恥のごとき人生の一篇
澄ノ字 蒼
第1話 カードゲームのこと。
小学2、3年生のころ、ドラゴンボールのカードがはやっていた。うちの一ヵ月の小遣いは200円なので当然何も買えない。なんで200円なのかというと、小学校1年生は100円、2年生は200円というように100円ずつ上がっていくのである。高校生の時はさすがにそれでも2000円だったのでそれでも本を一冊買ったらもう終わりである。
そのころもやはり同級生からいじめられていた。ノートをびりびり破られたり教科書をゴミ箱に入れられていたり、女子からバイ菌扱いされて近寄るなとか言われていたりした。 そんな中、Y君という正義感の強い男のクラスメートがいた。いつもクラスメートがY君の周りに集まっていた。僕には関係ない。その日も授業を受けて帰ろうとしたときに、Y君に呼び止められた。
「おーい、蒼ノ山君、少しいい?」
「何?」
普段クラスメートに話しかけられたことがないからどぎまぎしてしまう。少しの期待と何で話しかけてくるのかという警戒である。
「何とはなんだよ。まあいいや、蒼ノ山君もうちに遊びにおいでよ」
「へっ?」
思わず声を荒げてしまう。なんで僕なんかをクラスの人気者が誘うんだよ。
「へっ? とは何だよ。うちに遊びに来ない?」
「行ってもいいの?」
「いいよ」
「本当に?」
「くどいよ。もしかしてうちに来たくないの?」
慌てて言う。
「行きたい!」
Y君はそれを聞くと
「じゃあ学校の校門の前で待ち合わせねっ」
そうしてたくさんの友達と一緒に帰って行った。
急いで家に帰るとランドセルを置いて学校の校門の前まで自転車でこぐ。そこには、女子のTさんが自転車に乗って待っていた。
「もう少ししたらY君も来ると思う」
(うへえ、女子もいるのかよ。苦手なんだよ)とか思ってしまう。いつも女子には蛆ハエのように汚い汚いと言われ扱われているので本当にしゃべるのも嫌だ。
それにしても、Y君は女子にももてるのかと少し嫉妬してしまった。勉強も運動もそしてルックスもよくて女子にモテモテだなんて神様はずるいなと思ってしまった。それから10分くらい待っていると、
「ごめん、ごめん。待った?」
Y君が来た。それから一緒に自転車でY君の家にまで行く。
Y君の家ではおかしにジュースも出してもらって、それからドラゴンボールのカードを見せてもらった。5時になりお礼を言って家を後にした。
帰りはTさんに送ってもらった。事件はそこで起きる。Tさんが唐突に話しかけてきた。
「蒼ノ山、お前さあ、ドラゴンボールのカードいらない?」
「えっ? 何?」
そこで、Tさんはなにかを空に放り投げた。ばらばらと何かが散らばる。Tさんは、あははっ、と笑う。
「さっき、盗んできた。欲しかったら拾えば? 好きなだけあげるよ」
僕は乞食のごとく全部拾う。そして、Y君の家に引き返しカードを渡す。
Y君はしきりに感謝していた。しかし、全部は渡さなかった。レアカードだけは抜き取って置いたのだ。Tさんはどうだろうと思ったが、たいがい僕も人間のクズである。次の日、Y君が僕の机にやってきた。そして、
「残りのカードは?」
「残りのカードは?」
たまらなくなって、頭を下げて、
「ごめん、僕もカード取った。返します」
すると、Y君はごみを見るような目で、
「いいよ。けがれきったカードなんて欲しくないし」
帰ってから盗んだカードはゴミ箱に捨てた。この出来事は忘れたくても忘れられない出来事である。人の信頼を裏切ってしまった出来事だ。今でも自戒として心の奥底に刻んでいる出来事である。
恥のごとき人生の一篇 澄ノ字 蒼 @kotatumikan9853
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます