第2話

その瞬間、そこにいた全員が状況を理解していなかった。


その現象を引き起こしている少女・ティアもまたその一人である。


「なに・・・?よくわからないけど、体から力が湧き上がってくる・・・!?」


輝きを放ちながらティアは言う。


先ほど少女を吹き飛ばすべく、小太りの少年が放った魔法は、少女の攻撃によってかき消されていた。それどころか、逆に少年が僅かではあるが後方に吹き飛ばされている。


その光景に周囲にいた外野もどよめいていた。



・・・その光は間違いなく魔力。この瞬間に少女の魔力が覚醒したのである。



通常、一般人は魔力が使用できない。魔法学院に入り、解放の魔法を使うことで、初めて人間は魔力を認識し、魔法を使用できるようになる。現代では魔法による犯罪防止のため、魔法学院に入学するまでは特別な許可がない限り、魔力の解放は禁止されている。


小太りの少年のような貴族は例外的に学院に入る前に開放が許可されている。本来であれば、一般人に対して魔法を使用することは禁止なのだが、まあ、貴族は結局罪を帳消しにできてしまうのだろう。


魔力に覚醒すれば、自分が想像した魔法を自在に操れるようになる。


要は想像力が大切だと言える。


ティルはその刹那、少年の放った魔法を拳で吹き飛ばし、リンを守ることをイメージしたのだろう。


しかしそれは結果から得た一考察に過ぎない。魔力が急に覚醒することは、事例としてまれに存在する。おそらくティルは感情が爆発し、内なる魔力が呼び起されたのだろう。私が考えている部分はそこではない。なぜ見た未来が変化したか、その原因を今見つけようとしている。


だが、自分が干渉していない未来が変化したことは今まで一度もない。どれだけ考えても今の私がその結論を出すことは困難だった。


そうしている間にも状況は進展する。


「なっ、なぜ魔力が・・・!?ただの平民がなぜ魔法を使える・・・!?しかもこの俺様の魔法を弾くだけの力が・・・!?」


少年もまた私と同じように状況を理解できていなかった。


「ティル・・・すごい・・・!」


リンもこの状況に驚いているようだ。


「よくわかんないけど・・・、これでこのクソ豚を痛い目に合わせられるわね!」


ティル本人は状況を理解できないながら、嬉々として少年を見下している。どうやら小太りの少年ととことんやり合う気らしい。先ほど怒っていただけの状態よりはるかに自信に満ち溢れている。


「調子に乗るなよ平民が!俺様にまぐれで一発当てたくらいで勝った気になりやがって!本当は二人まとめてかわいがってやるつもりだったが、気が変わった。ここで殺してやる!」


少年は本来の目的を堂々と明かすと、再び魔力を全身に滾らせ、ティルに向かって襲い掛かる。今度は魔力で自分自身を強化し、その拳で殴りかかろうとしていた。ティルもまた応戦すべく魔法を発動しようとする。


ティルは先ほど少年が使った透明な壁をイメージしたのか、その魔法を再現して見せた。だが、少年の拳はその壁を壊し、その余波でティルは後方に吹き飛ばされる。


「ティル!」


リンがそう叫びながらティルのもとへ走る。しかしその足取りはけがをした人そのものの様で、左足を若干引きずりながらゆっくりティルのもとへ近づいている。


「うぅ・・・」


ティルは呻きながら地面に倒れこんでいる。当然と言えば当然の結果だ。普段から魔法を使っている人間とたった今魔力に覚醒した人間では力量に差がある。さっきの1回は本当にまぐれだったのだろう。


「ふっ、しぶとい奴だ。だが次で確実に殺してやる!」


少年が再び煽りながらゆっくり近づいてくる。だがティルは起き上がる気配を見せない。さすがにダメージが大きいのだろう。次の攻撃をまともに受ければ、今度こそ死んでしまうかもしれない。


「もうやめて!」


リンがそう叫びながらティルの前に立ちはだかる。しかし、けがをしているからか、それとも恐怖からか、その足は傍から見ても震えていることが分かる。


「これ以上ティルを傷つけないで・・・!私が悪かったから・・・、謝るから・・・、だからもう・・・!」


リンは泣きそうな声で少年に懇願する。それほどまでにティルのことを大事に思っているのだろう。


だが、その様子を見るや否や、少年は満面の笑みで少女たちを見下す。


「ふん!今更謝ったってもう遅い!二人まとめてぶっ殺してやる!」


少年はそういうと、再び魔法を放とうとする。


「そんな・・・」


リンは絶望したような声を発しながらその場に崩れ落ちる。二人の少女に最後の瞬間が訪れようとしていた。



・・・それで良いのか?私は考えた。



いや、すでに結論は出ているか。


その瞬間、私は少年と二人の少女の前に立ち、少年より早く魔法を放ち、少年を吹き飛ばす。


「えっ?」


リンが顔を上げる。困惑した様子で私の方を見ながら、状況を理解しようとしていた。


「大丈夫か?」


私はリンに話しかける。


「下がっていろ」



・・・私はすべてがどうでも良いと思っていた。私が見た未来を変えるものなど現れるわけがないと。世界が滅ぶ運命を変えることはできないと。


だが、このティルという少女を見て、私は賭けてみることにした。


この少女なら、僅かではあるが可能性が見えてくるかもしれない。ほんの少しでもいい。私の見た未来を覆す可能性。それだけで私が動くには十分な理由だ。


今はとりあえずこの場をどうにかするか。


私は心の中でそう思いながら少年の方を向き、その少年とその未来を覗き見た。










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私は魔法学園で運命に抗う らみゅら @Lamyura

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