幼馴染の策に嵌められたけど結果オーライ

月之影心

幼馴染の策に嵌められたけど結果オーライ

 ぴろんっ♪


 日曜日の昼下がり。

 大学もアルバイトも休みで日頃の疲れを抜くのに最適な一日だ。

 疲れた体に休息を入れようとベッドに横たわってウトウトとしていたのに、落ちそうになった瞬間にLINEの着信音が鳴って目が覚めてしまったじゃないか。

 ……んだよ……もうちょっとで眠れそうだったのに……。

 手を伸ばしてスマホを取って……っと、佳穂かほからじゃん……何だってんだ……。


【スイカ貰ったんだけどいる?】


 スイカ?

 まだ5月だぞ?

 もうスイカなんかあるのか?

 けど、スイカは嫌いじゃないんでくれると言うなら貰おうじゃないか。


 『いる』っと。


 ぽこんっ♪


【きっとそう言うと思った!】


 ぽこんっ♪


【でも一玉丸ごとだから大きいんだよね。】


 ぽこんっ♪


【スイカ切れるくらいの包丁持ってないかな?】


 何で一言ずつ送ってくるかな?

 表示即既読になると、何か佳穂のメッセージ待ち続けてるみたいで恥ずかしくなるんだが。

 『果物ナイフしか無かったと思う』……っと返しとくか。

 キャンプで使うアウトドアナイフもあるけど、刃渡りで言えばどっちも似たような長さだもんな。


 ぴろんっ♪


【つかえないなぁ(笑)】


 うるせぇ。

 自炊してないんだから仕方ないだろ

 自分で料理作るなんてキャンプ行った時くらいなもんだ。


 ぽこんっ♪


【キミが台所に立つところも想像出来ないけど(笑)】


 台所に立ってるとこ見た事無いだけだろ。

 『大きなお世話だ』っと。


 ぴろんっ♪


【あ~今度簡単な料理教えてあげようか?】


 出来ないわけじゃないっての。

 家の中じゃモチベーション上がらないってだけ。

 キャンプ飯なら色々作れるし。


 ぽこんっ♪


【っと……スイカの話だったね。取りに来る?】


 まぁさすがにくれると言っているのだから『持って来て』とは言えんわな。

 『もうちょいしたら行くよ。』送信っと。


 ぴろんっ♪


【手が空いたらでいいからね。】


 手は空いてるんだがまだ完全に目覚めてないんだなこれが。


 ぽこんっ♪


【9時くらいまでならいつでもいいよ。】


 9時?

 夜の9時?

 まだ昼過ぎだぞ?

 てか9時までって微妙に中途半端な気もするけど。

 『そんなに遅くはならないと思うけど9時から何かあるのか?』っとでも送っとくか。


 ぴろんっ♪


【だって明日の朝いつもより早起きしなきゃいけないんだもん。】


 明日の朝って何かあったっけ?

 普通に日曜日だしのんびりすりゃいいと思うが。

 何か忘れてたら大変だけど思い出せん。訊いてみるのが一番だな。

 『明日の朝って何かあったっけ?』っと。


 ぴろんっ♪


【サークルでボランティア活動するんだよ。街の清掃。斗真も来る?(笑)】


 いや俺、佳穂の入ってるサークルとか関係ねぇし。

 そんなもん俺が参加しない事くらい知ってるだろうに、わざわざ誘って来るって何考えてんだ。

 それに明日はこの前買った新しいテントの試し張りに行こうと思ってんだから。

 『行かねぇよ。明日はニューテントの試し張りに行く予定がある。』っと。


 ぴろんっ♪


【いいなぁ。】


 ぽこんっ♪


【(でっかいハートが揺れてるスタンプ)】


 この会話で何でハートが出て来るんだよ。

 てかいくら幼馴染でも異性に対して軽々しくハートマークなんか送るんじゃない。

 『(ムキムキマッチョがサイドチェストのポーズを決めてるスタンプ)』送信っと。

 まぁ、既読は付いたけどマッチョスタンプには返して来ないか。

 それにしてもこの早くもスイカとか、包丁なんか持ってないの知ってるのに訊いて来るとか妙な時間を期限にするとか……違和感だらけなんだが。

 そういや佳穂って中学生くらいの頃に推理小説に嵌ってた事もあったし、ひょっとして暗号とか隠してたりするのかな……って……




 ぇ……?




 【スイカ……】

 【きっと……】

 【でも……】

 【スイカ……】

 【つかえない……】

 【キミが……】

 【あ~……】

 【っと……】

 【手が……】

 【9時くらい……】

 【だって……】

 【サークルで……】

 【いいなぁ……】




 縦読み?




 『好きです付き合ってください』




 え?マジで?いやいや、佳穂が俺の事が好きって……そりゃ幼馴染としては俺だって嫌いなわけないけどただの幼馴染相手に『付き合ってください』は言わんだろ。つまりそういう事?待て待て。ただの偶然かもしれんし、偶然でなくともあいつの事だから俺を揶揄ってるだけかもしれん。落ち着け……落ち着いて考えろ俺。佳穂が俺にそんな素振り見せた事無いじゃん。毎年バレンタインのチョコはくれるけどチロ○かアポ○だし。毎年と言えば誕生日のプレゼントもくれてるけど俺だって渡してるし。たまに晩飯作りに来てくれるのは助かってるな。大抵翌日の昼飯は奢らされてるけど。いや、マジで何のつもりであんな手の込んだ事してるんだ?どうする?気付いてない振りをすべきなのか?分かりにくい事してるって事は気付いて欲しくないって事か?


 っと……取り敢えずスイカ貰いに行って様子見てみるか。



 ぴんぽ~ん♪


 あ~……なんかめちゃめちゃ緊張するんだけど。

 何故か足震えちゃってんだけど。

 俺今どんな顔してんのか自分でも分かんないんだけど。


『はぁぃ……って斗真?』


「あ、うん。」


『ちょっと待っててね、すぐ開けるから。』


 あれ?

 何かめっちゃ普通なんだけど。

 え?

 やっぱ俺の思い違い?


 がちゃ


「はいはいお待たせ。取り敢えず入って。」


「お、おぅ……」


「ん?どうかしたの?」


「い、いや……何でもない……」


 意識してしまっているからか、妙に佳穂が可愛らしく見えるじゃねぇか。


「こんなに早くスイカあるって凄くない?」


「そ、そうだな……」


「斗真って昔からスイカ好きだったじゃん。だから喜ぶかなと思って。」


「お、おぅ……ありがと……な……っつ!?」


「?」


 急に振り向くんじゃない。

 何だその可愛い顔はっ!?


「な、何……?」


「今日の斗真、何か変だよ?顔赤いけど熱でもあるの?」


 確かに体温は上がってるって自分でも分かるけど体調不良じゃないのも分かる。

 心拍数だってめちゃめちゃ上がってるのも分かる。

 あ~無理。

 これ以上考えたら脳がオーバーヒートする。


「佳穂!」


「きゃっ!?」


 くぅ~!

 びっくりしてる顔もかわええ~!


「な、何よっ!?いきなりそんな大声出したらびっくりするじゃないのっ!」


「わ、悪かった……」


「で、どうしたの?」


「えっと……その……さっきのLINE……なんだけど……」


 ヤバい。

 心臓の音がうるさくて自分の声も佳穂の声もめちゃくちゃ遠くに聞こえる。


「LINEがどうかした?」


 すんごい普通。

 顔色も目の動きもいつも通りの佳穂だ。


「あいや……あのハートのスタンプだけど……」


「あ~あれ可愛いでしょ。」


「う、うん……可愛いけどその……あぁいうの気軽に送るのはどうかと……」


「んぇ?どういう事?」


「その……やっぱハートってその『好意』を表すわけで……」


「うん。だからあのスタンプは斗真にしか使った事無いよ。」


「ふぇっ!?そ、それって……」


「ふふっ……」


 何だよその『ふふっ』って笑いは?

 やっぱ揶揄ってるだけか?

 よぉし!

 こうなったらもう緊張だ何だって言ってられん。

 なら動かぬ証拠(?)を突き付けてやる。


「こ、これっ!」


「これ?さっきのやり取りがどうかした?」


「佳穂が送ってきたメッセージを縦読みしたら……」


「したら何て書いてあった?」


「す……『好きです付き合ってください』っt……「いいよ。」


「は?」


「まぁ雰囲気も何もあったもんじゃないけど、斗真がそんなに私と付き合いたいって言うなら付き合ってあげるよ。」


「は?いや……ちょっと待て!」


「待たない。これで私は斗真の正式な彼女になりました。」


「待て待て待て!どこからそういう流れn『好きです付き合ってください』『いいよ』って何でボイレコ録音してんだよっ!」


「うふふっ。大事にしてね。」


 どこでどう間違えたんだ。

 まぁ、間違いだったとしても佳穂の事は嫌いじゃないし、佳穂が彼女になってくれるなら文句は無いので結果オーライって事で……




 スイカ貰って帰ろう。

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