第9話


「おう、田島見回りありがとなって・・・・、その2人は誰だ?」


俺らが火事場泥棒の集団に近づくと

その中でも大柄で茶色い髪をオールバックにしたいかついおっさんがそう話しかかてきた。


「上村さんお疲れ様です。実は_______」


田島さんがそう返すと俺らのこれまでの経緯を説明しだした。


____


「なるほどなー、にしてもたった2人でここまで来れたなんてあんちゃんらスゲーな!

あ、俺は上村剛(かみむら つよし)ってんだ、一応この狩漁隊(しゅりょうたい)のリーダーをやってる、よろしくな」


一通りの説明が終わったのか上村と名乗る男が元気よく話しかけてきた。


「いえいえ、運がよかっただけです」


俺らは軽く自己紹介をすませそう返す。


「運だけじゃここまで来れねーよ。まー、腹も減ってるだろうし飯でも食いながらその辺いろいろ話し聞かせてくれや」


そういうと上村さんは他のメンバーを集めて軽く自己紹介をしてから早速料理の準備を始める。

俺らも手伝いを申し出たが疲れているだろうから休んでろとのことだった。


出来上がった料理は鍋だった。

上村さん曰くこれが一番簡単で確実にうまいらしい。


食べてみるととてもおいしかった。

ていうか調味料が普通に使われていた。

なんなら隕石が落ちる前の世界で俺が作った鍋よりもおいしかった。


普通に傷ついた。


食事をとりながら火事場泥棒集団と話し、たくさんの情報を得ることができた。


まとめるとこんな感じだ。


人々が目を覚ました当初は社会全体がひどく混乱し、中には暴徒化する人々も少なくなかったらしい、

というのも最初は魔物と呼ばれる存在がスライムぐらいしかおらず、魔物に殺される危険がなかった為

崩壊した社会を逆手に取り、なんでも好き放題やる連中がいたのだとか。


だが、日を追うごとに魔物の種類が増え、危険度も増していくと、

人々は協力するようになり自然と暴徒も沈静化していったとのこと。


そして人々はより安全性と快適さを求め密集し、自然と人が多く住むエリアがいたる所にできた。それを【コロニー】と呼んでいるらしい。

田島さんが最初に言っていた【渡り】とはこのコロニーとコロニーの間を行き来している人たちのことを言うらしい。


と、そう説明する上村さんたちは【狩漁隊(しゅりょうたい)】と呼ばれるもので、そのコロニー周辺の魔物の狩りや、

現金に本、酒や日用雑貨など今でも利用価値のあるものを回収してコロニーに持ち帰る【狩漁師(しゅりょうし)】の総称らしい。


・・・・・これじゃ、暴徒が沈静化したというよりは、全員が暴徒化したと言う方がただしいんじゃ。

なんて思ったがあえて言うことじゃないから言わない。


それと、昨夜に見た空を照らし明滅していた光はやはりモールス信号で、コロニーどうし連絡を取り合っているのだとか。

大河が、渡りに頼むのじゃダメなんすか?と質問をすると、

渡りもそんな頻繁に出入りしているわけじゃないらしく、より素早く確実に情報を伝達するにはモールス信号が一番適しているとのこと。

だが、ライトアップに使う道具の作成レシピやモールス信号に使われる符号は、渡りに頼み各コロニーに普及しているらしい。


以上が上村さん率いる火事場泥棒集団、もとい狩漁隊のここ2か月間の説明だった。


「町中がこんなんになった理由はまだ、わかってないんですか?」


俺が上村さんに聞く。


「町だけじゃねー、どうやら日本全体が同じような状況らしいが、・・・まだ理由はわかってない」


「そうなんですね・・・」


なんとなく予想はしていた。


「ああ、ただな。直接的な関係があるかはわからないが、手がかりを知っている可能性のある人物は噂されている」


「誰なんですか?」


そう聞くと上村さんがなんの調理もされていない人参を丸々1本投げてきた。


・・・?

とても立派な人参だ。


「・・・なるほど、この人参さんが何か知ってるってことなんすね」


と、大河。


「・・・いや違う、それは普通の人参さんだ」


「・・・普通の人参さんなんすか?」


「そうだ、普通の人参さんだ、だが普通の人参さんじゃない」


「・・何言ってるんすか、頭大丈夫ですか?」


「やめろ」


俺が大河のお尻を鉄パイプで軽く叩きながら注意する。もっとも全然効いていないが。


「・・・・いやすまね、混乱させちまったな、とりあえず2人ともそれを食ってみろ」


一瞬の静寂の後上村さんがそういうので、俺たちは言われるがまま生の人参さんを口に運ぶ。


これは・・・。


「うめぇ・・・」

「うま・・・・」


思わず声がこぼれる。


その人参さんはとてつもなくおいしかった。


「これ、あれか、俺知ってるぞ・・・・なんて言ったっけ・・・」


「女神の堆肥だろ」


大河の言葉に俺がサポートを入れる。


女神の堆肥とは隕石が落ちる前の農業界で覇権を握っていた肥料のことである。

その堆肥を使えばどんな野菜も、健康に、早く、大きく育つ、そして何よりも野菜自体がとてもおいしくなるのだ。


だが問題点もあり、出荷数が少ない上にいや、だからこそというべきか、とても高い、さらにネーミングセンスがあれとういうデメリットもあるが

畑にかかわりがある人間は皆喉から手が出るほど欲しがっていた。


そして、俺は納得した。鍋がとてもおいしいことに。


そりゃーこんないい素材使ってたらおいしくもなるさ。


が、


「そう思うだろ?だがそれは女神の堆肥なんてたいそうなものは使ってない。何なら、その辺に生えてたやつだよ」


「え、その辺にですか?」


俺が聞く


「そうだ、実は野菜は結構その辺に自生しててな、注意して探せばゴロゴロ野菜が取れる」


言われて周りを見渡す。

すると10mほど先にある植樹帯(しょくじゅたい)にジャガイモの葉っぱがなっているのが分かった。

今までモンスターに警戒しているあまり植物まで目を向けていなかったのだ。


「なるほど、たしかに・・・。でも、それが何か変化した町と関係あるんですか?」


「それがよう、この自生している野菜はどれも、時期も関係なく生えてくるし、成長スピードも規格外に早いんだ」


「・・・・成長スピードが速い」


「そうだ、おまけにうまいし、でかいし、健康だ。まさに女神の堆肥の上位互換みたいなもんだなって、ここまで言えばわかるか?」


上村さんが聞いくる


どういうことなんすか?と質問している大河を無視して俺はボソッとつぶやいた。


「杉田一誠(すぎた いっせい)・・・。」


「そういうことだ」


上村さんが満足げにうなずいている。

杉田一誠とは隕石が落ちる前、居酒屋で大河と話していた巷を騒がせていた研究者だ。

ちなみに、大河の高校の時の先生らしい、なんの先生かは大河も覚えていないようだが。


「なんで杉田のやつが出てくるだ?」


話に取り残された大河が質問してくる。


「杉田一誠がなんであんなにニュースでとり上げられてたかわかるか?」


俺が大河にそう質問する。


「あれだろ、植物の成長を・・・・」


そこまで言って理解したのだろう大河がなるほどといった感じで口を紡ぐ。


そう、杉田一誠が発表した研究内容は、時期を問わず植物の成長を著しく早め、かつ健康に、おいしく育てることのできる

新たな物質を発見したというものだった。


将来訪れる可能性があると言われている食糧飢饉脱却に向け大きな期待がかけられていたが

まさに今、周囲に生えている植物がまんまそれに当てはまっているというのだ。


「そういうこった、だからコロニーの中じゃ研究の失敗が招いた人災だ、なんて言うやつもいてな」


そういわれるのも無理はない、何しろタイミングがバッチリ過ぎる。

直接関係していないにしても何か変化の理由をしっている可能性は大いにありえる。


「そうなんですね、・・・本人には直接聞いてないんですか?」


確か、杉田一誠は東京の研究所で研究していたはずだ。


「それがな、その研究室自体は東京のコロニー内にあるからよ、俺の知り合いもそこに押し掛けたらしいんだが当の本人はどこにもいなかったらしいんだ、

そんでよ、助手?っていうのか、に聞いてみたらどうやら隕石が落ちる1週間前ぐらいに急に姿をくらませたって」


「なんで急に?まだ研究成果の発表をして間もないと思うんですけど」


「その助手さんたち曰くヤクザがどうだかで逃げないとって言ってひどく怯えてたらしいぞ、

ちなみにその助手さんたちは研究と今の現状の関係性については何もわからないってよ」


「ん?ヤクザ?なんでヤクザ?」


物騒なのが出てきたな。


「そんなの俺に聞いたってわからねーよ、ただでさえ又聞きだからな」


独り言のつもりでつぶやいた言葉に上村さんがそう返してくる。なんか俺がため口使ったみたいじゃん。

でも確かにそうだよな、ただそうなると結局何も分からずじまいだな。


「まー、なんだ、もし気になるなら直接言って確かめてみたらどうだ?」


「いや、そこまではめんどくさいんで大丈夫です」


「お、おうそうか」


俺の返答にたじろぎながら答える上村さん。


「上村さん、撤収準備できましたよ」


すると、ちょいぽちゃこと田島さんが上村さんに声を掛ける。

その声に手をあげながら返事をする上村さん。


「撤収って、そのコロニーってやつに帰るんすか?昼飯食ったばっかなのに」


大河が声を掛ける


「そうだ、帰りの道も油断ならねーからな、飯は食える時に食っといたほうがいい」


「へー、こんな早くに帰るんすね」


「まーな、万が一暗くなっちまったら大変だからな、それにもう荷車もパンパンだ」


そういって親指で指をさす。

その先には魔物がパンパンに詰まった荷車が1台とその他、本やタバコなんかが乗った荷車が2台ある。


「なるほど」


「そういうことだ、あんちゃんらも一緒に帰るか?」


俺と大河は顔を見合わせる。

そして


「いいですか?」


「もちろんだ」


そういって帰路につくのだった。

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