第1話

 実は、少し前に、自殺未遂をした。その時、私の彼氏だった「優くん」と一緒に死のうとした。

 何で死にたかったのか?それについて私は話したくて、胸の痛みに抗って文字を書いている。

 理由には当たり前だけれど、私の人生経験がある。はっきり言って、私の人生は何もかもが地獄だった。私は東京の比較的都会の方に産まれたんだけど、生まれた時から、親は喧嘩ばかりだったらしくて、幼稚園の頃に父親が他の女と一緒に消えてしまったらしい。東京では意外とよくある事なのらしいけれど、母親はそれで狂ってしまって、酒に溺れるようになった。そして、私に怒鳴るようになった。

「お前のせいで、この親不孝。」

 そう言われた時もあったかな。唯一の家族にそんな風に言われたのが、ただ辛くて、ずっとトイレに籠って泣いていた。それでも私は挫けないで、せめて私は精一杯生きようと思った。

 でも、世界は「当たり前」をずっと求めてきた。

 小学生の頃だったかな、授業参観の日があった。勿論、授業参観に来る親なんていなくて、友達に「なんでいないの?」って何回も馬鹿にされた。その辺から、皆に私の家族事情がじんわりと知られるようになっていった。子供は無邪気と言われるけれど、私からしたら邪気でしかない。その日からだんだん、同級生は私を無視するようになった。何か集団で何かする時も淡々と私だけ距離が作られていた。そういう単純ないじめから徐々にエスカレートしてきて、暴力もされるようになってきた。先生はどうしたの?と思うかもしれないけれど、こんな複雑な家庭環境の私を無理して助けようとする先生は居なかった。一番酷い時には虫なんかを食べた日もあった。もう一生思い出したくないし、思い出したら気持ち悪くなる。家に逃げたくても、母親が何をするかわからない。私に出来ることはこの地獄を耐え抜いてやり過ごすことしか無かった。でも簡単にやり過ごせるようなものじゃなくて、そんな日々が小学生、中学生と続いて、そろそろ私はもう壊れかけていた。何で私はこんなに苦しんでいるの? それが分からなかったし、その理不尽がただ辛かった。

 そんな中だった。中学生三年の時、同級生だった「優くん」だけは私に優しく接してくれた。出会いは意外とロマンチックだった。四月の春、初めて同じクラスになった優くんは他のクラスメイトが私を悪く言っても、全然気にしないで、直接私に話しかけてきてくれた。優くんは家族の事を知っても、私を無視しなかった。むしろ何かあると私の為に怒ってくれて、私の苦しみをよく理解してくれて、いつも私を慰めてくれた。

 でも、世界は変わらなかった。ある日、優くんの家におじゃました時、何となく優くんのバックを覗いて見た。そこにはぐちゃぐちゃになった虫が大量に入っていた。優くんに私は問い詰めた。

「え、優くん。何でこんなの持ってるの?」

 しばらく黙っていたけれど、ゆっくりと唇を開き、優くんは嫌々に、

「見せたい物がある。」

 と服を脱ぎ始めた。学ランで見えなかった腕や脚が顕になると、そこでは青い痣が痛々しく写っていた。そう、皆は優くんすらもいじめるようになってしまったのだ。優くんは私の為に強がっていたんだ。それをここで初めて知った。それでやっと、二人で天に逃げてしまおうと決めた。逃げるは恥だが役に立つってドラマが当時流行っていて、それに因んで、「逃げ恥作戦」なんて銘打ったのを覚えている。作戦当日の夜、私は優くんと二人でお酒を買って、ドラッグストアで爆買いした大量の風邪薬やらなんやらをぐいぐい飲んだ。飲んだ後、お酒のせいか、ぼんやりと身体の先から力が抜けていったのを何となく覚えている。そのまま、気持ち悪さを纏いながら、瞼の重みに従って、意識は消えた。気持ち的にはこれはもう死んだなと思っていたのだけれど、目が覚めた最初の風景は白い天井、結局何とか助かってしまった。

 でも、優くんはそのまま死んでしまって、私を置いていってしまった。ただ、二人で天に行こうと思っただけなのに。それが本当に辛かった。

 私が一命を取り留めた後は、かなり長期間の間、精神科の病院に閉じ込められた。まるでサル同然のように私は扱われて、トイレに行く自由すらも無かった。そのおかげというか、そのせいで確かに生きたいというか、漠然とした物事へのモチベーションは生まれたのだけれど、結局私の底が変わったような感覚は無くて、生きたそうに繕うのが上手くなっただけだった。

 私の悩みはどうにもならなかった。

 そうして、やっと高校生二年で完全に解放された。保護期間をある程度経過して、やっと自由になれた。私は東京から少し田舎に引っ越してきて、新たな生活が始まることになってしまった。

 でも、何も期待なんてしていない。東京の地獄が再来するかはわからないけれど、私の悩みはなくならない。ただ、苦しみを背負って日々を過ごすだけだと思っている。

 引っ越しの時、新幹線に乗って、やることも無くふと、窓から風景を眺めた。凛々しい青が茂る山々を見て少し傷ついた心を癒していたら、突然、山の間からカンカンと照り映える太陽がいきなり現れた。それが私には眩しすぎて、居てもたってもいられない気持ちを抱いた。何となく、それが高校での予感をざわつかせていた。

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