第20話 洞窟の中
20.
僕たちはダンが示す先を見て、切り立った崖の下に洞窟らしき黒い穴が開いているを見つける。そのまま隊列を保ったまま近づいていく。
僕は目の前に現れた先の見えない洞窟に、うんとひとつ頷いた。
「たしかに、ダンの言う通りの場所に洞窟があるね。それにこの地面……」
「様々な大きさの足跡が続いておるのう。あのオークやゴブリン、そしてコボルトのものと見るのが妥当じゃろうな」
カナンの言う通り、この辺りの地面はかなり荒れていて、押しつぶされた草やその下についた足跡がはっきりと見える。洞窟自体の大きさもかなりのもので、オークの巨体で中に入っていくことも可能であろう。
そして、洞窟の入口の地面を見て気になることが一つ。
「――オークの足より、大きそうな足跡がありますね……」
エディの言葉に、僕たちは頷きを返した。
オークの足跡でさえかなりの大きさだが、どうもそれよりさらに大きな足跡が見て取れる。それほど多くのことは分からないが、この中にオーク以上の巨体を誇る魔物がいたらしいことは確かだ。
問題はそれが魔王なのかどうか、そして今も中にいるのかどうかだが――
「フェン。中の音や臭いで何か分からない?」
「確かめてみる」
僕のお願いに、フェンは頷いて【獣化】を発動する。毛が生えてより動物に近い姿を見せるフェンに、ダンとアンリが感嘆の声を上げた。しかしフェンはそれを少し煩わしそうに見ながら、すぐに洞窟の中へと意識を集中させる。
そして――
「臭いは……いろいろ混じった酷い臭いで、あんまり詳しくは分からない……。でも音は――――今も中から、大きな生き物の吐息が聞こえてくるよ。たぶん、一体」
僕たちは揃って目つきを尖らせる。中にいるのが魔王かどうかは分からないが、少なくとも手掛かりになりそうな何かがいるらしい。それだけ分かれば、僕たちが取るべき行動は一つだ。
カナンは僕たちに視線を巡らせ、ゆっくりと口を開いた。
「中にいるのがお目当ての存在そのものなら、突入をためらっている間に逃げられることもあるじゃろう。であるならば、用意が十分でなかろうと中に入るしかないのう? こんな時のために腕利きを集めたわけじゃしの」
「異論はないよ。……ほんとはフェンを置いていきたいけど、それができないのも分かってるし。ついでに言えば、ダンとアンリたちにもついてきてもらわなきゃね」
「えっ、俺たちもですか!?」
驚いた顔のダンとアンリに、僕は申し訳ない気持ちで説明する。
「二人には悪いんだけど、できればそうして欲しいんだ。このままここで待つのも、二人だけで街に帰るのも、もしまた魔物が出て来たら危ないのは分かるでしょ? 僕らについてきて大人しくしてれば、命は守ってあげられるからさ」
「………そんなの、願ったりかなったりですよ! 俺、ダイヤさんたちみたいな一流冒険者の戦い、もっと見たいと思ってたんです! アンリもいいよな!?」
「うん。ダイヤさんが言う通り、その方が安全だって私も分かりますから! よろしくお願いします」
「おお、そういう反応するのね。……じゃあまあ、フェンと並んで大人しくしててね」
「はい、分かりました!」
任務に巻き込んでしまって悪いと思っていたが、予想外にたやすく受け入れられたことに少し面喰らう。一度命を助けてあげたことがだいぶ好印象だったようだ。
――とにかく、二人の同意が得られたなら、あとは進むだけだ。
僕は事の成り行きを見守っていたカナンに目配せする。カナンはそれに軽く頷き、僕たち全員に告げた。
「――これより洞窟に入り、中にいるであろう魔物の調査と討伐を行うのじゃ。ダイヤを先頭に、中央にわらわと子どもたち三人、そして最後尾はエディ」
「行くのじゃ」という号令とともに、僕たちは暗い洞窟に向かって足を踏み出した。
中に入った瞬間、急に周りが暗くなって視界が一瞬失われる。しかし洞窟のような暗い場所も想定していて、こういう時はカナンが光を出すことになっている。
「【業火】。――これでどうじゃ」
「うん、ばっちり。それじゃ、奥に進むね。分かってると思うけど、これからはできるだけ声と足音を控えて行こう」
僕はカナンが手元に灯した炎の光を頼りに、洞窟の奥に向かって歩き始めた。
洞窟の中は外よりひんやりとして湿度が高く、どこかおどろおどろしい空気に満ちている。できるだけ足音を立てないよう歩いているが、壁に囲まれた空間ではコツコツと音が反響して自分の耳に帰って来るのが分かった。
もし中にいるのが耳の良い魔物なら、すでにこちらの足音を聞いて準備を整えているかもしれない。洞窟の構造が分からないが、入口が一つだけではない場合、仮に魔王がいたとして逃げられていることもあり得る。
――ま、カナンの話ならここに魔王そのものがいる可能性は高くないってことだけど。だって他の場所でも魔王がいた形跡が見られたりしてるっていうんだから。
僕はそんなことを考えながら、しかし周囲への警戒を緩めることはない。常に前方と左右には気を払い、いつ襲撃を受けてもいいように待ち構えていた。もちろん、ごつごつした床に糞や動物の骨が散らばっていることも把握している。
もしかすると、あのオークたちはまだ幼い魔王への餌をここまでせっせと運んでいたのかもしれない。であるならば、この場所に残る魔王を傍について守っている存在も別にいたはず。そして、その魔物がおそらくこの森において最も強い魔物だ。洞窟の奥にいるという一体は、もしかするとその魔物なのかもしれない。
もしそうなら、残った魔物は魔王に能力を強化されていうるはずで相当厄介な存在だろう、などと考えていた時だった。
背後から、僕の服の裾がちょいちょいと引かれる。立ち止まって振り返ると、フェンが鼻と耳をひくつかせながら小さな声で言った。
「もう近いよ。あと少し、たぶん一分も歩けば奥の生き物のところに着く」
問題児を集めた孤児院院長の僕、やむにやまれぬ事情で誰にも告げずに出奔した結果、みんな病む勢いで僕を探し始める クー(宮出礼助) @qoo_penpen
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。問題児を集めた孤児院院長の僕、やむにやまれぬ事情で誰にも告げずに出奔した結果、みんな病む勢いで僕を探し始めるの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます