第8話 五つの事件

『上野公園 集団首つり自殺』



 ホワイトボードに貼り付けてある秋葉原とその周辺の大きな地図にそう書かれた便箋を貼り付ける黒髪ロングの女子高生が言った。


「これで五つ目になる」

「へ?」


 と言ったのは鈴


「この近辺で起こった奇妙な殺人事件のことだ」


 その地図には他にも 

『首なし男』

『アニマルズ』

『ショータイム』

『辻斬りマン』

 と書かれた便箋が貼り付けられていた。


「あ、あのぉ……それよりも私達なんで呼ばれたのですか?」

「キミ達がこの『オカ研』の部員だからに決まってるだろ、集団自殺だぞ! こんな事が起きたのだからオカ研の部員たるキミ達は呼びつけられるのは当然! いや運命(デスティニー)だ!」

「勝手に人の運命に変なルール設けないで貰えますか? 朝日部長」


 朝日 紀(かなめ)

 このオカルト研究会の部長であり学園一の問題児であり変人として有名な女子高生


「うーん? 今日はやけに反抗的だな鈴? お前の親友も今日はいつも以上に静かだし何かあったのか?」

「別に、なにもありませんよ、用事はこれだけですか? それならこの辺りでお暇したいんですが……」

「こんな摩訶不思議で楽しいことが起きてるというのに、それを差し置いてまで重要な用事なのかね? それは」

「関係ないでしょ」


 うっさいなぁと小声でいう鈴


「こ、こら鈴」


 とそんな反抗的な鈴を注意する紅詩

 しかし朝日はそんな下級生の反抗的な態度を意に介すような素振りもみせず続けた。


「今、熊沢と宮国を現場に向かわせて写真と証言を集めさせてる」

「人の話を聞けよ!」

「ふん、いやだ!」

「こ、こんのぉ! 市中引き回しの末釜茹での刑に処するぞ!!」

「釜茹で程度で五才の頃から熱さ五十度の湯にも余裕で浸かっていて巷では”ザ・コールドハート”と呼ばれ恐れ称えられていたこの私を溶かせるかな?」

「……ま、まじで……なんでこんな部活入っちゃったんだろ……紅詩と一緒に演劇部とかそういう女の子ぽい部活に入りたかったのに……」

「それはお前達が「この部活に入れて下さい~朝日さまぁ」と泣きついてきたからだろう?」

「アンタが無理矢理、私達をこの部活に入れたんだろうが……」

「びっくりするほど強引な記憶改竄だったね……」

「バカか? 今はそんな細かいことを気にしてる場合ではないだろう? キミ達は最近部活をサボり気味だったからな、先ずはこの四つの事件の概要から説明してやる、親切だろう? お優しい部長様のお優しいご配慮が五臓六腑に染み渡りますわぁと言え」

「……」

「……」


 その朝日の発言をスルーする事にした二人

 二人のスルー力の高さに感心しながら朝日はホワイトボードの前に立ちさながら大学講師のように事件の概要を説明し始めた。


 第一の事件 首なし男

 被害者の名は碇 学 職業はサラリーマン

 事件が発覚したのは今から三週間まえのこと

 秋葉原の駅の男子トイレの個室で首のない男の死体が発見された事件、死因は出血性ショック死

 首から上のない死体があんな人気の多い所のトイレに放置されてたというだけでも奇妙かつ猟奇的な事件だが……この死体。心臓と腎臓も抜き取られていたらしい


「……ってことはその内臓を抜き取って裏で売り払う為に殺したってことだねぇ、まったく馬鹿なことをする連中もいるもんだ。ね? 紅詩」

「うん……でもそれだけならなんで駅のトイレなんて所に遺体を運んだんだろう?」


 ほぉ運ぶか、紅詩なぜこの死体が運ばれたモノだとわかった?


「え……えっと、だってトイレの個室で首なんて切断したら出血と臭いですぐにバレちゃうだろうから、別の所で殺害して首と内臓を取ってわざわざ駅のトイレに運んだんだろうなぁって」


 ふん、流石は紅詩、今日も冴えてるな

 その通り死体の周りに殆ど出血の痕跡が発見されなかった事から殺害現場は別だと警察も発表している

 しかも出血の痕跡どころか未だに死体の頭部は発見されていない

 そしてもう一つ内臓は生きてる時に麻酔なしで摘出されたと言われている

 体内から麻酔の成分が検出されなかったらしい


 それを聞いておちゃらけムードだった鈴と紅詩も思わず表情が強張る


「まぁ首なし男はこの辺りでいいだろう、今回はあくまでもサボり気味な不良部員たちにサラッと事件の概要を伝えるのが目的だからな」


 第二の事件 アニマルズ

 被害者の名は発表されていない、発表されない理由は不明だが被害者は三人で日本人ではないという話だ。

 事件が発覚したのは首なし男が発見された二日後のこと

 死体が発見されたのは台東にあるマンションの一室

 部屋から異臭がするという隣人の通報がありマンションの管理者が調べたところ死体を発見

 死体の腐敗が進んでた所から事件が起きたのはそれよりずっと前と言われている、死因は刺殺による出血性ショック死

 三人の死体は椅子に縛り付けられて三角形を作るように向かい合わせに座らせられており、それぞれの死体には三十箇所に及ぶ刺し傷があった。凶器は刃渡り約20cmの包丁、凶器は三人が座らせられていた椅子の中心に転がっていたらしい


「……なんでアニマルズ? ていうか誰がそんなふざけた名前つけたの? 不謹慎にも程があるでしょ……」


 私だ。それと不謹慎など知らん、殺されたのは赤の他人だ。それで悲しんだり配慮を見せるほど私は人間は出来ていない


「……今からでも退部しようかな」


 それぞれの死体には動物のお面が付けられていたんだよ  

 一人には猿

 一人には狐

 一人には豚

 のお面がね

 

「ザッ猟奇殺人みたいな事件だね、犯人がお面をつけたのかな?」


 その可能性が高いだろうな

 理由はもちろん分からんが

 おかげで事件名をアニマルズかZOOにしようか二日間ほど悩んでしまった。


「お気楽な悩みですね……」


 まぁこの事件はこの辺でいいだろう

 次の事件に行こう

 

 第三の事件 ショータイム

 被害者は有名男性アイドルの四条 光(本名 山内 勘助)

 この事件は連日ニュースになったからキミ達も知ってるかもしれないがこのアイドルがサマーサマーという番組の生放送中に拳銃自殺をした。

 

「あぁ……この事件、びっくりした。別にファンではなかったけど動画とかで結構顔見てたから少しショックだったな……」


 そうこの四条光というアイドル、動画配信も行っていてチャンネル登録数も100万を越えていて決してアイドルとして落ち目などではなく人気絶頂期だった。


「うーん、そういう時の方が色んな人から酷いこと言われて精神不安定になる人が多いって聞くし、それが原因だったんじゃないの?」


 だったとしても番組の生放送中にわざわざ拳銃自殺をするか? 自分の部屋でこっそり死ねば良かっただろ? 実際殆どの有名人はそうして死んでいる


「注目を浴びたかった……とか?」


 それもありえるが……どうにも腑に落ちない、そもそも拳銃なんて物何処で手に入れた?


「サンビアンカだ。彼はサンビアンカと名乗る人物からこのGlock19を購入したという」


 ……その情報の出所は?


「山内の友人だ。悪いがこれ以上の事は教える事はできねぇ匿名という条件で情報を俺に流した訳だからな」


 素晴らしいなその程度の裏付けでそれがガセじゃないと言い張ってる訳か? 泣けるね


「勘弁してくれよ、俺はこの辺りじゃ顔も知れてるし信用もある、客にガセを掴ませて恨みを買うようなヘマはしない……特にアンタの場合は尚更だ。葬儀屋」

 

 クククッまぁいいや信じてやるよ


「余計なお世話かもしれんが言って置くこの事件、追うってんならアンタ、用心した方がいいぜ」


 なんだ? この事件には公安やらCIAやらKGBやらMIBやらが絡んでるとでも言い出す気か?


「……いやそうじゃないが……この街には理由は分からんが世界中から凄腕の傭兵やら殺し屋が集まってきてるって話だ。もしかしたら狙いは……」


 俺かもって? はっはーん、それはそれは恐ろしいな


「いや、アンタじゃないアンタを狙う訳がないだろ、裏の世界でアンタを狙おうって奴はもう存在しねぇさ、裏の世界で長年活動してる凄腕の奴らなら尚更、アンタの怖さはよく分かってるだろうからな」


 じゃあ、誰が狙われてるんだ? 世界中の無法者達によ


「先程話したサンビアンカ、奴の抹殺の為に関東牢それにBKがその無法者達に多額の金を出したという噂だ」


 へぇ関東牢はともかくBKの連中が人殺しを他所に委託するとは驚きだな……つまりそのサンビアンカとやらの殺しを自ら行う事を諦めた。とそういう訳だ。


「この事件の裏に潜んでる奴はそれほどの奴……という事だけはアンタに伝えておこうと思ってな」


 お前のそのお気遣いに感謝感激雨あられだな、キスしてやろうか?


 ――――――


「という話をした十四分四十一秒後に今俺はジャパニーズカターナを持った時代遅れのサムライに命を狙われている!」


 そう一人語る葬儀屋の前には刀を持ったスーツを着た男が立って居る


「何を……言っている?」

「なーに、あまり気にしないでくれよ、こちらの話さ、ではそろそろお前の話を聞こうか? 一応聞いておくがなぜ俺の目の前にジャパニーズカターナを持って現れたんだ?」

「お前を、殺す為」

「だろうな、そりゃそうだ。無駄な問答をさせて悪かったよ、それじゃ次、なぜ俺を殺そうとすんだ? 依頼されたのか?」

「……俺は誰の指図も受けない、誰かを殺す時は……自由でなくてはいけないから……」


 と語るスーツ姿の男の表情と声を聞き本気でそう言っているのだと葬儀屋は判断した。


「マジで? ただのイカレぽんちかよ、サンビアンカに依頼された! とかだったらこちらの手間も省けたんだがな……」

「ジャパニーズについて詳しいお前なら、知っているだろう……コイツは辻斬り……この世で最も自由で美しい行為だ」

「……あっそ」

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