第11話 エルフの村

足を踏み入れた途端、その空間が異質であると悟る。空気が変わった。


「おかえりなさい。ユースピアの民よ」


アメリアと同じ15歳ぐらいの見た目の少女が俺たちを出迎えた。

彼女の額にもまた赤色の石が埋まっており、耳はツンと尖っている。これがエルフの特徴だ。


「レナ……」


アメリアは門番のエルフの姿を見ると、瞳を揺らした。レナと呼ばれたエルフもアメリアに気づくと驚きで目を丸くする。


「変わってないわね」


二人は互いの存在を確認するように再会のハグを交わす。


「リアが無事でよかった」


その様子を見て俺は安心した。

アメリアにはちゃんと帰る場所があったのだ。

故郷があって、親友がいて、温かく迎え入れてくれる場所が存在していたのだ。


「紹介するわ。この子はレナ。私の幼なじみよ」


「はじめまして、勇者のみなさん」


レナは礼儀正しくお辞儀をした。

綺麗な白髪が肩からはらりと一束落ちる。

美しいその姿に思わず見惚れてしまった。

数テンポ遅れて俺たちも名乗ると、レナはにこりと微笑んだ。


「レナ。今日はあなたの家に泊まってもいい?この人たちも一緒に」


「いいよ。久しぶりのお泊まりで嬉しい!」


アメリアはスムーズに交渉をし、俺たちはそのままレナの家に向かうことになった。


「おい、あれは……」


「アメリアじゃないか?」


「どうしてここに……だってあの子は」


民家の集合地には、たくさんのエルフがいた。

アメリアの帰還に驚いたエルフたちがひそひそと話し合っているのが耳に入る。

そんな彼らにアメリアはにこやかな笑顔を見せて手を振った。アメリアのその態度に、他のエルフたちの反応は様々だった。手を振り返す者もいれば、不審な目を向け続ける者、「おかえり」と温かい声をかける者もいた。


もしかしたら、アメリアはこの村ではあまり差別を受けてこなかったのかもしれない。魔法が使えない落ちこぼれエルフでも、村の一員として大切にされていたように感じた。


「さぁ、入って」


エルフの家はそのほとんどが木製の平屋だ。

レナの家も例外ではなく、温かみのある木の家だった。


「まさか……アメリア!」


レナの母親と父親は、すぐにアメリアに駆け寄って抱きしめた。


「よく無事で……あぁ、よかった!」


「大変だったろう。おかえり」


ここでもアメリアは温かく迎え入れられた。


「……」


ロゼが下唇を噛み締めてアメリアを見ていたことに気づいた時、俺は彼女の肩を優しく抱き寄せた。

はっとした顔でロゼが俺を見上げる。


ロゼは両親に縁を切られている。城に戻ったところでこんなに温かいもてなしを受けることはないだろう。

だから、きっとアメリアが羨ましかったのだ。

自分もそうであったらよかったのに、と思っているに違いない。

他人を羨む気持ちは俺にもよく分かる。

だけど、その気持ちを嫉妬にしてはいけない。


「君たちも、長旅で疲れただろう。全員うちに泊まっていくといい」


レナの父親は俺たちのことも手厚くもてなした。

一緒に飯を食べて、風呂に入った。

レナの母親は優しく、父親は気さくだった。

二人ともすごくいい人たちだ。


レナとアメリアはまるで姉妹のようだった。

アメリアのこんなに純粋で無邪気な笑顔は初めて見た。レナといる時のアメリアはいつもより幼く、本当にただの子どもみたいだ。


「さぁ、電気を切るよ。布団に入って」


全員が布団に入ったことを確認すると、レナの父親は電気を消した。

ベッドの数は足りないので、今日はみんなで雑魚寝だ。


「おやすみ」


レナの家族の温かさに、昔の自分の家族のことを思い出す。

父親と弟と俺と3人で川の字を作ったのが懐かしい。

その日は久しぶりにぐっすり眠ることが出来た。


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うちの勇者がすぐ死ぬので俺が世話役に就任してこのパーティーをなんとかしてみせます つきこ @otsuki16

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