皆さんが静かになるまでに、先生は異世界を支配してきました。
夜桜モナカ
先生のお話
………………。
ペチャクチャ、ペチャクチャ……
………………。
ペチャクチャ……
………………。
………………。
はい……ようやく静かになりましたね。
皆さんが静かになるまでに、
先生は異世界を支配してきました。
何言ってんの?って言いたそうな、顔してるなぁ〜。
先生も自分で言ってて、頭の上に”
あれは、今から……十分前だったかな?
いつまで喋ってんのかな〜。
あ〜、授業の時間短くなっちゃうなぁ〜。
でも、ここで注意しても聞かないだろうから待つかぁ〜。黙っていよ〜。
……って、先生なっていたんです。
だって、皆さんが静かにしてくれないからっ!
授業の時間だってのに、ぺちゃくちゃ話してっ!
注意しても聞かなくてっ!
毎日、毎日、これの繰り返しですよ。いつまでこれが続くのかなって、ずっと不安だったんです。
今日、皆さんが楽しそうに喋っている間、先生はこんなことを考えていました。
待っている間、つまんないな〜暇だなぁ〜……って。
そしたら、なんと! 先生のスマホが光り始めたんです!
先生はあっという間に、スマホの中に飲み込まれてしまいました……。
気づいた時、先生は知らない場所で寝っ転がっていました。
どこまでも広がる草原……先生は、そこに立っている一本の木の下で寝ていたんです。
今この教室はとても暑いですが、あの場所はとても涼しく、二度寝してしまいそうでしたよ……。
でも、先生はその場所に見覚えがありました。
そうっ! 先生のスマホに入っているゲーム、『アナザーワールド・ミラクルズ』のタイトル画面に写っている場所だったのです!
『アナザーワールド・ミラクルズ』……略して、『アワミラ』は手軽に遊べる放置ゲームで、主人公の勇者が凶悪な魔王から女王様を救い出すという、まさに王道で先生のお気に入りなゲームです。
放置している間に、勇者たちが鍛錬を積み、強くなっていきます。
そして、放置に放置を重ねて、最強と謳われるようになった勇者たちを引き連れて、いざ女王様を救いに行くのです!
そんな『アワミラ』の世界に、先生は来てしまったんですよ!
異世界転生ですよっ! 異世界転生!
先生、今まで異世界転生なんて信じてなかったんだから、そりゃもう口をあんぐりと開けて驚いてしまいましたよ!
でも、好きなゲームの世界に来れて、正直嬉しかったですけどね。
……それで、先生は主人公の勇者になっていたんです。
それも、先生がプレイしていた時のステータスまで引き継がれていて、すでに最強と謳われているわけで。
先生は、状況をなんとか噛み砕いて飲み込むと、すぐに最初の村へ行きました。
そこに、仲間たちがいるんです。
魔王を倒すために鍛錬を積んできましたが、ちょっと休憩ということで、仲間と一緒に故郷である、最初の村に帰ってきたんです。
先生は、仲間たちに声をかけました。
皆さん、いつも通りの元気な顔を見せていて。
でも、この顔はプログラムで生成されたもの……そう考えると悲しくなります。
このゲーム、オンラインで仲間を作ることも出来るんですが、先生はコミュ障……じゃなくて、オンラインで知らない人と繋がることはリスクがあるって、ちゃんと分かっていたから作らなかったんです。
さて、先生は、せっかくだから女王様を助けに行っちゃおう!って考えていました。
あ、そうそう、言い忘れていましたが……先生の推しは、女王様なのです。
お名前は、ローズ。
ちょっと、そこっ! 単純だとか言わない! 美しい名前じゃあないか!
女王様……というより、お姫様って感じかな?
可憐で、穏やかで、可愛さもバッチリ。
そして、何よりっ! とても優しいのですっ!
聖人ですよ、聖人と言っても過言ではない!
魔王め、あの心優しいローズ様を攫うだなんて! ローズ様の大切な国を壊そうだなんて!
ぜっっっっっったいに許せませんっ! この私、最強と謳われる勇者がぶっ飛ばして差し上げます!
……ということで、先生たちは魔王城へと向かいました。
魔王城は、とても禍々しく……恐ろしい雰囲気が、先生たちを追い詰めてきます。
でも、そんな雰囲気だけで負ける先生ではありませんっ!
先生は仲間を引き連れて、その魔王城へと一歩、踏み込んだのです。
魔王城の中は入り組んでおり、さながら迷路のような……。
よく、こんなところで魔物たちは迷わずに過ごせるよなぁ〜って、感心してしまいました。
先生たちは、罠や巡回している魔物たちを上手く潜り抜け……
……ませんでした。
皆さん、まさか忘れていませんよね?
先生たちは、最強と謳われる勇者。
罠は壊せば良いし、魔物なんぞ敵ではありません。
全てぶっ飛ばしてしまえば良いのです。全て。
そうして、先生たちは迷路のような魔王城の中の壁を……ぶち壊して!砕きまくって!
あっという間に、魔王の元へ辿り着くことができました。
壁を壊す、なんてことをしている先生たちを前に、魔王はどっしりとした態度で構えていました。
「よくここまで辿り着いたな、勇者たちよ!」
そうほざいている魔王のそばで……「助けて!」と泣きそうな声が。
ああ、ローズ様……すぐにこの私がお助けしますっ!
ローズ様を悲しませた魔王よ! この私が、この私が、成敗してくれるっ!
先生は……今までの鍛錬で学んだことを、身につけてきた力を、全てをその聖なる剣に込めて………………
魔王に斬りかかりました。
魔王はその一発で消滅。
先生は、魔王を倒したのです。この世界を救ったのです。
ローズ様を捕らえていた魔物たちも倒れ、ふわふわと舞い降りてくるローズ様の手を、私が……この私が取ったんです。
「ありがとう、マサル」
そんなローズ様の優しい声に、私は心を奪われてしまいました……。
ですが、その時、先生は……
ローズ様の手を取り、その声を聞いた先生はこんなことを考えてしまいました……。
この後、ローズ様は国へ戻り、素敵なお城でお父さんである国王やお母さんである王女と暮らす。
勇者たちはお城の護衛につき、主人公である先生は……ローズ様専属の騎士となる。でも、いつか……ローズ様は、隣国のなんともイケメンな王子と結婚し、新たな国を作ることになる。
……つまり、ローズ様はこのお城を出て行かれることになります。
先生とローズ様が結ばれる未来は、無いのです……!
私は、そんなの認めたくありませんでした!
絶対に、ローズ様と結ばれるんです……!
ローズ様の隣には、私がいるべきなのです!
ふぅ……ふぅ……
でも、先生とローズ様が結ばれることを、お城の者が許すはずがないでしょう。
だから……先生は。
先生は、魔王となったのです……!!!
先生は、こっそり魔王城の残骸の残る平野へと向かいました。
魔王の消滅した跡から、魔力を取り込むことができると思ったからです。
先生の予想通り、魔王城には魔力が残っていました。
それだけではなく、魔導書まで。
魔法使いたちが使う魔力とは、また違った”魔王の力”……。
私は、その全てを取り込んだ!
魔王の力はそれは凄まじいもので、最初は取り込むだけでもかなり苦しかったです。
ですが、取り込むほど、力が湧いてくるわけです。
私は、それはもう感激しましたよ。「これが魔王の力か!」って。
気づけば、私は人間ではなくなっていました。
龍のような、怪物のような、そんな悍ましい姿になっていたのです。
でも、私はこれで良いと思いました。
私は、魔王になることができたんですから……!
私はその魔王の力を振るいに振るいました。
お城を乗っ取り、ローズ様を連れ去り、二人で空を飛び、私たちの新居へ……。
ローズ様は慌てているのか、まだ「やめて! 助けて!」と叫んでいました。
全く、相手はこの私だというのだから、怖がらなくて良いのに。
ローズ様と二人で入れる時間を、私は噛み締めていましたが、お城の者やかつての仲間たちが私を必死で追いかけてきます。
「私たちの愛する娘を返せ!!」
「マサル、何をしているんだ!!」
そう言って、持っていた銃の狙いを私に定める……。
もう、いい加減にしてください!
私とローズ様の時間を邪魔しにきて!!
私は炎を吹き、辺り一面を焼き尽くしました。
え? 今まで戦いを共にした仲間たちにも攻撃してしまったのかって?
……私に迷いはありません。
全て焼き尽くしましたっ!!!
仲間たちとの絆? んなもんはありません!
私とローズ様の仲を引き裂こうってんなら、誰だろうと敵です!
ってか、仲間たちも、国王も、王女も、お城の者も、所詮NPCですよ!
コンピューターってことです!
残念ながら、魔王となった私には慈悲というものがありません。
全て焼き尽くされろ! そして、私の前にひれ伏せやぁ!!!!!
え……? ローズ様もNPC……?
そんなこと知っとるわぁぁぁぁ!!!!!!
それでも愛しているんじゃあ!!!!!!
ローズ様は私のものだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!
そして、全てを焦土にしていった私は、高くそびえる山へと飛んで行きました。
そこに、新たな魔王城が建っています。
怯えるローズ様を慰め、私たちはその愛の巣へと一歩踏み入れたのです。
……ローズ様は、しばらく泣いていました。
ローズ様は繊細で優しいお方です。
突然色々な事件が巻き起こったので、混乱してしまったのでしょう。
今更ながら……ローズ様を悲しませてしまったんだと思いました。
時間はかかるかもしれませんが、私がローズ様の傷を癒してあげていけたら良いなと思いました。
それにしても、ローズ様を連れ戻したい一心で魔王城へとたどり着いたヤツや、新たなリーダーを迎えた勇者たちが、かなりの頻度で私たちの愛の巣へと侵入を試みてきます。
私は元最強と謳われた勇者ですから、倒すのに苦労することは無いです。
だけど、かなりめんどいんですよね……鬱陶しいし。
まだ、ローズ様は泣いて過ごしているっていうのに、私とローズ様の愛情を育む時間が削れてしまう……。
ということで、私は魔王城を飛び出しました。
何をするかって?
世界征服ですよ! 世界征服っ!!
世界を支配して、全ての人間の動きを制限すれば、私たちの愛を邪魔するものはいなくなります。
私はすぐに魔物たちを従え、世界の各地へと送り出し……さらには、私を討伐しようとした勇者たちを洗脳しました。
いやぁ〜、なかなか優秀な勇者たちでしたね。
魔王城をしっかりと守ってくれるし、強いし、魔物が全滅してしまった国へと速攻で駆けつけては制圧して戻ってきます。
ま、私が一番最強なんですがね。誰にも負けませんから!
私はしばらくローズ様と共に過ごしました。
ローズ様はまだ悲しそうな顔をしていましたが、私はずっと寄り添いました。
ですが……突如として、私のそばにスマホが現れたのです。
スマホは輝き出し、発せられた光は、ローズ様の元へ向かわねばと歩く私の行手を阻みました。
そして、私はそのスマホに吸い込まれていったのです……。
気がついた時、私はこの場所に、この教壇に立っていました。
皆さんはまだ喋っていて、でもやがて静まりかえって……
今に至る、というわけです。
ローズ様の傷を癒せないまま帰ったことが、かなり心残りですが……。
といことで、皆さん、もっと周りを見て行動ができるようになれば良いですね。
もう授業の時間無くなっちゃったし、皆さんがもっと早く静かにしていれば、少しは授業できたかもしれないですが。
まぁ、先生は、ローズ様と愛の巣で過ごせたので、皆さんのこと今回は許しましょう。
でも、次からは気をつけてくださいね。
時間は有限。授業の時間だって限られているんですから、先生や周りの人の時間を奪わないように。
授業の時間だとすぐに気づいて、すぐに準備して、すぐに静かにして……授業へと向かう体勢を整えてください。
あ、そうそう言い忘れていましたが、先生、魔王の力がまだ残っているんです。
ほら……こんな感じに。
上手く片手で発火できているでしょ?
次、皆さんが静かにしなかったときは、静かになるまでの時間を独りぼっちで数えるのではなく、この炎で全てを焼き尽くしたいと思います。
どうせ注意しても聞かないし、待っている間は暇なので。
良いですか?
だから、これからは先生の言うこと、ちゃんと聞いてくださいね?
……はい。
では、次の授業を始めます。
皆さんが静かになるまでに、先生は異世界を支配してきました。 夜桜モナカ @mokanagi-b21
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