5 百鬼夜行
意識がステージに戻ると、場内はなぜかブーイングの嵐だった。
えっ、俺、何かやらかしたか?
だがそれは、渋谷天狗に浴びせられたものだった。
「卑怯者!」
「人でなし!」
渋谷天狗はブーイングの理由がわからず、困惑しているようだった。
「
客席から桜子とクロがステージに上がってきた。タブレット端末をこちらに見せるように掲げている。
「スクリーン・ジャックしたんですよ!このタブレットと大型スクリーンを Wi-Fi 接続して、高雄さんから送られた映像を映し出したんです!」
でかした、桜子ちゃん!頭脳戦では、完全に俺たちの勝利だな。
「ええい、うるせえーっ!」渋谷天狗は叫んだ。「文句を言う奴らは、
するともう1人、ステージに飛び上がって来たやつがいた。
「皆さんっ、元気ですかーっ!」
『河童の里』の副長じゃねえか。またマイクを持ってる。
うおおおおーっと客席でそれに答えたのは、なんてこった、『河童の里』の若い衆じゃねえか。いつ来たんだよ。
桜子が舌を出した。
「みんなを呼んじゃった。てへっ♡」
てへっ♡じゃないよ。タブレットと大型スクリーンを Wi-Fi 接続してくれたのは、里の衆だったんだな。桜子はメカに弱いからな。
「渋谷天狗!」副長が奴を指差して言った。「男の風上にも置けない奴だなっ!
えっ、俺任せ? 手伝うつもりはないのか? 何しに出てきたんだよ。
とりあえず俺は、副長からマイクを借りて言った。
「皆さん、渋谷天狗は妖怪です。これからこの会場で私と戦いになりますので、皆さんは落ち着いて整然とかつ速やかに会場から避難してください」
『河童の里』から来た若い衆以外は、みんな並んで避難し始めた。
懸念されたのはお客さんを人質に取られることだったが、どうやら渋谷天狗にその気はないらしい。それどころか、悠然と避難客を見送っている。
生配信も中止になっているようだ。良かった、これで安心して戦える。俺はサングラスとマスクを外した。
「
渋谷天狗が雷獣に命じたが、雷獣はさきに『河童の里』に現れたのと同じやつのようで、さっきの「ブーメラン・ペンシル」を見て怖じ気づいたようだ。
おれはもう一度シャープペンシルを出した。渋谷天狗が
電撃を喰らった
雷獣が戦意喪失しているなら、先にお前と戦えばいいだけのことよ。
「どうした雷獣、攻撃しろ!」
それは無理だな。クロも雷獣の前で戦闘態勢に入っているし。
「くそっ」
渋谷天狗の背中から突然翼が現れ、空中に飛び上がった。
今度はこっちが「くそっ」という番だ。飛び回っている者に電撃を喰らわすのは、コントロールが難しい。こっちは飛べないから、空中戦とはいかないんだ。
それにしてもこいつ、本当に天狗だったんだな。
持久戦になるかと思われたその時、ズシンという音とともに、ステージが激しく揺れた。
ステージ横から現れたのは・・・
それに続いて一つ目小僧、ぬりかべ、から傘、のっぺらぼう、ろくろっ首・・・なんじゃこりゃあ~!
・・・
「妖怪総大将!」
『河童の里』の若い衆が叫んだ。
それは、『ぬらりひょん』だった。妖怪総大将というのは後世の俗説ともいわれているが、やはり本当だったのか。
確かに『ぬらりひょん』は凄まじいオーラを発していて、実物よりも巨大に見えた。これが総大将の貫禄というものか。
「こりゃ、京天狗!」『ぬらりひょん』は渋谷天狗に向かって言った。「何が渋谷天狗じゃ、このかぶれ者が! そんなに河童が
「すんません!」
渋谷天狗、いや、京天狗は空中から降りてきて『ぬらりひょん』の前で
「今の世の中、妖怪同士が権力争いをしてどうする! 滅びの道をたどる気か!?」
『ぬらりひょん』は
「なあ
『ぬらりひょん』は、今度は俺に向かって言った。俺は背筋がビシッと伸びた。
「幽霊や悪霊はともかく、妖怪の中には、ちょっとしたいたずら心で人間を驚かしたりする者がおる。悪気がないとは言わんが、そういう習性なのじゃよ。ちょっとお仕置きするぐらいで留めてくれんかの? 君も河童と人間のハイブリッドなら、わかるじゃろ?」
いや、最近ハイブリッドだと自覚したばかりで、まだほとんど何もわからないんですけど?・・・とはさすがに言えなかった。
そうして『ぬらりひょん』は、
「あ~ビビった」俺は桜子に聞いた。「君は『ぬらりひょん』に、前にも会ってるの?」
「いえ、私も初めてで」桜子もビビっていたようだ。「さすがは総大将という貫禄だったね。多分、里の長老が話をつけてくれて、それでここに現れたんだと思う」
今度『河童の里』へ行ったら、長老にお礼を言わないとな。桜子の戸籍も、無事に作って貰えたし。
「でも、渋谷天狗との決着、つけられなかったね」
「まあ、しょうがない。それはまたいつの日か、だな。それより、今度の連休にまた河童の里へ遊びに行こうか?」
桜子は嬉しそうに微笑んだ。
(終)
オカルトダイバー3 百鬼夜行 @windrain
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