エピローグ

「申し出はありがたいのですが、怪しい占い師が出入りしているとなればシモンズ王家の名に傷がついてしまいます。それにサイラス王子も、そのようなことはお望みではないでしょうし」


 おい反対しろサイラス! お前私のこと嫌いだろ!


 心の中でそう念じながら私はサイラス王子へ視線を向けた。流石に兄の反対となればこの弟は言うことを聞くだろうし、ペネロペ王妃だって次期国王の言うことであれば考えを改めるかもしれない。


 頼む。頼むから反対してくれ。


 そう思いながら私はサイラス王子の口から飛び出してくるであろう失礼な暴言を待った。


「いいんじゃないか」

「…………へ?」

「そいつがいることでヒューゴと母上の不安が解消されるんだろう。なら、別に俺は反対しない」


 だというのに肝心なところでこの男は。


 驚きのあまり目から目玉を零しそうになりながら、私は飄々と言いやがったサイラス王子を睨む。聞いてほしいところで話を聞かないくせに、こういうところで妙な柔軟性を見せるなんて、本当に私への嫌がらせの塊のような男だ。


 もうこうなったら適当に「一つの場所にずっといると占い的に爆発する体質なんです」とかなんとか言って、強行突破を試みるか。


【確かに怪しい女だが、こいつのおかげで俺の疑いが晴れたのは、まあ事実だしな】

 

 この野郎、一番褒めてほしくないタイミングで褒めやがって。


 ピクピクとこめかみを引きつらせながら、私は当てにならないサイラス王子を視界から追い出し、どうにかこの場を切り抜けるための算段を考え始める。が、その時だ。


【それに昨日の夜見たことも気になるからな】


 昨日の夜、と聞こえてきたサイラス王子の思考に、私は再び固まった。ひょっとして。ひょっとしてひょっとしてひょっとして、まさか――――


【森の中で一瞬見えたあの黄金の目の女。あれは確かにこの占い女だった】


 ――――見られていた。しかもかなりばっちりと。


 私は聞こえてきた考えに眩暈を起こしそうだった。だって見られていたのだ。よりにもよって、一番見られたくない面倒くさい相手に。だって思い込みが激しくて、猪突猛進なサイラス王子のことだ。私の姿が変わる瞬間なんて見たら


【この女には何かしらの秘密があるに違いない。それが害のあるものか判断するまでは俺の目が届く範囲に置いておかねば。占い女め、俺に隠し通せると思うなよ。いつかその化けの皮を剥いでやる】


 そう考えるのは決まっているし、もし逃げでもしたらこの男のことだ。「仇なす気だな」とかなんとか言って追いかけてくるだろう。それ以上に考えたくないのは次期国王の口から私の正体が広まる可能性があることだった。もし「魂を食べる怪物」がいる、なんてことが方々に知られたら。


 ザッザッと剣と鎧で武装した兵士たちが私を討ち取りにやってくるのを想像して、意識がふっと遠のく。起こってほしくないことの連続で頭がくらくらしてきた。


「どう? リベット」

「どうでしょうか、リベットさん」


 詰みである。逃げても追われ、いてもいずれバレるのだ。だから、私は今できる最大の選択を、苦渋の決断を下した。


「わ、かりました。では、しばらくよろしくお願いしますね」


 とりあえずはこの家に住み、その間に色々やらかして出て行かせるように仕向けよう、と。


 私の返答に目を輝かせる二人には申し訳ないが、どうにか今まで通りに戻るためにはこうするしかない。


 目指せ、王家追い出し。


 そんな目標をこっそり抱えながら、私は喜ぶ彼らに引きつった笑みを見せるのだった。

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偽占い師は追い出されたい!  きぬもめん @kinamo

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