第2話
こんにちは、惰眠。
ぼんやりと頭に血が入って、耳がカンカンなるのに気づいた。嫌になって横を見ると、スマートフォンが爆音で目覚ましを鳴らしていた。私はそれを指で止めて、時計を見た。時刻は八時二十分。学校のチャイムまであと十分。家から高校までは大体三十分程。私は眠い目を擦りながら、観念してゆっくりと制服に着替えた。高校二年の四月の春、今日が初登校の日で、最初からやってしまったと、ちょっと反省しなきゃいけないと思った。高校生らしい白いシャツと朱色のリボンをつけて、紺色のスカートとブレザーを身につけると、久しぶりに学生感が出てきて、ちょっとやる気が出てきた気がした。バス停まで走って、何とかバスに乗ると、私はとりあえずでスマホを開き、LINEをぼうっと眺めていた。LINEには、数年前のトーク記録が最後に残っていた。
「はあっ……。」
見ていると、胸が苦しくなって、嫌な気持ちになってくる。私は気を紛らわそうと思って、顔をぶんぶんと左右に振った。頭の中がぐらんぐらんとして、中身が空っぽなんだって分かってしまった。そのまま、ぼーっとした目で覗いたバスの窓は、煌びやかな田園風景を写していて、ただただ山の壮大さにひれ伏すだけだった。
高校に着くと、もう始業式は始まっているみたいで、すぐに体育館に来るよう言われた。先生は意外と怒らずに、むしろ
「最初だからよく分からなかったでしょ? しょうがないよ。全然大丈夫だからね。」
と慰めるような物言いだった。ああ、どうせこの人も事情を知ってるんだろうな、と確信した私は、
「ありがとうございます。頑張りますー。」
と繕った笑顔でその場を済ました。
急に来たから、最初はジロジロ見られたけれど、すぐに慣れてそのまま始業式は進んでいった。校長の長い話、よく分からない行事の説明、聞いた事のない校歌。全部つまらなかった。まあ、別に楽しくあって欲しかったという訳でもないのが、私の悪い所だなと思った。
始業式が終わると私の自己紹介が始まった。
「東京から来ましたー。」
何となく決めていた話す内容を淡々と愛想良く話す。女子はみんな比較的寛容に私を見てくれてるようでそれは少し安心した。男子はやけにじろじろ見てくる人がいたりしたけれど、あまり眼中に無かった。休み時間には女子高生の皆が私の机に来て、色々と聞かれた。東京の事とか、メイクの話とか、可愛いねとか散々使い古されたテンプレートを聞いてきたので、
「えーほんとに? ○○ちゃんも可愛いよー。」
とか言ってお膳立てしていた。決して皆のせいじゃなくて、そう思ってしまう私が悪いからと、自分を戒めてずっと対応していた。
結局、高校は楽しくなかった。もしかしたら期待していたのかもしれない。いや期待してた。でも、期待しない方が良かったし、期待してしまう自分が情けなく感じた。帰り道のバス、朝よりかは身の詰まった頭で窓を覗くと、夕暮れが頭を沈め始めて、じわじわと暗闇の出番が来ていた。山は暗闇に同化し、ただの暗黒でしかなかった。自分の最寄りのバス停で降りると、高校で酷使した表情筋をだらんとさせて、制服の革靴をコツコツと鳴らせて帰り道を歩いた。
ああ、別に今死んでもいいんだけれど、何だか死ねない。優くんが残してくれた命を大切にとかそんな感動ストーリーでもない。多分、今はその波長に乗らないだけで、いつかはきっとやってしまうのかもしれない。
そんな事を考えていると、家に着いた。ドアを開けると、そのままベッドまで行き、ダイブして、
「ああ、もう、死にたい。」
と口癖のように呟いて、しばらく伏していた。でも、数十秒したら、枯れた涙を拭いて、黙々と家の片付けし始めた自分が気持ち悪かった。
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