ。これは買ったんじゃよ。光ノ星が支援してくれたんじゃ」
「光ノ星……?」
「疑うのも無理はない、だが大丈夫じゃよ。もう、あっちの王とは話も済んだ。これからどんどん経済成長もしていくと良いな!」
玄武の大きく開いた口から、少し乾いた快活な笑い声が飛び出した。
まだ戦争は終わっていないものだとばかり思っていたから、玄武の説明を聞いても疑いは晴れなかった。
その目で見てみれば晴れるものだろうが、生憎そんな光景は見ていない。
「それ騙されてませんか?」
「何を言っておる。警戒しとるに決まっとるじゃろうが。その上で今は有り難くご恩を受けておる……つーか、そうしないとまずかった」
「それなら、分かりました」
軽く会釈してその場を離れる。
軽々しい足取りの玄武を見るに、ああ言いつつも余裕ができたことに多少浮かれているのだろう。
ガラガラと音を立てて扉を横に開き、教室に入ると、ひとりの少女が顔を上げて駆け寄ってきた。
「久しぶり!! あたし朱雀だけど、覚えてる?」
「え、お、覚えてる……」
「良かった! クラスいっしょみたいだね! 『力』のやつ、良かったらまた教えてね」
朱色の長い髪、朱雀の家名――。
『力』の披露の後に声をかけてくれた子だろう。見知った顔が元気そうで良かった。
暫く話し込んでいると、教員であろう狐の大人が教室に入ってきて生徒たちに声をかけた。
「皆さん席に着いてください。これから話を始めます」
その言葉を合図に皆はだんだんと静まり、沈黙が流れると教員であろうその女性が話し始めた。
「初めまして。私は
そうしてちょこんと頭を下げた狐島に、生徒たちが拍手を送る。
光ノ星の教員でも出てくるのではないか、と内心ひやひやしていた俺は安堵した。温和そうな笑顔で、女性にしては長身の狐人。
「再開しただけだし、式みたいなものはありません。まずは、皆さんの遅れている分を確認するために、クラス分けテストを行います。今日は筆記で明日は実技をやります」
えー……、などの文句は流れなかった。
皆は頷いたり、真剣な眼差しで狐島を見つめるだけで、早速筆記具を取り出している者もいる。
かく言う俺も筆記具を取り出しながら、彼女の言葉に頷いていた。
* * * * *
筆記テストが終わり、今日は解散となった。
もう小学校に入る年齢となったシルフに今日のテストのことを尋ねると、思ったより簡単だったと答えた。
体育と『力』だけ、なんてものは口先のみで、シルフは家できちんと他教科の勉強もしていたから、その成果が出たのだろう。
とりあえず、今は成績には困らなさそうで良かった。
「フェニー、フェニのとこも明日『力』やる?」
「ああ、やるらしいよ。今度は気を付けないと」
「今度? 前何かあったの?」
「ちょっと、間違えた。それより……」
シルフは頭上に疑問符を浮かべていたが、あまり思い出したくない出来事だったため、この話はここまでにさせて貰った。
前みたいにアイツの能力には頼らない。
超人すぎるアイツの能力は、警戒や不信感を生んでしまう。
アイツが出てこなくなってから、俺が新しく鍛えていった『力』。
俺たちの年齢では若干期待値が高いとされる、既存の炎の『力』だ。
これならばきっと、あの時みたいに不信がられることもないだろう。朱雀は思い描いていたものと違うと感じるかもしれないが仕方ない。
何事もなく帰宅した俺たちは、いつものように食事、勉強、入浴などをとって眠りについた。
* * * * *
俺の意思と反して、炎は暴れた。
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