第22話 オマケ

彼は走っていた。

見知らぬ森の中を、ただひたすらに走っていた。

その顔は恐怖に歪み、とめどなく涙が流れていた。

その手には、棍棒があった。

先程、宝箱から見つけたのだ。


(なんで、どうして俺が?!)


遠くで銃撃音が聞こえる。

殺しあっているのだろう。

彼はデスゲームに強制参加させられたのである。

彼は一般人である。

どこにでもいる普通の高校生だ。

ただ一点、正義感が強いことを除けば、どこにでもいる普通の高校生だ。

つまり、投票されてここにいるのだ。


(なんで、イヤだ、イヤだ、死にたくない!!)


彼はわからなかった。

自分がなぜ、投票されたのか。

まるで理解していなかった。


正義感が仇になったのだ。


遡る事、数ヶ月前。

彼はとあるネット掲示板を見つけた。

それはデスゲームに自ら参加し、実況するという頭のおかしなスレ民が立てたものだった。

その掲示板を見つけ、デスゲームなんてあるわけないと否定した。

しかしその否定を、デスゲームはあるのだ、という更なる否定で返された。

そして、掲示板から出ていけと言われたのだ。

彼は、その時は素直にそれに従った。

でも、納得は出来なかった。

命を玩具になんてしてはいけないのだ

だから、行動した。

デスゲームを止めようと。

子供だからこそ、動けばそれをネタにしたい大人が動いてくれる。

そんな打算もあった。

高校生という子供がなにかいい事をしようとすると、それを大人はネタにして動くだろうという打算があった。

だから、動いた。

それは時に、しつこい活動となった。

自分の正しさを、正義を証明しようと躍起になった。

彼はまだ若かった。

正義を行うんだから、自分は絶対に正しいのだと。

正しいのだから、反対もひんしゅくも買うわけはないと無意識に思い込んでいた。


そんなことはないのに……。

彼はまだ若く、世間知らずの学生に過ぎなかった。

出る杭の運命など、知らない子供だったのだ。


結果、彼は知らないことだが、自分の所属するコミュニティから疎ましい存在となった。

みんなの和を乱す邪魔者となったのだ。

だから、投票されたのだ。

デスゲームのことをしっかり理解している、クラスメイト達によって。教師によって。家族によって。

彼は、このゲームの舞台へと拉致されたのである。


そして、いま、彼はそのデスゲームの舞台に立たされていた。


「あっ!?」


足がもつれ、転ぶ。

立ち上がろうとする。

その背中に、衝撃があった。

遅れて、パンパンという乾いた音。

撃たれたのだ。

そのことを認識すると同時に、今度は頭に衝撃があった。


「……ぁ」


そんな小さな呟きと共に彼は絶命した。

頭を撃ち抜かれたのだ。

撃ち抜かれた頭は、シャボン玉のように弾けた。

シャボン玉と違うのは、弾けても消えることは無かった事だろう。

首から上が消えたことには変わりはないが。

けれど、そのことを気にかける者はいない。

なぜなら、ここには死が溢れ、積み重なっているのだから。


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【デス】死ぬまで実況してみる【ゲーム】 ぺぱーみんと @dydlove

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