自分の親族《きみの父》の死をモチーフとした秀作。
《冬の虹》をその死を乗り越え 明日への希望のシンボルとしている。
また《壺》は生物の死が《無機物》へ遷移するそのシンボルとして詠まれ、このソネットの中で最も魅力的な歌となっている。
私なら《肉体がひとりの小さな壺となるまでの宴…酒ばかり咬む》となるが
季節感に一つだけ異質な《ツバメ》が統一感を欠いている、これがインドネシア語であれば問題ないなぜならインドネシアでは1年中ツバメがいるからだがしかしこちらには冬がない。
《私の中で狂い飛ぶツバメの心臓の青が透けて痛かった》
これなら季節が乱れることはないであろう。
文体としても一つだけ異質な《…われのみが土偶のごとく息しておりぬ》が挟まれているのが悔やまれる。
《…われのみが土偶のごとく息していた》こちらが自然であろう。
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編集後記大森静佳の
カミーユなぜか後か
ら注文のカミーユが
献灯使よりも先に来
たが期待を裏切らず
嬉し句なり家呑み止
めて飲みに行くかな
NHKあさイチで紹介と
いう帯はすぐに捨てた
が本帯までもが出てき
て帯を二重に巻くとは
塩屋の岬は三重に巻く
歌人がNHKなどという
二流のマスコミに出る
のが何とも悲しい現実
蕪村俳句集などでは冒
頭別の目次がついてい
て例えば《ほ》牡丹で
始まる句がどれだけあ
るのかすぐわかるので
大森静佳研究者には便
利だろう 自転車 P.103
自転車に追い越されつ
つゆく夜道…
僕の場合はいつも追い
越してゆくんだいつも
僕の方が早いねロード
バイクだからね夜道で
彼女を追い越したのは
僕だったかもしれない
自転車で帰り道
を急いでいた
夕暮れの隅田川
シャンプーの匂
いがした
突然目の前に
若い女の子の
自転車が現れた
彼女のスピード
は遅かった
僕はゆっくり
と追い抜いた
横に並んだ時
嗚咽していた
彼女は泣きな
がら自転車を
走らせていた
声はかけられ
なかった
その日の帰り
道は遠かった
返歌
自転車道さくら蕊ふる夕焼けと
君とさよなら嗚咽しながら