第5話


「諦めるべきだろう、普通そこは」


「お前が普通って言葉を使うなよ」


 落ちた。

 心が? いいや、女の腰が。ある意味では、心が落ちた。


「ちなみに聞くが何年だ」


「数えろよ」


「私には十五本に見える」


「じゃあ十五年だ」


「私はもう四十を超えているんだが……」


「俺はまだ三十代だ」


「もはやホラーなんだが」


「純愛って言えよ」


「しかも結局私の方が背が高いし」


「で?」


 開き直る。

 約束を果たせない男が見せる最高の意地は、ただただ女の頭を悩ませた。


「……」


「何か言えよ」


「……夢は必ず叶うと思うかい」

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春にさよなら @chauchau

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