第4話


「えげつないよな」


 それは、大木に残された女の線の深さのことだろうか。脱いだヒールの踵で、女は今後こそと線を引く。


「東京の次はアメリカだってさ。どこまで行くんだよ、あいつは」


 家業を継いだ男は、この地を離れるわけにはいかなかった。できない大木とは違い、それは男の意思だった。


「それがあいつだろうって?」


 言っていない。


「確かに、お前の言う通りかもな」


 もう一度言う。言っていない。


「ああ、そうさ。そうだろうさ。いい加減に諦めろって親父にも言われているし、結婚しろってお袋もうるさいんだよ」


 男は笑う。


「だからさ」


 男が笑う。

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