第27話 破壊のキル
戦いが終わると、息を切らしながら床に倒れ込んだ。
「お前...やっぱ...やるな」
「あな..たも。強い...わ。さ...すが...暗殺...者ね」
二人は30分以上ぶっ通しで戦い続けていた為、息が上がっていた。一対一の戦いでこんなに長期戦になることは普通はないのだが、ゼロの隠密攻撃とカナの音速攻撃の相性は災厄。お互いが苦手な部分を攻撃してくる為、なかなか勝負がつかなかった。昨日はすぐにやられてしまったカナは、ゼロの攻撃パターンを予測し対抗していた。異名がつくだけの事もあり、カナの対抗力にゼロはなかなか倒すことができなかったのだ。
結局勝負に決着は付かず、お互いの体力に限界が来てしまったというわけである。
「ところで、お前さんが死神ってことでいいんだよな?」
彼は改めて私に質問をしてきた。死神という名が嫌いという訳ではなかったが、何度もその名前で呼ばれていると少しむずむずしてきた。戦っている時にも何度か会話をしていたが、彼は私のことを死神と呼んでいた。
そもそもゲーム内で名前を呼ばれたことなんて一度も無かったが、私だって一人の女。こう何度も死神と呼ばれるのは何だか変な気分になっていた。
「カナ」
「え?」
「死神と呼ばれているのは確かに私。でも死神ってずっと呼び続けられるのは少し嫌なの。私の名前はカナ」
少し照れくさかったが私は彼に名前を教えた。すると彼は突然笑い始めた。コントでも見ているかの様に本気で笑っている。
「な!何がおかしいの!」
「だってよ〜死神って恐れられてるプレイヤーっていうぐらいだから、もっと極悪非道なやつかと思ってたのに。いざ本人に会いにきてみれば、こんなに子供っぽい性格してるなんてギャップ萌えもいいとこだろ〜」
「ギャップ萌え?!失礼ね!」
そんなこと初めて言われた。死神という名前からそういう性格なのを連想するのは理解できるが、それにしたってギャップ萌えはないだろう。私はラノベヒロインか。
「というか、私を探してたの?」
「あぁ。実は一週間ぐらい前に」
彼は話すのをやめ急に立ち上がった。一瞬どうしたのかと混乱したが、私もその理由にすぐに気づく。
入口の方から大勢にプレイヤーが入ってきた。それも10人や20人では無い。どんなに少なく数えても100人は超えている。
「何だありゃ」
「さぁ?遠足でもしているんじゃない?」
100人以上の敵同士のチームが協力するには50以上のチームが同盟を結ぶ必要がある。そんなこと普通はできない。だが彼らにはある共通の目的があった。
「アイツです!あの女が死神です!」
先頭に立っていたのは、先ほどカナがとどめを刺さなかったプレイヤーだった。おそらくアイツが街へ戻り、敵チームを集めてきたのだろう。普通は同盟など結ばない連中でも、死神という共通の点滴が現れた場合は話が変わってくる。
「よ〜しお前ら!今日は噂の死神様を倒して憂さ晴らしするぞコラァ!」
『おぉ!!!』
カナは覚えてなどいなかったが、ここに集まったプレイヤーは皆カナが獲物にしてきたプレイヤーたちだった。死神に対する憎悪や憎しみがあったからこそ彼らは集結したのだ。
プレイヤーは続々と駅に入ってきた。そしてすぐに二人を取り囲んでしまった。
「おい。アイツ誰だ?」
「誰かアイツのこと知ってるやついねー?」
私の隣にいる脳一人のプレイヤーを皆が疑問視している。彼が暗殺者のゼロだということは私しか知らないのだから無理もないが、彼らにとってゼロは邪魔な存在でしかない。
「まずはそこのいらねー奴からやっちまうぞー」
皆の意識は、私から彼へと移動していた。その好きに私は周囲を警戒した。四方八方に敵が集結している。異能力者に魔法使い、剣士にガンナーも勢揃いの贅沢な空間である。
「さ〜てどうしますかね。おいカナ。まだ動けるよな?」
ゼロの考えは私と同じようだ。ここでログアウトして逃げてしまうという選択肢もあるが、それよりもやってみたいことがある。
「当然よ。あなたにやられたぐらいで倒れる程、私は柔じゃないわ」
「いや昨日は俺の圧勝だった気がするけどな」
「それとこれとは話が別よ!」
「はいはい分かりやしたよ。んじゃ、後ろは頼むぜ?」
私とゼロは背中合わせになった。目の前の敵に集中するために。
よくあるポージングかもしれないが、この状況ではこの体制が一番効率的である。しかしカナは気づいていた。ゼロの弱点を。
私は短剣を使い、目の前の敵を倒し始めた。私のスタイルは一人相手にも有効だが、複数人相手にも引けを取らない。よほどの実力者でもない限り私のスピードについてくることなんでできないからだ。私は敵を倒しながらもゼロのことを観察していた。さっき戦った時と昨日敵チームに奇襲していたことを考えると、おそらく彼は今の好状況が一番戦いづらいはずだからだ。
ゼロは銃を使い、複数人を一気に倒していた。しかし先ほどまでとは違い余裕がない様に見える。
私の推測はおそらく当たっている。
彼は昨日も今日も奇襲を仕掛けて攻撃していた。おそらく彼の強みは、姿を見せずに相手を倒す事
なら周りに取り囲まれてしまっているこの状況は、彼にとってはかなりのピンチのはず。
なのに彼はなぜあんなにも余裕そうな顔をしているのか。
そんなことを思いながら戦っていると、いつの間にか目の前の敵の数は数えるほどしか残っていなかった。
相手は私のことを警戒してか襲っては来ない。
「こっちはだいぶ片付けたけど、そっちは」
ふと後ろを振り返ると、ゼロは何人もの剣士に切り付けられていた。銃を使い反撃しようとしているが、数が多すぎてほとんど意味がない状態。倒しても倒しても、すぐに別の剣士が切り掛かってくる為リロードすら間に合っていない。
「ゼロ!」
すぐに彼を助けに動いた。周りの剣士を短剣で攻撃し続ける。しかしその隙に、私が相手していた残りの敵も押し寄せてきた。
「悪りぃな、しにが...いやカナ。せっかくの死神の名にキズが付いちまうかも」
「ふん。別にいいわよ。呼ばれたくてそう呼ばれてる訳でもないんだし」
「でもありがとな。ちょっとの時間だったけど、共闘ってのも楽しかったぜ」
「...え?」
彼の言葉は私にとって予想外だった。彼がここまで自分の不得意は状況でも戦い続けていた理由。
それはあまりにも簡単な理由。
だからこそ思いつかなかった。
彼がそんなことを考えるタイプには見えなかったから。
私もゲームオーバーを覚悟した。まだ半分以上も残っている敵を自分一人で倒すのは流石に無理だ。でも死んだところで別に本当に死ぬ訳でもない。またやり直せばいいだけの事。そう思っていた時だった。
ドカン!!!
「はぁ?!」
「なんだ!?」
「上!上!」
皆は上を見ていた。私の上を確認すると、天井に貼られていたガラスが破られていた。ガラスの破片が周囲に落ちてくると同時に、何か大きなものが落ちてきた。
それは物ではなく、プレイヤーだった。筋肉がよく目立つ体型のプレイヤー。
「お、おい!あれって!!」
敵チームはそのプレイヤーの姿を見た途端震えていた。
それは死神と暗殺者よりもよく知られていた、全てを破壊し尽くす最強のプレイヤーと呼ばれている存在。
その名は、破壊のキル。
トライ・ランド 三澤 健 @kazuma0507
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