第7話 白老学園

「この辺りで好き勝手にやるとは誰の了解を得てるんだ?」

「だ、だれって」


 とある学園の制服を着た青年がギャング面の男の顔を踏みつけている


「この辺りは俺の縄張りだ」

「わ、わかった。すまなかった」

「他の連中にも伝えて置いてくれ白老(しらおい)の沢井(さわい)の目が黒い内はここでは好き勝手にはさせないとな」


 と沢井は言うとギャング面の男の顔から足を離すと後ろで待機していた生徒から鞄を手渡される


「お疲れさまです。”会長”」


 沢井は腕時計をチラッと見る


「なんとか集会には間に合いそうだな」

「はい」


 というと沢井は颯爽と去って行った。



「それにしてもコテンパンにやられたねぇアンタ」


 と言いながら大男の頭部に包帯を巻いている女性が一人


「すいません、姐さん」

「まぁいいさ、アンタがやられるんだから誰が行ったって同じさ、それにしたって”佐藤”アンタついてるね、いま巷を騒がせてる葬儀屋と出会えるなんて」


 と呑気に言っている女性に横やりを入れてくる老人


「なにをいっておるんだ。不味い、不味いぞ! このまま葬儀屋がココを襲って来たらどうするつもりだ」


 と狼狽している老人を呆れたような視線で眺める女性


「なーに言ってんだよ、金貸しがビビってどうすんのさ、こういう時こそドーンとしてようや」

「そ、そうは言っているがな……お前は葬儀屋の恐ろしさをしらんのだ」

「驚きさね、アンタ葬儀屋と面識があるのかい?」

「あぁ……昔、少しな」

「それは初耳だな、灰平(ハイヒラ)さん」


 聞きなじみのない声が事務所に響き渡る

 事務所にいた全員が声のした玄関に顔を向けるとそこには


「あら、こんにちわ、鹿沼さん」


 玄関に立っていた人懐っこそうな中年の男性は鹿沼と呼ばれた。

 関東牢の鹿沼


「やっほー鈴ちゃんお久しぶりだね」

「えぇいつ以来でしょうか? 以前お会いした時は私がまだ小学生の頃でしたわよね?」

「驚いたなぁあの鈴ちゃんがこんな美人さんになってるなんてさ」

「ふふ、相変わらずお上手ですね鹿沼さん。今、お茶をお出ししますね」

「いやいや、構うことはない、このあと用事があるからすぐに出て行くよ」



 鹿沼は話を終え自分の車へ戻る

 車には自分の部下が運転席に座っているので助手席に座る


「お疲れ様です」

「いやはや、時が過ぎるのは早いね……あんな小さかった鈴ちゃんが今ではもう大人の女性だ」

「昔からの知り合いだったのですか?」

「え? あぁそうなんだよ、彼女のお父さんには昔よく世話になっていてね、家に行った時に鈴ちゃんと一緒に遊んだりしてたんだよ……そんな彼女ももう高校生」

「え!?」


 部下が思わず声を上げた。

 そのせいで鹿沼のビクッと跳ねる


「ど、どうしたの? やめてよね、びっくりするだろう? ぼく心臓が悪いんだから労ってよ」

「すいません……少し驚いて、彼女は高校生で金貸しをやってるのですか?」

「そうだよ、確か……二年生だったかな? この近くにある白老学園に通ってるって聞いたよ」


 高校生が金貸しとは世も末だと思いながら鹿沼の部下はハンドルを握った。


「白老学園です」

「は?」


 は? と言ったのは葬儀屋

 は? と言われたのは紅詩


「だから白老学園です。そこに私は通っています。これ生徒手帳です」

「……お前、高校通ってるの? 殺し屋をやりながら」

「はい」

「そんな真っ直ぐな目で「はい」と言われてもな、すげぇ時代になったもんだ。現役女子高校生殺し屋とはな、オレなんて黒い服ぐらいしかアイデンティティがないからな、今の時代の殺し屋は服装が奇抜ってだけじゃ目立てないのか」


 と言いながら葬儀屋は紅詩から手渡された生徒手帳をみる


「黒澤 紅詩……2年C組……普通科……ふーん……顔写真が現物よりブサイクだな」

「あ、あまりじろじろ見ないで下さい!」


 と言って恥ずかしそうに紅詩は葬儀屋から生徒手帳を奪い返した。


「クククッで? その高校は通い続ける気なのか?」

「……こんな状況になってしまいましたから、退学するつもりです。みんなを危険な目に遭わせてしまうかもしれませんし」

「へぇ素晴らしいTHE優等生って感じの回答だ。非常にに当たり障りなくつまらない」


 紅詩は懐から退学届けと自筆で書かれた封筒を懐から取り出し、その封筒を見ながら短い間ながらも自分に良くしてくれたクラスメイト達や先生たちに思いを馳せる


「お前、字汚いな」

「あ、あまりじろじろ見ないで下さい!」


 次の日

 紅詩は退学届けを持って通い慣れた通学路を歩いていると


「はぁい! 紅詩おはよ!」


 と言って後ろから紅詩に抱きついてきたのは紅詩の親友・十六夜(いざよい) 鈴(すず)

 

「おぉ、今日も相変わらず豊満ですなぁ」


 と言いながら鈴は紅詩の胸を揉む


「も、もぉ! 鈴! やめてよ! もう! エッチなんだから!」


 顔を真っ赤にしながら鈴を振り払う紅詩 


「ふっふっふ、そんな物騒なモノを持ってる癖にこんな簡単に後ろを取られる方が悪い!」

「……物騒って……また意味わかんないこと言って……」

「それにしても今日はどうしたの? 何時もより早いよね?」

「う、うん……」


 鈴の胸揉み事件のせいで一瞬頭から消えていた退学という言葉が再び頭の中に蘇る

 こんな風に鈴と馬鹿騒ぎ出来るのも最後かと思うとこみ上げてくるモノがある

 涙を浮かべる紅詩を見て鈴は驚く


「ど、どうしたの? ご、ごめん……そんなにいやだった?」

「違うんだ。ごめんね鈴、学校に着いたら教えるね」

「……うん」


 今までの明るい雰囲気も何処へやら、あっという間に暗雲の立ち込める朝の登校になってしまった紅詩最後の登校 

 それもあっという間に過ぎ、今では校門の前に立っている


「おはようございます!!!!!」


 元気のよい挨拶と呼ぶには些か大きすぎる声で校門の前に立ちしているのは生徒会の生徒たち

 その先頭に立っているのはそんな生徒会員たちを取りまとめる生徒会長 沢井 連太郎(れんたろう)

 七三分けと黒縁メガネが彼のトレードマーク


「おはよう、二人とも、時間にはまだ余裕がある急いで転ばないようにな」

「おはようございます。先輩」

「はいはい~おはようございまぁす。会長さま」


 沢井はニコリ笑う


「どうも、あの会長信用ならないのよなぁ……」

「鈴は前から沢井先輩のことあまり好きじゃないよね、良い先輩だと思うんだけどなぁ」

「ダメだよ紅詩、人を簡単に信用しちゃあぁいうのに限ってなんか裏があるんだから」


 裏と聞き紅詩はギクリとする


(裏があるのは私の方なんだけどな……)


 親友である鈴には自分が殺し屋をやっているとは伝えていない、彼女を巻き込まないため当然の事であったが何処か後ろめたさを鈴に感じている


「ねぇ、教室に行ったらちゃんと教えてよね、さっきのこと」

「うん」

「……紅詩は私の大事な友達なんだから困ったことがあるならちゃんと相談してくれなきゃ困るよ」


 と今までおちゃらけた雰囲気だった鈴が顔を真っ赤にしながらそんな真面目な気持ちを紅詩に伝えた。


「ありがとうね、鈴」

「……ふん」

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