あの頃から続くもの
第34話◆あの頃から続くもの
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「そっちに連れていくよーーーー!」
周囲に人の気配のないダンジョンに、最近急に声変わりをしたアイツの声が響く。
それでもまだガキっぽさを感じるのはその口調のせいだろう。
「周囲に人の気配なし! よっしゃこい!!」
俺もそろそろ声変わりをする年頃なのだが、返事をする俺の声はまだまだ甲高くてガキっぽい。
ついこないだまで俺より小さかったくせに、なんか急に身長が伸び始めて追いつかれるかもと危機感を覚え始めたところで、俺よりも高かった声が急に声変わりをして、俺より二つ年上のアイツが先に大人になって俺を置いていくようで悔しくて、そして寂しいよな焦りを感じる日々。
ここはユーラティア王国の王都ロンブスブルクのすぐ傍にあるCランクのダンジョン。
現在Dランクの俺だけではこのダンジョンに入ることはできないのだが、Bランクのアベルが一緒なら入ることができるため、最近はアベルに誘われてよくこのダンジョンに来ている。
俺が故郷を出てロンブスブルクで冒険者になってまだ一年に満たない俺は、器用貧乏のギフトのおかげもあって順調に冒険者ギルドの依頼をこなし、もう少し実績を積めばCランクへの昇級試験が受けられるところまできていた。
そして俺の冒険者とのしての経験が積み上がると共に、とんでもなく性格に癖のあるクソガキのアイツとの付き合いにもだんだん慣れていった。
アイツ――アベルと共に行動するようになり数ヶ月が過ぎた今日も、金策のため一緒にダンジョンで魔物を狩っていた。
この階層は高低差の激しい渓谷とそれを囲む森。
俺の視界にはショートワープを繰り返しながら、崖沿いをこちらに近付いてくるアベル。
その後ろには砂煙を上げながらアベルを追いかけてきている、七つの頭にそれぞれ七つ目を持つ異形の大トカゲ――このダンジョン、このフロアのボスであり名をキリムという。
アベルを追いかけてきているのは五メートルくらいの奴だろうか、めっちゃんこ鋭い牙がたくさん生えた恐い顔から想像できるように超肉食の魔物である。
すんげー強そうというか、現在Dランクの俺では正面からやり合うのは厳しいC++、つまり極めてBランクに近い魔物。
Bランクのアベルならタイマンでもなんとかなる相手ではあるらしいが、生命力が高くしぶとい上に意外と素速いので倒すまで何度も魔法を打ち込むのはなかなかしんどいらしい。
俺もアベルも一人で戦うには厳しい相手なのだが、二人でやると案外あっさりハメることができる。
そしてこいつの素材はそこそこ高く売れて良い稼ぎになるので、最近はアベルと二人でこいつを地形にハメて倒すが俺達のブームになっている。
こいつは亜竜種のくせに知能は低めの脳筋で魔法も使わないアホの子なので、単純な戦法で簡単にハマッちゃうんだよね。
単純な作戦――森の中の巣にいるキリムにアベルが遠距離魔法を撃ち込み、崖沿いで待機している俺の方へと逃げてくる。
攻撃をしたアベルを追いかけてキリムが森から崖沿いに飛び出てきたら、アベルがワープの魔法を発動し俺の視界から消える。
しゃがんで地面に右手をついた体勢で、その光景を視界に収めている俺。
アベルが俺の視界から消えた直後、俺のすぐ斜め後ろからトンッという靴底が地面に触れる音が聞こえ背後にアベルの存在を確信する。
そしてその確信と共に、地面についている手に思いっきり魔力を集中させスキルを発動させた。
俺の視界の先には突然消えたアベルとキョロキョロと探すキリム。
そのキリムの様子が俺からはっきりと見えるということは、キリムから俺も見えている。
俺のすぐ後ろに転移してきたアベルの姿も。
キョロキョロとしていたキリムが、俺の後ろに転移してきたアベルに気付き崖沿いをこちらに猛烈な勢いで走ってくる。
七つの頭の全てがこちらに向き、怒りに満ちた四十九の眼でこちらを凝視しながら、本能を剥き出しに七つの口からよだれをまき散らして吠えながら。
それは醜悪で恐怖。
捕まれば人間など一瞬でバラバラに引きちぎってしまう異形の獣。
だがそいつの怒りと本能に支配された突進は俺達のところに届くことはない。
その光景を目にしているこの時、地面についた俺の手からはすでに分解スキルが発動しているから。
体から一瞬で大量の魔力が抜け、それが俺の手が振れる地面へと吸い込まれていく感じ。
そして吸い込まれた魔力が、俺のイメージに従い”分解”というスキルを発動していく感じ。
ダンジョンの床よ、崖際の地面よ、分解されて砂となれ!
手のひらから伝わる感覚が固い地面からザラザラした砂場に触れているような感覚に変化をする。
同時に視界には高速でこちらに駈けてくるキリムと、俺の手元からキリムの方へと伸びるように色が変化していうく地面――正確には俺が手をついた場所からキリムの方へと地面が分解されて砂に変化している様子とそれが崩れ始める。
そしてそこの上を勢いよく駆け抜け――られなかったキリムが砂となり崩れる崖際の地面と一緒に崖の下へと落下していった。
「ふおあああああああ……やっぱダンジョンの構造物を分解するのはいつもの倍……いや十倍くり魔力を消費してそうだぜ。後はアベルに任せたー、でもちょっとだけ俺も協力しとこ」
「うん、後は俺に任せて。一方的に攻撃できるならすぐに終わっちゃうからね。って、何を投げたの!? 今、何かをバラバラといっぱい崖の下に向けて投げたよね? キラキラピカピカ光ってたけど何!? うあああああああああああ……俺の氷魔法の魔力と反応してなんかすごくバリバリいてるよおおお、ヒイイイイイイイイ~もうよくわかんないから氷魔法でとどめを刺しちゃう~~~~」
崖はキリムの大きさでもすぐには登ってこられないほどの高さがあり、この崖沿いにアベルがキリムをおびき出し、崖沿いを走っているところを狙って足元の地面を俺が分解スキルで崩して崖の下に落とし、登ってこようとしているところに上から一方的に攻撃を叩き込んで倒す戦法。
もちろん周囲に人も崖の下にも人がいないことも確認しているから問題ない。
分解スキルは、魔法に対する抵抗力が高いものを分解する時ほど、複雑な分解をする時ほど、そしてより細かく分解する時ほど魔力を消費する。
自然の地面を砂にするだけなら簡単なのだが、ダンジョンという魔力が作り出したものを分解するには地面を砂にするだけでも非常に大量の魔力を消費してしまうので、この戦法の時は地面を分解した時点で俺は魔力が枯渇しヘロヘロになってしまう。
キリムが崖の下に落ちた後は、アベルが超威力の遠距離魔法で崖の上からひたすら攻撃するだけ。
膨大な魔力と高い魔法の技術に魔法に特化したギフトを持つアベルは、簡単な魔法なら手足を動かすように大きな魔力操作はなしで使えてしまうのだが、さすがに大型の魔物を倒す程の威力の魔法となると魔力操作に時間を食われるので、こうして安全に攻撃できる状況を作り出しバッコンバッコンと魔法を撃ち込む戦法に持ち込みたがる。
俺とアベルが一緒に行動することが増えてからは、このように強い敵を二人で協力して地形にハメたり、俺が時間稼ぎできる程度の相手なら俺がおとりになったりして、アベルが高威力の魔法を完成させいっきに仕留めるという戦法で効率良く稼いでいる。
今日もまた、魔力が枯渇したヘロヘロになった俺の横でアベルが高威力の魔法を準備している。
これは魔法の完成までもう少し時間がかかりそうかなぁ。
万が一、魔法の完成前にキリムが崖を上がってきたら危ないから、もう少し時間稼ぎをしておこう。
魔力をすっかり消費してヘロヘロの俺でもできる時間稼ぎ――先日ダンジョンで拾った雷属性のビリビリするドングリを崖の下にポイポイと投げ込んでおいた。
一つ一つならちょっぴりビリビリするだけだけど、結構たくさん投げ込んだからでっかいキリムでも痺れてくれるんじゃないかなー?
と思ったらアベルが使おうとしていた魔法が氷属性つまり水属性の上位の魔法で、風と水の複合属性で雷属性の魔力と反応してしまい、俺が投げたパチパチドングリがものすごい勢いでバチバチ音を立ててと黄色い火花を散らし、周囲の水属性の魔力を伝うように広がり眩しいほどの閃光となった。
うわぁ……その音もバチバチからバリバリになって耳が痛いし、たくさん投げたから火花が連鎖して目が眩む程の眩しい光になって、十分に距離はあるはずなのに飛び散り広がる雷属性の魔力で髪の毛がブワッと逆立った。
ふわふわくせ毛で猫毛のアベルなんか俺より酷いことになっていて面白い。本人はまったく気付いていないけど。
ああ~、めっちゃバチバチバリバリしているところにアベルがやけくそで、大きな氷の塊を落としまくってるぅ~。
それに反応して爆発的にバチバチバリバリしまくってる~。
めっちゃうるさくて眩しいけれど、近くには俺達といつものおじさん達しかいないし、キリムも倒せてそうだからよっし!
アベルとの狩りはいつもこんな感じで大騒ぎ。
俺よりランクが高くて強いアベルに合わせるために俺はいつも必死。
器用貧乏な俺と違ってアベルは戦闘特化のギフトを持っている天才だから。
全力を出してヘロヘロになるけれど、自分より強い奴に必死で食らい付いていくのは楽しい。
そしてヘロヘロになるほど魔力は枯渇するほど使えば総量が増える傾向にあるので、魔力をたくさん使ってヘロヘロになればなるほど、アベルとの力の差も縮まり追いつけるかもしれない。
追いつけば途中でヘロヘロにならずに、最後まで一緒に戦い抜けるようになるはずだから。
待っていろ、すぐに追いついてやるからな。
きっとその頃にはアベルも強くなっているだろうけど。
その頃にはもっともっと強い敵とも戦えるようになって、もっともっと遠くへ、まだまだ知らない世界へ一緒にいけるかもしれない。
王都で冒険者になって出会った、我が儘で自分勝手で好き嫌いの激しい変な奴。
でも気付いたら仲良くなって一緒に行動をするようになっていて、あれこれ口うるさいけどあちこに連れ出してくれる。
先輩風を吹かしてあれこれ教えてくれることもあるけれど、意外と世間知らずで子供っぽくて手のかかる弟みたいに思える時もある。
これは俺に前世の記憶があって、体は子供でも心は大人だからだと思う。
ちょっぴり面倒くさい性格だけど、こいつが俺が冒険者になってから始めての友達。
故郷には物心ついた頃からの幼馴染みはたくさんいるけれど、彼らとはまた違った友達。
新しい環境で何の繋がりもないところから偶然が重なって始まった関係。
じわじわと仲良くなって、一緒に行動する時間が増えて、協力して戦うのが当たり前になり、お互いを必要とした計画を立てることも多くなり、その計画を立てている時、それを実行している時、それが上手くいった時が堪らなく楽しいということを知った。
俺はまだまだ力が足りなくてアベルに頼る場面のが多いけど。
いつか対等になれるように、そのいつかが早くくるように、そう思うと毎日が楽しかった。
楽しすぎてやりすぎてドリーに怒られることもあるけれど。
「ちょっと、グラン!! 何でそうやっていつも無計画に謎の爆発物を投げるの!! でっかい音と眩しい光でビックリするでしょ!」
「お、おう。もうちょっと時間を稼いだ方がいいかなって? ま、キリムは倒せたみたいだし結果よし?」
お小言が始まる時の眉をキュッと寄せた表情もすっかり見慣れてきた。
ヘラリと笑って誤魔化すと更なる追撃がくることも、少し話題を逸らせばすぐに誤魔化せることも覚えた。
一緒に過ごすうちにどんどんと知っていることが増えていく話さなくてもなんとなくでわかることが増える。
好きなことや嫌いなこと、得意なことや苦手なこと、良い面や悪い面、そして性格や癖も、そこから垣間見える隠しことや嘘までも。
でもそれは俺も同じ。
だからこそ一緒にいて後ろめたさがなくて気楽なのかもしれない。
俺もたくさん隠していることや、誤魔化していることがあるから。
追及しないし追及されない、無理踏み込まない関係。
アベルのことを知れば知るほど、ツンツンしていて冷めているように見えても実は好奇心の塊で意外と面倒見が良い世話焼きな奴だってことくらいすぐわかる。
そして俺のことを知りたがっている、俺のことを知ろうとしてくれているというのも。
だけど俺がのらりくらりと誤魔化すから、その部分には踏み込まないでいてくれる。
そしてその逆も。
アベルの周囲にいる人や起こることも気になるが、アベルが話そうとしないから俺も踏み込まない。
知らないということに不安はない。
知らなくても楽しいし、知らなくてもアベルが信用できる奴だというのもわかる。
そして無理に知ろうとするときっとこの居心地の良さがなくなるのもわかる。
俺もアベルも。
それにアベルは我が儘で好き嫌いが多く適度に面倒くさいので、俺の適当でうっかりな短所とお互い様になって、何かやらかしても罪悪感があまりないのがいい。
良いことも悪いこともお互い様でちょうど良い。
ただ今はまだ俺の方が弱いから、俺の方が世話になっている割合が多そう。
だからいつか追いつきたい。
アイツで出会って知ったから、誰かと協力するのは楽しいということを。
協力をすることを前提でアベルと一緒にたくさん考えてたくさん試して、なかなか上手くいかなくて改善してまた試して。
そうやって何度も失敗を繰り返しながら、どんどん上手くいくようになって最終的に成功して完璧な形になって、そこから更に繰り返すうちに当たり前のようにできるようになるのは楽しい。
考えたことが正解だった証明と成長の証拠だから。
そして今では二人で役割分担をしながら何かをするということが、すっかり当たり前になっている。
これってやっぱ友達ってやつでいいよな?
恥ずかしいし否定されたら悲しいから、あえて聞くことはないけれど。
きっと友達。
「もう! 結果良しだけど、あんまり大きな音を出すと他の魔物が寄ってきちゃうから爆発はほどほどにだよ! って、ああああああああー、分解と爆発で崖が脆くなって崩れ始めてる! キリムはでっかいから空間魔法で引っ張るの無理だから、回収にいかないといけないのに、このままだと崩れた崖に埋まっちゃうし素材に傷が付いちゃう」
少しボーッとしてしまったがアベルの声で我に返り崖の方を見ると、分解と魔力爆発で崩れ始めている崖からごろごろと岩がキリムの上に落ちていくのが見えた。
「ゲッ!! もったいない!! 急いで回収してくるから、合図をしたら空間魔法で俺を引っ張ってくれ!!」
ああ、このままで大事な素材がー。
でも俺とアベルで協力すれば大丈夫。
俺が崖の下に飛び降りて、収納でパッとキリムを回収して、回収が終わった瞬間にアベルが俺を空間魔法で引き寄せる。
これなら崖が崩れてキリムが埋まる前に回収できる。
「え? そんなの危な……ああああああああ、もう飛び降りてるううううう!!」
「大丈夫、アベルなら絶対に確実に引っ張ってくれると信じてるから」
アベルの魔法の技術ならそれくらいできるし、アベルならきっと崖が完全に崩れる前に俺を上に引っ張り上げてくれる。
信じているからちょっとくらい無茶なことだってできる。
「もおおおおおおお、信じてくれるは嬉しいけど危ないことはやめて!!」
崖に飛び込み斜面と滑り落ちるように下る俺の頭上からアベルのプリプリとした声が聞こえる。
でもプリプリしながらも俺を引き寄せる魔法を準備してくれている気配も感じた。
滑落のような勢いで崖を滑り降りる俺の周囲には、ごろごろと崩れ落ちる岩が。
俺はキリムの上に落ちる岩を少しでも減らすため、崖を下りながら手が届く範囲の岩に手を伸ばしそれを収納に引き込む。
クラッ。
しまった、ダンジョンの崖を分解した後だから魔力が枯渇気味だった。
収納スキルだって魔力を消費して発動するスキルだ。その消費量は出し入れするものの大きさに比例する。
人間よりずっと大きいキリムも、人間の子供を押し潰してしまいそうな大きな岩も。いや、今の俺にとっては小さな岩ですら収納する度にクラッとくるほどだ。
余計なものを収納しているとキリムを収納できない、もしくは収納した瞬間に魔力枯渇で動けなくなるかもしれない。
いや、崖を下りながら岩を収納している俺の魔力はもう――。
しかし不安が頭をよぎる前に、すでに絶命しているキリムの上に着地しその躯に手を触れてすぐさま収納スキルを発動した。
岩が崖を転がり落ちる轟音がすぐ近くで響き、その岩の作り出す影が俺の上に大きく広がる中、先ほどよりも強い目眩に襲われるが、俺に危機感はなかった。
だってもう、アベルの魔力が俺に届いているのを感じていたから。
「ナイスーッ!」
「ナイスー! じゃないよ! 何でそんな危ないことをするの! って、聞いてる!? え? ちょっと!? 大丈夫――……」
あ、やべ……クラッときて、アベルの空間魔法が俺にかかるのを感じた直後に意識が……ああ~、アベルが何かガミガミ言っているけれど眠ぅいから、ちょっとだけすやぁ。
アベルが一緒なら、ダンジョンでちょっとくらいすやぁしても大丈夫大丈夫。
アベルなら俺をそのまま放置して帰ったりしないからすやぁ。
ちょっと休めば魔力が回復してシャキッとするはずだから三分だけすやぁ。
アベルが俺を崖の上に引き寄せてくれたのと同じタイミングで、アベルを見守っているいつものおじさん達が森の中から出てきたから、三分とはいわず五分くらいすやぁ。
大丈夫、大丈夫、ちょっとすやぁして魔力が回復したらすぐに目が覚めてまた戦えますよぉすやぁ。
と思ったら、結構ガチで寝てしまい目が覚めた時にアベルだけではなく、アベル見守り隊のおじさん達にもめちゃくちゃ怒られたし、この日のことはアベルの保護者のドリーに報告されてしまい、後日Aランク冒険者のドリーからも冒険者規則を延々と詰め込まれることになり、キリムの地形ハメ狩りもドリーに知られてアベルと共にゲンコツを食らうことになった。
もちろんキリムの地形ハメ狩りも禁止された。
「グランー、お腹空いたー。うっわ、めっちゃ素材を広げて何やってんの? あ、それキリムの牙じゃん懐かしー」
ある日の昼下がり、倉庫の作業場で素材を広げ整理をしていると、仕事が休みでダラダラと過ごしていたアベルがフラリとやってきた。
「ああ、収納の中身を整理してたら出てきたんだ。昔よく地形にハメめて狩ってたよなぁ、俺がやらかしてドリーにめちゃくちゃ怒られて依頼やらなくなったけど」
「覚えてる覚えてる。あの頃よくやってたキリム狩りで、キリムをハメるのに使った崖が崩れて、グランが魔力があんまり残ってないのに素材がもったいないって無理矢理回収して魔力枯渇で倒れちゃって、あのおじさん達やドリーに俺までめちゃくちゃ怒られたやつ。もー、ほんとグランって昔からグランだったよね」
作業机の上には、いつかアクセサリーにでもしようと思って残していたキリムの牙。
それを見てあの頃のことを思い出したのはアベルもだったようだ。
懐かしいけれど、ちょっぴり苦い想い出。
今ならあんなことをしなくても簡単に倒せるし、あのやり方がとんでもなく危なくて迷惑なことだったいうのもわかるし、ドリーにバレてめちゃくちゃ怒られたのも仕方ないと思っている。
だけど思い出すと気恥ずかしいと同時に、無意気にニヤニヤしてしまうくらい楽しかった想い出。
あんなことをしていた駆け出し冒険者時代から六年以上が過ぎ、俺達はもうすっかり大人になり冒険者として一人前になった。
そして今でも相変わらずアベルと連んでいる。
俺もアベルもランクが上がって上級冒険者と呼ばれる部類になった頃には、お互いの仕事ややりたいことを優先し別行動をすることも増えたが、それでも何だかんだかで冒険者仲間として、気の合う友人としての関係は続いている。
っていうか、俺がマイホームを買ったら押しかけてきて、そのままうちに住み憑いているからもはや友人というか家族みたいになってきた。
今でもガキの頃からの役割分担と信頼関係は健在で、その練度はあの頃よりもずっと上がって、何かやらかした時の隠蔽工作も上手くなって、ドリーに怒られることもほとんどなくなった。
あの頃に比べ俺はずっと強くなったし、自分の体力や魔力の限界も把握してガキの頃みたいに無謀をすることもほとんどなくなった。
それにあの頃よりアベルのことをたくさん知ったし、アベルも俺のことをたくさん知ってくれた。
ずっと続いている冒険者生活の中でアベルにはたくさん心配されて、ドリーにはたくさん怒られて、あの頃よりもずっとずっと強くなったけど、俺と同様にアベルもあの頃よりもずっとずっと強くなっていて、器用貧乏な俺はアベルとの差が縮まった気がまったくしない。
きっとこれからもずっと俺はその背中を追い続けるのだろう。
たまに追いつけないことが悔しくて、ふてくされたり投げ出したくなったりする時もあるけれど、追い続ける背中は俺が守ってやろうと思う。
足りない部分はたくさんあるけれど、俺もアベルもお互いの足りない部分を埋め合わせながら、今までのようにこれからもずっと――ちょっぴり、かなり、すごく面倒くさい時も時々結構あるけれど、この居心地の良い関係がこれからも続きますように。
グラン&グルメ 小話集 えりまし圭多 @youguy
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