一歩のボツ箱(仮)

一歩

第1話

医院 診察室


「先生、教えてください」


 半秊紅羽ナカトシ イロハは、目の前にいる人物に話かけた。

目の前に座っているのは、仮面をつけた人物が座っている。


「何のことだ」


「とぼけないでくださいよ。

麻意マイのことですよ」


「患者のことは、教えられない」


「その話ではなくて、もっと別の話です」


「何の話かは、どうでもいい。

それより、さっきから首に当てている物は、何だ」

 先生の首に当てていた物は、包丁だった。


です」


 紅羽イロハは、笑顔で答えた。


「最近のマイクは、随分と物騒になったんだな」


「先生としたくて持ってきました」


「そんな、物騒マイクで何を話すんだ。

お前に話すことはない」


「……そうですか……。

お話が通じないなら、仕方ないです」

 紅羽イロハは、包丁をしまった。


「なんだ、お前のことだからそれを首を押し付けるんじゃないのか」


「先生じゃあなかったら、やっています」

 紅羽イロハは、にこやかに答えた。


「最初からそれを使って、あいつと話せばいいだろう」


麻意マイは、が通じないんです。

最近、麻意に避けられている気がして、本人に問い正しても……忙しいとしか言わないんです。

それで、喧嘩までする羽目になり、会うのも気まずくて……。

先生なら、何か知っていると思ったので……」


 先生は、顔は見えないが不機嫌そうだった。


「ここは、お悩み相談室じゃねぇ。

当事者同士で、話し合え」


「何を言っているんですか先生?

医者は、患者の悩みを聞くのが仕事とでしょ」


「病に関する悩みを聞いて、治療するんだ。

お前のは、ただの喧嘩だろ」

 紅羽イロハは、不満顔していた。


「先生、お時間ですのでお願いします」

 突然、後ろから声がした。


「うわぁああーー!」

 紅羽イロハは、驚いた拍子に椅子から落ちた。


 包帯を巻いた看護婦が、ドアの前に立っている。


「クフフフ、相変わらず面白い反応ですね」

 看護婦は、不気味に笑っている。


「今から仕事だ。

これを持ったら、さっさと帰れ」

 紙袋を渡した。

紅羽イロハは受け取り、先生に容器を渡した。


「ありがとうございます。

失礼しました」

紅羽イロハは、渋々診察室を出て行った。


「クフフフ」

 看護婦は、不気味に笑っている。


「何が、おかしい」


「先生は、面倒見がいいですね」

「……。

早く、患者呼んでこい」


「はい、わかりました。クフフフ」

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一歩のボツ箱(仮) 一歩 @kazuho0228

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