第24話 生活費


 学校再開のお知らせ。


 一時の爆撃が過ぎ去り、若干化物界の経済も安定してきたと言う頃、小学三年生――八歳の不死炎鳥フェニックスの元へ通達が来た。


 どうやら、損傷した旧校舎の修理が完了すると同時に学校を再開すると決定したらしい。


 てっきり行方不明者がもう少し見つかってからだと思っていた。

 が、自主勉強や訓練以外に特にやることもなく、毎日が退屈で、日々をぼんやりと過ごしていた俺――不死炎鳥フェニックスにとっては有難い知らせであった。


 その旨が書かれた紙を見ると同時に、寝転んでいた安物の布団から起き上がってタンスを開いた。

 木造の小さなそれから、あまりにも膨らんでいない財布を取り出し、部屋の壁に掛けてあるコートを羽織る。紙はくしゃりとポケットにしまった。


 外に出ると、頬を乾かせるひんやりとした風が吹いてきた。


 今はまだ肌寒い十四月。

 木々は彩度がなく枯れきって、少し前にも真っ白な大雪が降り、雪かきせざるをえなかった。


 そんな中向かった場所は、以前に食料を買いに出かけたときに見かけた文具店。

 学校再開にあわせて、ノートやらペンやらの文房具を揃えておこうと思ったのだ。


 一通り購入すると、財布にあった微かな硬貨は底を尽きてしまい、もう一度、何とかして仕事を探さないといけないことに辟易する。

 前におこなった仕事は、所謂いわゆる肉体労働。未成年の小学生、ましてやアイツほど優秀でない俺にできる仕事など限られている。


 本来ならば、底を尽きる少し前から余裕を持って仕事を探すのだが、少し前にシルフが重い風邪を引いてそれどころではなかった。


 小さな木造の家に帰ると、もうすっかり回復したシルフが元気よく俺を出迎えてくれた。


「フェニお帰りー! 何にも言わないで出ていっちゃうもんだから心配したよ」

「ごめん、文房具買いに行ってただけなんだ」

「えー? シルフの分も買ってきてくれたら良かったのに」

「買ってきたに決まってる。お金は、なくなっちゃったけど……」


 シルフの分の文房具が入った、薄茶色の紙袋を手渡す。失望混じりの声で現状を悲観すると、目の前の少女は心底すまなさそうに呟いた。


「シルフが風邪なんてひいたから」

「そう言うつもりじゃ……」

「分かってる。でもシルフがそう思うからそうなの」

「シルフ……」


 俺の金がないことは、俺だけでなく彼女にまで影響を及ぼす。

 先刻より一層、仕事を探す意識が強まった。


 今後は学校も始まるから、今ほど時間に都合はつけられない。今のうちになるべく多くの金を稼いでおかなければ。


「ごめんな、シルフは心配しなくて良いから、しっかり勉強するんだよ」

「……体育と『力』は頑張るね」

「……シルフ」


 座学は頑張らないと、おどけて見せるシルフに温かい眼差しを向け、困ったように眉尻を下げた。

 それを見たシルフは、手を口元に当ててカラリと笑う。


 シルフの新緑の髪が、その笑い声に合わせて元気よく跳ねた。




 * * * * *


 仕事は幸いにもすぐに見つかった。


 炎の『力』を生かした仕事で、更に分かりやすく言うならば火力発電。


 燃料要らずで大幅な節約になる、と、多額の給料を貰ってやっている。

 俺以外にも炎の使い手はいるとは言え、アイツの磨き上げた炎にかなう使い手はいるはずもなかった。CO2の排出はない。


 そう言えば、アイツはあの日以来出てきていない。

 こんなにも長期間代わらなかったことは初めてで混乱したけれど、アイツの書き残したメッセージが、そしてシルフが俺を安心させていた。


 毎日毎日、汗水垂らして暑苦しい現場を乗り切った後に待っているのは、妹同然の少女の笑顔。

 その幸せそうな笑顔のためならば、今は何だってこなしてやれる気がする。


 子ども二人分、一ヶ月分の生活費は数日で稼ぎきり、貯金もどんどん貯まっていく。

 いつ起こるか分からない戦争に備えても、地下室を造るだとか避難経路の確認だとか、そういったことはシルフといっしょに済ませた。

 これならばシルフだけは失わずに済むんだと、そうはっきり言えるほどに。



β*∴あとがき*∴β

十四月は、地球の二月後半~みたいなものです。

一年は十六月あり、大体四月ごとに季節が変わります。

学校が始まるのは一月になります。

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