第9話 伝説
巷では辻斬り男と呼ばれている男の名は浅井 蔵敷(くらしき)白老学園で数学の教師をやっている
浅井は瞬く間に葬儀屋の懐に入ってしまった。しかし
「ククッ遅い遅い、運動不足なんじゃないのぉ?」
刀が引き抜けない
なぜなら当然、刀の柄の頭に葬儀屋の足が置かれているからである
「実力差が分かったかよ? お前と俺の間にはたっかいたっかい実力と経験の差ってヤツがあるわけだよ、今刀を収めたら命までは取らないで置いてやるよ、だから――」
「きぇええええええええ!!!!」
完全に狂人の世界に精神がイッてしまっていた浅井が葬儀屋の制止など聞くわけもなかった。
浅井は腰にもう一本ぶら下げていた小刀に手を伸ばそうとする
結果は言うまでもなかった。浅井の指が小刀に着く前に首が飛んでいた。
「やめとけばよかったのに……と言うのは余計なお世話か、クククッ何がお前をそこまで駆り立てたんだ?」
葬儀屋は浅井の遺体を漁り彼が白老学園の教師だと知る
「ほぉ、白老学園か……昨日俺に依頼をしてきた男もソコの教師だったな」
紅詩もそこの生徒だと葬儀屋は知っている
「偶然の一致ってヤツか? それかその学園に変人共が集まるなにかがあるのか……? なぁそこのお前はどう思う?」
と葬儀屋が言うと物陰から高校生ぐらいの少女が姿を表した。
「ほぇーもう少し図体でかいイカつめの男が現れると思ってたんだが、想定外だな、お前、なんの用だ? 偶然鉢合わせたって感じじゃねぇよな?」
「私は、貴方を待っていた。ずっと」
「……おい、マジかよお前もワケワカラン戯言ほざき系人間パート2か? 勘弁してくれ……」
「私みたいな電波ちゃんはお嫌いかな?」
「へぇ自分でイカれぽんちだと自覚があるとは偉いこったな、で? なぜ俺を待ってたんだ? 依頼でもあんのか?」
少女は葬儀屋にえへへと照れくさそうに笑う
「依頼なんてないよ? 私はね貴方と会いたかったの貴方みたいな本物の伝説と……他はぜーんぶ偽物でホント拍子抜けだったからね、今のワタシ、すっごくドキドキしてるよ……『葬儀屋さん』」
「伝説ねぇ、オタクみたいな女子高生にまで知れ渡ってるとは恐悦至極に御座いだな」
「その伝説は歪んだ形で世間に広まってるんだけどね、巷で都市伝説として流れてるその伝説は真夜中の2時に0000とうって電話をかけるとかかるわけがない電話がかかりその電話の向こうにいる人物に願
えばなんでも夢を叶えてくれる神様のような存在それがこの国で流行っている伝説、『葬儀屋さん』」
「はぇ~俺も偉くなったもんだねぇー、まぁそういう話は俺ぐらいのスーパー殺し屋にでもなれば他所でもよくある話だ別に珍しいもんでもないな」
「えぇ、他国でも貴方はあらゆる形で伝説となって名が残っている、しかしそれら全ての伝説は歪められている、正しい形で伝わったケースは一度もないね、人々の間で響き合う口承というのは面白いものね」
少女の長い一人喋りを呆れ顔で聞いている葬儀屋
「その長い長いおしゃべりに付き合ってやってる礼として一つ俺の質問に答えてくれないか?」
「どうぞ」
「お前は白老学園の生徒か?」
「その通りだよ、気になる? 貴方に携わる人間の不思議な共通点」
(ふーん、なんでもお見通しって感じの面だな、もしかしたら紅詩のことも知ってるのか? あのサムライ野郎に気が付かれず尾行しこの場にいる時点で普通の高校生ではないのは確実だが……)
「あぁ、自己紹介が遅れたね、私の名は亜門(アモン)百合(ユリ)白老学園の中等部三年……そしてまたの名を~『サンビアンカ』」
「……へぇー」
「さすがの貴方でも驚いた? この衝撃の事実……えへへ私がサンビアンカだよ~」
「……」
(なるほど、俺がサンビアンカを追っているという情報まで持っている訳か。こいつの持ってる情報網どうなってやがんだ? 情報の入りが警察機関よりも鋭い上に早いぞ……)
「私を殺す?」
「クククッお前が言ってるだけでお前が本物のサンビアンカとも限らないだろ、誰かに指示されて言わされてるだけかもしれない」
「ありえない話じゃないね」
「そもそもサンビアンカは個人を指す名称じゃなく組織の名前を指してる可能性も高い、俺の情報を持ってるのがその証拠だ。お前が俺がサンビアンカを狙ってるという情報を個人で手に入れられるとは思えな
い、だからお前を今ここで簡単にぶっ殺すよりもお前の目玉でもくり抜いて尋問をした方がいいという結論に至ったわけさ」
「私を鹵獲するつもりなんだ」
(なんて言ってるが……どうする? 近くに用心棒が潜んでいる様子もないが近づくべきか? 全くの無防備に見せかけてるがなにか俺を貶める罠でも仕掛けてるか、完全にイカれちまってるのか……どちらにせよ、あまりお近づきになりたくはねぇな)
殺し屋と葬儀屋 @Tomboy4649
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