第6話 一本の傘

 レックスと私は、城の二階に行った。


 そしてレックスと手を繋ぎ、学生懇親会こんしんかいのパーティー会場の前で待った。


「さあ、レックス王子が登場されます!」

 

 懇親会こんしんかいの司会の男性が声を上げた。


 うわあああっ!


 学生たちの歓声が聞こえる。


「さあ、拍手をどうぞ!」


 万雷ばんらいの拍手とともに、私とレックスは扉を開け、皆の前に立った。


 私たちは、階段下のパーティー会場を見下ろした。


 ルバリック学園の生徒たちがいる。


「わあああ!」

「素敵!」

「王子様よ! あら、隣にいらっしゃる女の子は、恋人かしら」


 生徒たちは口々に、私とレックスを見て言った。


 私たちは手を繋ぎながら、階段を降りていった。


 そしてグロリアの横を通った。


「王子様、ご機嫌よう……ん? えええええ?」


 グロリアは私をじっと見て、目を丸くした。


「あ、あなた……ターニャ?」


 グロリアは声を上げた。


「な、な、何で? 何で? レックス王子の隣に……ターニャがいるわ!」

「うわっ! なんて綺麗きれいなドレスを着ているのかしら! 見たことがないわ」

「お姫様みたい……」

「うぎぎぎ……! 何でなのよっ。何でターニャが王子様と手をつないで歩いているのよおっ!」


 グロリアが声を荒げているとき、レックスは皆に言った。


「この学生ターニャは、僕の恋人なんだ」

「え……!」


 私は驚いた。レックス王子、いきなりそんなことを……!


「そうだろう? ターニャ」


 レックス王子は私に聞いた。私は考える必要もなかった。


 私はニコッと笑い──。


「はい!」

 

 そう返事をした。そして、私たちは本当に恋人同士になった。



 1年後、私とレックス王子は婚約し、私はシャルロ城に住むことになった。


 しかし、レックス王子は不安な顔をしていた。


「父王と公爵こうしゃくたちが、隣国りんこくのベルリア王国に対して、戦争を仕掛けよ、と僕に言っている」


 レックスは私の手を握った。


「僕は平和を愛している。紛争で母を失った。物事を平和に解決するためには、どうしたら良いだろうか? 何か良い方法はないものか……」


 私はしばらく考えていたが、すぐに言った。


「世界に宣言するのです、王子。『私たちシャルロ王国は、自分から相手に攻撃する事はない』と」

「ええっ? そ、そんな考え方は、聞いたことがない」


 レックス王子は目を丸くしていた。


「戦争とは、こちらから仕掛けるものであろう? そうしないと、相手に先制攻撃をされてしまう。僕は戦争というものを、そう学んできた」

「いえ、死んだ私の父から、聞いたことがあります。東方のとある国では、自分から手を出さず、それでいてしっかり装備は整えている──。それで100年間も平和を保っていると」

「そ、そんなことがあるのか?」


 そしてレックスは決心した。


 報道機関を使い、世界各国に、「我がシャルロ王国は、こちらから戦争を仕掛けることは絶対にしない」と宣言したのだ。


 するとどうだろう?


 次の日から次々と各国の政治家、軍人がシャルロ王国に来たのだ。そしてこう言った。


「私の国は、戦争で疲れきっていたんです」

「我が国もです。戦争で疲弊ひへいしていました。もう戦争は勘弁かんべんです。食料も無くなってしまいました」

「私たちの国も、こちらから戦争は仕掛けないことにしよう!」


 シャルロ王国の周辺国では、皆、軍隊はありながらも、自ら戦争をしかけないことにした。


 武器を降ろしたのだ──。


 どの国も、軍隊を持ちながら、平和になった。


 その平和は、3年経った今でも続いている。


 そして私とレックス王子は、結婚した。




 ある雨の日──私とレックスは、シャルロ城から庭園に出ようとした。


「ターニャ、本当に君を、妻にして良かった」


 レックスはしみじみと言い、私の頭の上にかさをさした。


 おや?


 見覚えのあるかさだ……。


「まあ、このかさは!」


 私は声を上げた。するとレックスはニコッと笑った。


「君が道で雨にずぶれになっていたとき、君にあげたかさだよ」


 そしてレックスは言った。


「たった1本のかさが、僕に素晴らしい妻と、素晴らしい平和を与えてくれたのだ!」


 私とレックスは、それからも末永く幸せに暮らした。


【おしまい】

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小国の王子から婚約破棄を言い渡された私は、学園を飛び出し、雨にうたれて泣いていました。そのとき、傘を差しだしてくださったそのお方は、超大国の心優しき王子様でした。【短編】 武志 @take10902

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