第10話


俺達は現在上村さんたち狩漁隊と共に東京コロニーなる所に向かっている。


狩漁隊は全員で10名ほどいる。現在は荷車を引く人が3人と、その荷車を囲うようにして6名の狩漁隊が周りを警戒している。

ちなみに俺らは上村さんと一緒に荷車のすぐそばを歩いている。


相変わらずツタに覆われた建物の間を通る。

路肩に止まった錆びた車やバイクに自転車。中には建物に突っ込んでそのまま停車したのだろう車もちらほらと見受けられる。


そしてそのどれもが建物と同じようにツタやコケに覆われた状態で放置されている。


「そういや、あんちゃんらは能力とかはあるのか?」


帰りの道すがら上村さんがそう質問してくる。

やはり能力があるのは俺達だけではないようだ。


「僕が博識って能力と、能力進化って能力を持っていて・・・」


そこまで言って大河に目を向ける。


「俺が身体能力超強化と金魔力全吸収って能力を持ってます」


大河も俺の意思を察して紹介する。


「ふ、・・2つもあるのか?しかも2人とも?」


「はい、一応・・・。ふつうは2つも無いんですか?」


上村さんの反応から予想して質問する。


「あー、少なくても俺は聞いたことねーな。そもそも全員が能力を持ってるわけでもないし持っていても1つだな」


「へ―、そうなんですね」


「目が覚めたのも遅かったしあんちゃんら2人には何かあるのかもな」


確かに聞いた限りでは他とは少し違うようだが何かに巻き込まれるのも面倒なので今後はあんまり言わないようしよう。


「上村さんは何か能力とかあるんすか?」


大河がそう質問する。


「あるには、あるが・・・。あんま能力のこととか人に言わない方がいいぞ、余計なトラブル呼ぶからな」


「なら、簡単に聞いてくんなや」


それはそう。人に聞くだけ聞いておいて自分は言わない気でいんのかこいつ。


「ち、ちげーよ、一応そのことは教えとこうと思ってな。俺は硬化って能力を持ってる、レベルは2だ」


一応その辺のマナーみたいのはあるのね。よかった。

それにしても硬化か、そのままの意味だとかたくなれるのかな?

汎用性があって無難に便利そうな能力だな。


「上村さん、魔物です!」


大河が上村さんの言葉にそうなんすね。と適当に返していると狩漁隊のひとりからそう報告が入る。


見ると前方に巨大なネズミのような魔物がいた、灰色の体毛に覆われた一頭身の魔物だ。

その魔物はチュームと呼ばれる魔物で、ずんぐりむっくりとした体型と全長1メートルはありそうな巨大さが合わさってかなりの圧を放っている。


「回避はしない、このまま戦闘に移行する!吉岡、田島、市原はあいつを囲め!」


先ほどまでお喋りをしていた上村さんは瞬時に顔つきを変えてそう指示を飛ばす。

指示を受けた3人もすぐにそれを聞き入れ魔物を囲む。


「綿引!」


「わかってますよー」


綿引と呼ばれた女性は気の抜けた返事を返しつつ取り囲んだ魔物へと走って向かう。

その両手には包丁が握られている。


走った勢いのまま魔物に接近するとその勢いのままチュームに包丁を突き刺す。

だが、チュームも抵抗しようとその女性の頭にかぶりつこうつする、女性は包丁を刺した状態のまま手から離し

その攻撃を屈んでかわすと続けざまにもう一本の包丁をチュームの腹へと突き刺した。


「よし、綿引は離脱!後は吉岡、田島、市原で対処しろ、他の者は引き続き周囲の警戒にあたれ!」


上村さんが指示を飛ばすと囲んでいた3人が斧やスコップでチュームを攻撃し、難なく仕留めた。


「スゲーな・・・」


横で大河がつぶやく、俺もその一連の行動に見入っていた。

的確な指示を飛ばしそれを瞬時に再現する連携力、綿引と呼ばれる女性の卓越した運動能力。

戦闘に加わっていない人たちも戦闘を見ながらも周りを常に警戒していた。


一言で表すとその光景は異常だった。


少なくても崩壊前の世界では考えられないことの連続だった。

2か月という短い期間が人間をこの環境に順応させたのだ。


本当に社会が崩壊したのだと強く実感させられた。

もう前の社会に戻ることはないのだと。


呆けている俺達をよそに上村さんたちはチュームをパンパンの荷車に無理やり乗せて再び歩き出した。


「す、すごかったすね・・・」


大河が上村さんに語り掛ける。


「おう、今の魔物はチュームって言ってな、あんぐらいなら余裕だな。まー2人だけでここまで来れたあんちゃんらに比べたら大したことじゃないんだろーけどな」


上村さんが得意げにそう返す。


ん?俺ら?少なくても今の俺らじゃ絶対勝てない相手だろうね。


「ところでさっきから気になってたんですがディグの魔法は使わないんですか?」


話題を変えるように質問する。


「ディグの魔法は便利だけどよう、回収できる素材が極端に減っちまうからな。持ち運べる余裕があるならコロニーに持ち帰ってから解体した方がいいぜ」


なるほど、確かに安全に解体できるならそっちの方が素材を多く回収できるだろう。

俺がディグで回収できる素材はせいぜい3つほどだ、大河なんかディグをしたらそのまま魔物全体が光になって消えていった。

詳しいことはわからないが、おそらく魔法をかける人によって回収できる量が変わるのだろう。


ちなみに素材は、薬や塗料、武器の材料やらとにかくいろいろなものに使えるらしい。これもなぜかわかる情報だ。


そんなことを話しながら歩いているとちらほらと周囲に他の人たちが見て取れるようになってきた。

2つ目の隅田川にかかる橋を越え、チューム以外にも魔物が現れたが危なげなく倒していた。


今は東京駅のすぐ近くまで来ている。


「そういえばコロニーにはまだ付きそうにないんですか?」


俺が質問する


「んー、どうだろうな、ここはもうギリコロニーの中って言ってもいいんじゃねーかな」


「え、コロニーってそーゆー感じなんですか、もっとこう塀とかで囲まれてるみたいな感じだと思ったんですけど」


「そんなもん誰が作るんだよ」


「確かに・・・」


こうして俺たちはなんかヌルっとした感じで東京コロニーに到着したのであった。

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阿呆、うろうろ。 蟹の味忘れた @kaninoaziwasureta

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